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裁定の巫女は見たくない  作者: みたらい はる


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第3話 祈祷師

「……一部だけ、欠けているな」


 三嶋の呟きは、朝の澄んだ空気の中に沈んだまま、消えなかった。


 さらは倒れた異土羅に視線を落とす。

 魂の歪みは、確かに感じ取れる。だが、欠けている“その部分”だけは見えない。


 ――やっぱり。


 自分の力では、魂そのものの形までは視えない。

 感じ取れるのは、歪みと流れだけだ。


「……取り敢えず、異土羅は魂が戻るまで、私の家にいさせるわ」


「それがいい」


 三嶋は静かに頷いた。


「妖怪の魂は、自然に再生する。欠けていても、完全に失われていなければな。時間はかかるが」


 さらは小さく息を吐く。

 だが、胸の奥に残る違和感は消えなかった。


 ――なぜ、今だったのか。

 ――なぜ、“一部だけ”なのか。


 それだけが、さらの奥底へ詰まっていき、取れそうもなかった。


 ※


「今日は客人が来るんだ」


 朝の神社の中で、三嶋はやけに落ち着いた声でそう言った。


「……客人?」


 持っていたお茶の入っていた茶碗を焦げ茶の机へ、ゴンという音と共に置いた。


「祈祷師だ。今回の件を解決するには、あいつの力が要るって思ってな」


「ふうん」


 その返事と同時に――


「おーい! いますかー!!」


 場違いなほど元気な声が、玄関の外から響いた。


「開かないんですけどー! ねえ! こんにちはー! いますよねー!?」


 どんどん、どんどん。


 扉を叩く音が、だんだん雑になっていく。


「……」


 さらは無言で三嶋を見る。


「え? 恋人?」


「何で今ので恋人だと思ったんだ?! しかも…あんな奴、恋人にするわけないだろ」


 鋭い言葉で即答だった。


 さらは、今まさに扉をこじ開けようとしている気配のする玄関へ、冷たい視線を向ける。


「確かに」


「はっくしょん!!」


 外から大きなくしゃみが聞こえる。


「ねえ! いますよね!? 今絶対失礼なこと言いましたよね!? 空気がそう言ってます!!」


 さらは一気にやる気を失った。祈祷師の勘というものなのか「失礼な事を言っている」という事がバレてしまった。


「……開けなくていい?」


「確かに、少しくらい放っておくか」


「今の相談、聞こえましたからね!?」


 扉越しに即ツッコミが返ってくる。三嶋は小さくため息をついた。


     *


「なるほど……そんな異変が起こっていたんですね」


 あの後、ドアを結局開けたが、「客人に対してなんでそんな態度なんですか?!」と、少しばかりムスッとした様子だった。

 「まあまあ悪かったって」と三嶋が意外にも場を宥めて早速話し合いへと入り、一通りの事情を話したところで祈祷師の「神楽坂(かぐらざか)(すず)」は頷いていた。

 髪型は長髪でうねりが掛かっている水色の髪。さらはその揺れる髪をただ見つめた。


「てか、なんで私も会議に参加しなきゃいけないの?」


「そりゃあ、さらも知りたいだろう? 何故祈祷師を呼んだのか」


「別にどうでもいいから」


 そう言ってさらは立ち上がった。会議なら鈴を呼んだ本人がやるべきであって、参加しなければいけない理由など思い付かない。

 それに、会議で話した内容はあとからいつでも聞けるのだ。


「おい! ちょっとで良いから話はせめて聞いてくれよ!」 


 こうして、しょうがなくさらは座り、今の状況に至っている。


「事情は分かったんですけど、私にどういう事を協力して欲しいんですか?」


 鋭い問いが投げかけられて、少しばかり下へ俯くと、三嶋らしくない真面目な顔で鈴を見た。


「……神を降ろしてほしい」


「は?」

「え?」


 さらと鈴は同時に三嶋の顔を見て困惑した表情と同時に驚きの声を上げた。


「神を降ろすって…何言ってんのよ三嶋!」


「そうですよ!! ましてや神を降ろしたとしてどうやって解決するんですか!!」


「でも、神に聞くのが一番手っ取り早いじゃないか」


 三嶋は謎の理論を祈祷師に投げかけると、さらは自分のおでこを抑えた。


「そんな理由で神が来るわけ無いでしょう!」


 さらは「何言ってんのよ」と小さく呟くと、ため息を吐いた。

 この場にいるのは面倒だと、しばらく鈴と三嶋の話し合いを聞いているだけのさらにはそう思えてしまった。ずっと神を降ろすか降ろさないかで話しているからである。

 そこで、さらはある案を思いつく。


「……私、買い物あるから二人で話しといて」


「え……!?」


「これは、やらなきゃ行けない事なのよ」


「流石に急すぎませんか?!」


 迫力のある顔で真面目にそう答えると、鈴は「困るよ」という困惑した表情になってしまう。

 だが、それに構わず背中を向け、家の中に声をかける。


「赤水鬼、陽菜。買い物行くわよ」


「え! 買い物!?」


 赤水鬼が一瞬で飛び出してくる。陽菜は水鬼に頭を優しく撫でて「良かったね」と優しく言う。


「そう言う事で行ってくる」


 さらは玄関で話し合ってるであろう二人にそう声を掛けると


「置いてかないで下さい〜!」


 と、何やら声がしたがさらは気にしなかった。


 ※


「やった! 買い物久しぶりだぁ!! あ、みてー!! これ凄くキラキラしてる!!」


