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目の前のヤクザを蹴り上げたまま、水仙は礼を言った。当然、男の耳には届いていない。蹴り抜いた顎は粉々に砕け、意識はとうに頭から飛び出していることだろう。
少女は顎を貫いた蹴り足を引く。跳ね上がり、落ちてくる男。軸足で地面を噛み、ぐるりと回転しながら引いた足を更に前へ突き出す。意識を失った男の鳩尾に横蹴りがぶち当たった。水仙の一撃に、男の身体は冗談の如く吹き飛び、奥の部屋へと滑り込んでゆく。
「ひのふのみ………四人か。面倒だなぁ」
嘆息一つ。水仙はブレザーのポケットに手を突っ込んだまま室内へと歩を進める。俄かに騒ぎ始める室内。堂々と部屋の入口に立ち、少女は歪んだ笑みを浮かべた。
「命を投げ捨てる覚悟はいいですかね? まあ、覚悟が出来てなくても投げ捨ててもらいますけど」
瞼は半開き。
両手は塞がっている。
十分だ。
パーティーを始めよう。
「何――――」
言う暇もない。入口近くで棒立ちになっていた男は、既に水仙に補足されていた。リノリウムの床を滑るように、一歩で二間の距離は無と消える。呆気に取られる男の視界に映ったのは、三日月のような歪んだ笑みのカタチだけ。
「―――あっは」
滑り込んだ勢いのまま、左足で膝を狙い打つ。関節もろとも骨を粉砕した感触と共に、破壊した膝を足場にするように身体を持ち上げた。胸骨へ、正しく心臓の真上へと右膝を叩きこむ。一瞬の停滞の後、着地。
「クソガキが――――!」
一番遠くにいる男が声を上げる。遅れて反応を見せたその他二人。
だが、遅い。
着地しながら地面に沈み込むように足を撓ませる。弾けるように、跳躍。助走なしで五メートルの距離を駆けた。
宙で身を捻り、前方へ半回転。左足の踵が二人目の男の脳天へ吸い込まれる。鉄を履いたブーツは、人間の中で最も硬いと言われる頭蓋骨を容易く打ち貫いた。遅れて半円を描いた右足が床を穿つ。
「テメェぇぇぇぇ!!」
動きの止まった水仙に、三人目が匕首を得物に突撃。脇に構え、身体ごと刺突する攻撃方法は、確かに殺傷能力が高い。当たれば、の話ではあるが。
脳天を抉った左足を押し、脳漿を散らした男から自由になる。突撃してくる男は背後。まだ水仙は行動していない。
後一歩。
殺った、と男が思った瞬間、彼は浮遊感を覚えた。抉ったはずの少女の肉の感触は皆無。男の視界の中、床と天井が逆になる。疑問に思う間もなく、宙を舞った男は頸椎を砕かれ、気付く事もなく命を落とした。
「―――あっは」
少女が嗤う。その身には一滴の汗もなく、返り血も浴びていない。




