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「クソ! なんだってんだ! 意味がわからねえ!」
事実、最後に残った男はさっぱり意味がわからなかった。殺ったであろうタイミングだった仲間は宙に舞い、凄まじい音と共に首があり得ない方向に曲がっていたのだ。悪夢ですら生温い、地獄のような光景。
「わからなくて良いんだよー。アンタらは羊なんだから」
瞼を半分ほどしか開けていない少女は、気だるげに言った。ただ狩られるだけの存在が、己の死因を考える必要はない。ただ素直に破滅を認め、生を放棄すればいいだけ。
彼らはスケープゴート。見せしめとも表現出来る。此処でターゲットの情報をそのまま取得出来ればそれで良し。出来なければ無惨に殺して警告する。
「結城さんってのはおじさんのことかな? それとも、もう死んじゃった人たちの中に居るのかな?」
悪魔が嗤う。歪んだ口元は紅い三日月のよう。懐に銃を呑んだまま、若い衆を束ねる男は無様に腰を抜かした。
既に心は折れている。胸に当たる冷たい銃の感触すら忘却する程の恐怖。刃傷沙汰など何回も見ているが、これはその比ではない。圧倒的な暴力が、これほどまでに己の身を縛り付けることなど、彼は今の今まで知らなかった。
「い、居ない! ここに結城さんは居ない!」
「そっかー。じゃあ、何処にいるのかなー?」
悪魔が、一歩一歩、わざとらしく音を立て、近づいてゆく。ごつ、ごつ、と重苦しい音が男の耳に届いていた。死が、明確な破滅の音が、近づいてくる。
彼は目前に迫る災厄を睨みつけた。一瞬後には殺されていてもおかしくない状況でしかし、彼はメンツを捨てない。身内を売ってまで、無様に命乞いをするくらいなら華々しく散ってやる。極道とは、漢の道を極めた者たちの事。此処で突っ張らずして何処で漢を立てる。
全身の震えが止まらない。しかし、弱気は既に退散している。
彼は震える手で懐から銃を取り出し、悪魔にそれを突き付ける。状況は絶望的だが、やれることはやろうじゃないか。命を賭してでも歩むが漢道よ。
「極道をナメんなクソガキ」
引き金を引こうとしたその時、彼は手首の感覚が消失した事を自覚した。見れば、肘から先が明後日の方向を向いている。彼が発砲するよりも速く、水仙の蹴りが男の腕を粉砕していた。
「や、別に喋らなくてもいいです。教えたくなったら、教えてくれればそれで」
蹴り足はそのままで、手をひらひらと振りながら水仙は優しげに語りかけた。彼女にとって極道のメンツなど関係ない。ただ、向かってくる気があるのなら、色々とへし折ってやろう。いつまで耐えられるのか、実験するのも良い。
「拷問とかやったことがないんですよねー。死なない程度に痛めつけるとか、加減が面倒で。まあいいや。お兄さん、頑張ってー」
男は、水仙の無邪気な笑みに戦慄する。既に室内は阿鼻叫喚の地獄絵図。あっさりと逝けた奴は幸せだったのではないか。この悪魔は、情け容赦なく蹂躙してくるだろう。
彼が後悔し始めた瞬間。
ごきりと、鈍い音がした。
拷問が、始まりを告げたのである。