 行った途端に、道端の露店に赤水鬼は吸い寄せられていた。よほど買い物が楽しいのだろうと、さらはその様子を微笑ましく見た。


「みんなで出かけるの久しぶりだね! あ、でも三嶋さんは良かったの?」


 陽菜も楽しそうで明るい声だ。


「三嶋は重要な会議があるらしいからいいのよ」


 本当はさらもその会議の一員に入っているのだが、三嶋が会議をしているのは事実なので少しばかり嘘を言っても大丈夫だろう。

 さらはため息を吐きつつも、どこか気を抜かずに周囲を見渡す。


 異土羅の件以来、街の空気がどこか落ち着かない。


 そう考え事をしていると、何やら向こうから呼んでいる声がする。前を向くと、店の前に一人の……いや、妖怪がいた。

 店の看板には「果物屋」と習字の行書体で描かれている。この店は妖怪が運営している。

 近くへ歩いて行くと、店主が手を振った。


「いらっしゃーい! さらと水鬼! それに陽菜も!」


「灰野、今日も元気ね」


 灰野とはこのとても明るい、肩に付くくらいの白髪の店主の名前である。本当は妖怪の名前があるのだが、今はこの名前で生活をしているのだ。


「明るくやんないと、商売にはなんないから」


 明るい声でそう言ったが、すぐに少し困ったような笑顔になる。


「よかったら見て行って! ……って言いたいところなんだけどさ」


 店内を見渡すと、棚はほとんど空だった。そんなに売れたと言う事だろうか、と考えていると立て続けに店主は喋った。


「雨が全然降らなくて。不作でさ。在庫がないんだよ」


「えー!? りんごは!?」


「ごめんな、水鬼。今日は無いんだ」


 さらはその言葉にすぐ反応する。赤水鬼は一瞬口を尖らせるが、すぐに首を傾げる。


「……不作ってなんだ?」


「簡単に言うと、りんごがあんまり取れないって事だよ」


「そうなのかぁ」


 陽菜は首を傾げている赤水鬼に優しく教えてあげると、悲しそうな表情で下を向いてしまう。


「最近、ずっとこんな感じなの?」


「そうなんだよ……ずっとこんな感じさ」


 店主は笑って誤魔化すように言った。

 さらは何も言わなかったが、胸の奥に小さな引っかかりが残る。


「あ、でも水鬼! 新しいおもちゃがあるよ!」


「え! 本当に!?」


「ああ、ちょっと待ってね」


 そう言うと店の奥へ行く。ゴソゴソと物音がすると、すぐにこちらへ戻ってくる。


「わあ! これはなんだ?!」


「これは駒って言ってね……」


 赤水鬼と陽菜は店主とわいわ楽しく話しているのでその引っかかりは飲み込んだ。

 三人の様子を、小さな椅子に腰掛け微笑ましく見つめ、ゆったりしていると、ドアの向こうに小さな猫のようなシルエットが見える。


「猫......?」


 さらは扉を不思議そうに見続けるとゆっくりとドアを引く。

 そこにいたのは、なんと全身が赤い毛に包まれている猫。耳の先は茶色。それだけじゃ無く、尻尾が三つあり、尻尾の先には青い炎がついているのだ。


「紅丸?」


 さらはこの猫を知っているようで近くに寄り、猫と目線を合わせると「ニャア」と鳴いて走り出して行ってしまう。


「何かあったの?!」


 そう言ってさらも紅丸を追いかけて走り去っていく。しばらく走ると、いつの間にか周りの景色は木々に遮られていた。

 そして目の前には、苔のついた小さな家のような物があった。


「小さな…祭壇?」


ーーそう呟いた瞬間だった。


「な、なにこれ?!」


 意思のない小さな妖怪である、小妖怪が地面から急に数え切れないほどブワっと出てきたのである。

 すぐに巫女の術で対処しようとするが、数が多すぎて視界が塞がれている上に、術を結ぼうとすると邪魔されてしまう。


「これじゃ、キリがない!!」


 そう言うと急に体が暖かさに包まれ、目を閉じてしまう。だが、視界を奪われるのは戦っている時には最大の弱点である。

 薄々目をゆっくりと開けると、さらの周りが青い炎の海となっている。


「これは……紅丸?!」


「ニャア」


 紅丸は返事をすると、姿を露わにする。


「ありがとね…紅丸! あとはあの祭壇よ! 案内してくれる?」


「ニャア」


 何も表情は変えずに、こちらを見て鳴くとゆっくりと炎の中を歩いて行く。

 さらも少し怖かったが、見失わないように炎の海へと入って行く。


「熱っ……」


 そう思わず呟いたが


「あれ、熱くない……」


 炎なので熱いかと思っていたが、ただ体に優しい暖かさがくっ付く。優しく抱きしめられているようだった。


「あっ祭壇が!」


 さっきまでそこにあったはずの祭壇が急に空気に溶けて行くように消えてしまう。だが、一瞬で気付いた。あの祭壇は魂が少し宿っていた。


「もしかして、奪った魂の保管所だったのかも。それに移動も出来る高性能ね」


 目の前で起こった事を口に出す。やはり魂が欠けているのは意図的であった。

 消えた空気には白い尻尾が薄らと見えた。


「白い尻尾?」


ーーその時だった。


 何やら騒がしい。叫び声のような声が街の方角から聞こえてくる。さらはすぐに街を見つめた。


 これは、悲鳴だ。


「っ……!!」


 最悪な情景が頭にちらついた。紅丸はさらの体へ飛び乗ってくると、すぐにさらは街へ飛んでいく。

 「果物屋」という看板が見えると、その前に赤水鬼と陽菜が倒れている誰かに声を必死に掛けながら、さすっている。

 さらは歯を強く食い縛る。


「……まさか。もう動き始めているのかもしれないわね――魂を集めている“黒幕”が」

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