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さくら簪  作者: 水嶋


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8/10

心中桜

「辰之進…歳取ったなあ…」


「源次郎…」


「あれから10年か…」


「…」


「そこに居るのは…美桜殿…か?」


「…はい…」


「源次郎…俺を捕らえに来たか?」


「まあ…今は城勤めだからなあ。名目上は脱藩者の追跡だ。」


「…加茂は…俺を仇だと追って居るだろう?」


「加茂殿はなあ…あれから失脚したぞ。知らなんだか?」


「そうなのか!?」


「ああ。お主の父上と兄上の執念だな。後に証拠が露見したぞ」


「そうか…そうか…これでもう俺は…思い残す事は…」


「何、馬鹿な事を申して居る。まだあるだろう、其方の隣に。」


「…」


「お前も馬鹿だよなあ。その姿にならねば見つからなかったろうに。わざわざ俺達が江戸に探索に来てる時に見つかる様な派手なことしゃがって…」


「…」


「仕方ないから俺が来てやった。」


「…」


「まあ、俺が駆けつけた時にはこの長屋はもぬけの殻で、取り逃した。」


「…」


「明日の朝に長屋に来た間抜けな俺はその報告をする事になるのか。」


「…」




「今度こそ…美桜殿を幸せにしてやれ。誰もお前達を知らない土地で」


「それでは…お前の評価が…下手したら今の役職を失うぞ…」


「まあ、元々そんな出世はしてないからな、俺は。気にするな」



「源次郎…すまない…源次郎にたのみがある…」


「何だ?金以外なら聞いてやるぞ?」


「この手紙と遺髪を届けて欲しい人がいる。俺が託されたんだがもう届ける事が出来そうにない。お願い出来るか?」


「分かった。引き受けた。」


「本当に…済まない…」


「それじゃあな。達者でな!」




そう言って源次郎は出て行った。








「美桜さん…俺は美桜さんを今でも変わらず好いています…」



「…はい」


「だからこそ…美桜さんには辛い思いはもうしてほしく無いのです…」


「…」


「俺は…これ迄にもう17人も人を殺めて来ました…」


「…」


「そんな血塗られた手の俺には美桜さんには相応しく有りません…自分だけがのうのうと幸せになる資格も有りません…」


「…」


「俺は…命を持って罪を償わなければならないと思っています…」


「私も…何の罪の無い命を…産まれさせず闇に葬って来ています。」


「…」


「もう、私はあなたから…辰之進様からは離れたく有りません…」


「…」


「お互い罪を背負っているのなら…命を持って…2人で償いましょう…」



「分かりました…」







「美桜さんには私の小太刀で私の腹を切って欲しい…」


「辰之進様には…あなたから頂いたこの簪で…私を突いて欲しい…」





そう言って俺は美桜に小太刀を渡し、美桜は以前渡した桃色の簪を渡して来た。


まず美桜に俺の腹を切って貰い、俺の意識がある内に美桜を突くとなった。


2人で向き合って座った。



美桜の力だと弱いので、俺の手を美桜の手に添えた。


「来世で…添い遂げましょう…」




そう告げて、俺は左の褄を左手で、右の褄を右手で開き腹を出し、刃を握った美桜の手を引き寄せて左脇に刃を突き立て、右に引いた





そして美桜に簪を突き立てた。


美桜はぐったりして俺に倒れかかった。







俺は…



18人目は作らない…



美桜の急所は外した。


美桜には色々なしがらみから解放されて自由に生きて欲しい。


目覚めたら怒るだろうか…




師匠の教えは、二の太刀は負け…


防御を捨てた俺は先に斬り付けられているから…


相手を倒せない


いつか天寿を全うした美桜に黄泉の国で会ったらそう言い訳しよう






介錯の無い切腹は長い時間苦しむだろう。


それは俺の終わり方に相応しいと思った。


これが俺の信じる道だ。




「お前は自分の信じる道を真っ直ぐ突き進め。名前の如く辰のように空へ向かってな。」


兄上の言葉を最後に思い出していた。




外は兄の名前…雪之進の様に雪が静かに降っていた。

俺を見守る様に…


迎えに来た様に…



大体今は30代過ぎの設定です。


現代だとまだまだ若いですが当時で言えば良い大人なので隼人がおっさんと言っています。


苦労の連続でこの頃は老け込んだ…事にして下さい。

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