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さくら簪  作者: 水嶋
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サクラチル


「辰之進…」


「どうしました?兄上」


「加茂殿の息子の貴久が加茂殿の推挙で今度城の指南役になるのだがな。」


「そうなんですか。」


「まあ、親のごり押しだろうが。その挨拶に師匠と足の悪い師匠に美桜さんが今日付き添って来ててな。」


「そうだったんですね」


「そこで…正興様がな…」


「?」


「美桜さんを偉く気に入ったご様子でな…」


「…」


「側室にと…申している…」


「…」


「殿のご希望は…絶対だ…断れないだろう…」


「…」


「お前が美桜さんを好いているのは知っている…」


「…」


「一応遠回しに進言はしてみるが…」


「分かりました…」


「しかし、お前が道場に期待されている事は変わりない…お前はそれでも頑張れるか?」


「はい…例え何があろうが私は剣の道を極めて行きたいと思っています…」


「分かった」





○○○○○○○○○○





「辰之進様…私…」


「美桜殿…聞きました…」


「私は…辰之進様を好いております…」


「私も…美桜殿を…しかし私は役職も無い一介の武士に過ぎません…この先私の立場では…」



「お城に入れば私はもう…2度と辰之進様にお会い出来ません…」


「…」



「どうか…私と逃げて下さい!辰之進様とだったら何処へでも!江戸に行けば仕事も沢山有ります!2人で…」


「それでは…師匠が…この道場の人が…どんな目に…どんな仕打ちを受けるか…私達だけの幸せの為に皆を不幸に出来ません…」


「…」




「私はどんなに離れても、美桜殿だけをずっと想って生きて参ります。」


「…」




「これは…本当は美桜殿と夫婦になる時に渡そうと思っていたのですが…」



「これは…桃色の珊瑚の…簪…」


「美桜殿の様に美しく可愛らしい桜色です。」


「…私はこれを貴方だと思って生きていきます…」


「…」




「ずっと…どんなに離れても…誰のものになっても…私は辰之進様の事だけを想って生きて参ります…」




「美桜殿…お元気で…」


「辰之進様も…」





私はこの先、美桜殿の事だけを想って…


美桜殿の幸せだけを想って生きて行きます…




○○○○○○○○○○






「辰之進!父上が!」


「どうされました!」


「横領の罪で…捕らえられた…」


「そんな馬鹿な!あの父上がそんな事する訳ない!」


「私だってそんな事信じてはいない!ただ…」


「?」


「父上は…不正な金の流れを調べていた…私も手伝っていた…」


「…」


「そこで…加茂殿の名前が上がって来ていた…」


「!」


「色々調べていたから私も父上も目をつけられていた…」


「そんな!!」


「恐らく…証拠を掴んだ父上は…嵌められて…」


「何とかならないんですか!?」


「それが…明日処刑となった…」


「そんな急な話ありますか!!」


「明らかにおかしい。分かっている…ただ…加茂の力は城では強すぎる…俺達は太刀打ち出来ない…」


「そんな…」


「十両以上の窃盗は死罪だ…父上は120両横領した事になっている…無論父上はやってはいないが…やった事にされている…罪人は切腹も許されない…斬首されて晒される…」


「そん…な…」


「禄高も100石に扶持を減らされる…」


「そんな…兄上は…許せるのですか!?」


「許せるはずないだろう!必ず証拠を見つけてやる!」


「兄上…無茶はくれぐれも…」


「分かっている。私はお前みたいに強くはないからな。」


「…」





○○○○○○○○○○





ある寒い日の事だった。


天気は雲行きが怪しく、今日は夜には雪が降るだろと言っていた。




「おい!辰之進!大変だぞ!!」


「どうした源次郎、慌てて」


「お前の兄上…雪之進殿が…」


「何があった!」


「父上から聞いた話だが…城で貴久に…無礼を働いたって言いがかりをつけて…切り捨て御免にされたって…」


「何だって!?」



走って家に着くと…


兄上の死体が運ばれていた…



「何故…何故…加茂!そんなに私の家族が邪魔だったのか?貴久!そんなに私が…憎いのか?兄上にまで…やるなら私だけでいいだろう!」



兄上が別れの挨拶をしに来た様に…

無念を晴らせと託す様に…


外はしんしんと雪が降っていた





その後私の家はお取り潰しになった。






○○○○○○○○○○





それから私…俺は道場にも通えなくなり、生活の為に長屋に越して傘張りなどの内職をしていた。



暫くしてある日、師匠が訪ねて来た。



「ご無沙汰しております…みっともない格好でお恥ずかしいです…」


「そんな事は気にするな。お主は中身までは変わっておらん。目を見れば分かる。」



「…今日はどうされました?」


「美桜…がな、正興様の側室になっているのは知っているだろう?」


「はい…」


「貴久が城の指南役になっているのも知っているか?」


「はい…」


「貴久は昔から美桜に惚れていた。それで…遂に美桜に手を出そうとしたらしくてな…」


「!?」


「それが見つかってな…貴久は美桜にそそのかされたと…」


「そんな馬鹿な!」


「まあ、未遂とは言え、貴久はお役御免となった。流石に加茂殿も庇いきれなかったようだ。」


「そうですか…」


「美桜もな…不義密通の罪を負わされた…」


「そんな馬鹿な!!」


「未遂だった事もあり、美桜はお暇を出された。まあ、5年経っても子が出来なかったのも理由に有るようだが…」


「そうですか…」



「しかし、美桜の父であり、貴久の師と言う立場の儂は責任がある…」


「そんな!師匠は何もやって無いのに!」


「武士のケジメだ…」


「…」


「明日、儂は切腹をする…介錯を…お前に頼みたい。道場を任せられなくて申し訳無かった…お前の手で終わりにさせたい…儂の最後の願いだ…」



「美桜殿は…師匠が居なくなって…帰る場所がなくなってしまいます…」


「美桜は…儂が武士として最後を迎える事を理解してくれると思う…帰って来たら…美桜を頼めるか?」





「分かりました…」


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