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さくら簪  作者: 水嶋


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6/10

ドラゴン桜

何とかフラフラ歩きながら俺の長屋についてお竜を布団の上に転がした。


俺も酔いが回っていたので部屋の隅に寝転がった。




暫くうとうとしていたら、頬を優しく撫でられていた。


小さい頃に生き別れたので母上との記憶は無いが、母親に優しく撫でられているような心地良さがあって、覚えの無い母親の優しい夢を見ているんだなあと思っていた。


お竜をおぶって、まるで母親の気持ちが分かった気がしたから、こんな夢を見ているのかも知れない。




「目が覚めた?」


声がして薄めを開けるとお竜が微笑んでいた。


「ん…」


俺は酒で声が掠れていた。


「まるで子供みたいな寝顔だね…ふふふ」



お竜が笑っていた。

寝顔なんて恐らくマトモには誰も見せていなかったかも知れない。


用心棒で泊まり込みの時は気が張っているので、誰かが近づく気配が有るとすぐ目を開けていた。


やっぱりお竜は母親みたいな安心感があるのかなあと思った。

殺気は感じない。


「勝負に負けたからね。見せてあげるよ」


そう言ってお竜は背中を向けて着物の上半身

をはだけさせた。



「…」


言葉を失った。

確かに見事な竜の彫り物だった。


ただ、飲み比べの時や俺の背中でぐっすり眠っていたあの無邪気な感じのお竜を見てきて、似合わないなと思った。 


「私はね、2回捨てられて2回買われたんだ…」


「…」


「一度目は親にね…私の身体が欲しいって言う偉い人に受け渡された…」


「…」


「2回目はね、その偉い人が私はもう用済みだって捨てられてね、廓に売られたんだ。そこで今の元締が私を買ったの。」


「…」


「元締はね、自分の女の背中に彫り物入れるのが趣味でね。何入れたいって聞いてきたからさ…」


「…」


「竜が良いって言ったんだ…私がただ1人、本当に好いた人の名前だったから…一生その人だけを想って…忘れられないから…」




「やっぱり…お竜は…」


「ナオさんは…名前に桜を入れてくれてるんだね…」


「俺も…桜の名前は…その人だけを想って…一生忘れられないから…」





俺がそう言うと背中を向けていたお竜…美桜は此方を振り返った。

微笑んでいて、俺に抱きついて来て俺の口を吸って来た…







朝になって目が覚めると美桜は俺の隣には…

長屋には居なかった。





○○○○○○○○○○






その日の午後、長屋に無我が来た。


「どうした?」


「ナオ…俺は仇討ちの相手として追われていた。」


「そうか…」


「明日、その相手と戦う事になった。」


「…」


「相手は凄腕の助っ人を用意している。」


「…」


「恐らく俺は倒されるだろう。」


「…」


「この手紙と…俺の遺髪を持って渡して欲しい相手がいる。頼めるか?」


「…分かった」




「有難う、ナオに出会えて良かった。短い間だったが楽しかった」


「…俺も…同じ気持ちだ」


「先にあの世で待ってるぞ。お前が来たら博打を教えてやる。ははは」


「まあ、近い内に俺はお前と会えるだろう。その時に色々話してくれ。」






「じゃあな。またな。」



そう言って無我は笑いながら長屋を出て行った。


俺は、この手紙と無我の遺髪を届けるまでは死ねないなって思っていた。




美桜とは…



俺も今は藩から追われている立場だ。


美桜も金で買われて囲われている。





この先会ってはいけないのかも知れない…



そう思っていた。


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