第51話 硬くね?
受験勉強のせいで小説の執筆が遅くなっております。
大変申し訳ございません。
…でかくね?
少女が変身?した龍を見た僕の最初の感想はそれであった。
その大きな体にびっしりと生えている鱗は、お兄さん達の剣を弾いていた事から考えると、物凄く硬いと思われる。
雫さんが変身中に攻撃するが傷すらついて無い。どんな硬さだよ。
例え、あまりダメージを与えられなくとも、煙幕位にはなるだろうと思い、目元であろう場所向かって『アイススピア』を放つ。
本当は、この場面で『不壊の鎖』を発動するべきなのだが、あれは近づかないと発動できないので、まだ死にたくない僕は近づいた瞬間に殺されるかも、とチキってしまった。『アイススピア』は、ドラゴンにも効いていた。望み薄だが、これで片方の目だけでも潰す事が出来れば…
そんな淡い期待をしながら少しの間待っていると、少女が変身した際に舞い上がった土煙が完全に晴れた。
果たして効果は…
「…嘘だろ?」
確実に当たっているはずの目とその周辺には小さな傷すらなかった。
「ははッ」
思わず、笑ってしまった。狂ってしまったのかと思われるかもしれないが、僕は至って正常だ。ただこれでも無傷と言う事実に如何しようも無く絶望しただけで…
僕の隣で一連の光景を見ていた双葉が声を上げた。
「蓮!睦月!雫達を連れて逃げろ!」
「…双葉を置いて行くって事?反対したいけど、そう言うって事は理由があるんだよね?教えてよ」
双葉の身の安全の為にも、あいつの対処法があるならば、それを知る事で、僕の精神も安定すると思うので、聞いて置きたい。
「殿をするならば、出来るだけ時間が稼げる方が良い。睦月は一撃の威力は凄まじいが、すぐにガス欠になる。そうなると、あの女の足止めが出来そうな人物で持久戦が出来るのは俺と蓮だけだ」
「それなら、『魔力無限』を持っている僕の方が良いんじゃ…」
殿なんて本当はやりたくないが、この状況ではそうは言ってられない。適切な人材を適切な配置しなければここから帰ることは出来ないだろう。ならば、自分も危険を冒すべきだ。そう思って言ったのだが…
「蓮、お前は先ほどの一撃に反応できていなかったな?恐らくだが、あれもまだ本気の攻撃ではない。あれに反応できていない時点で、あいつの相手は出来ないと思った方が良い。先程の魔術も効いていなかった。そうなると、今の蓮には、あれに手傷を負わせる程の攻撃力が無い。この状況で蓮がこの場に残るのは、只の自殺行為だ」
「でも…」
確かにその通りだが、殿として双葉が残ると言うなら、どの様にして入口まで戻るつもりなのだろう?
「ただのモンスターからの逃走なら、反応できない速度で来られても如何にかなったんだが、今回は知性を持った相手であり、戦闘が出来る体力が無い状態の睦月と非戦闘員である桃花がいる。
そんな状態で防御力が高く、スピードが圧倒的に上の敵から逃れるのは…ましてや時間を稼ぐなんて、近接が苦手な上に案内人を殺したあれに反応できていなかった蓮では不可能だ。大丈夫だ心配するな。俺は自己回復の手段がある。出来るだけ時間を稼いで見せるさ。分かったらさっさと行け!」
「…分かった。出口で会おう」
あまり納得していないが、大丈夫と言っているのだ、その言葉を信じよう。そう思った僕は双葉にそう言って、『光輝』と名乗った変身中の少女とは反対の方向に走った。
◇ ◇ ◇
「蓮さん!こちらです!」
あのスピードに対処出来ない僕は早くこの場を離れないと双葉にとっての足枷になる。そう思い全力で走ってボス部屋を出た時、雫さんに呼ばれた。
早くこっちに来いと急かされたので、走って行くと、桃花さんが固有を発動させた。
『遮断結界』
その声と共に、壁の様な物が出現した。
この『遮断結界』は文字通り全て物を遮断する結界らしく、これがあれば疑似的な室内戦にする事も可能らしい。
本当にそんな効果があるのか、これであの少女の行く手を阻めるのか疑問に思ったので、全力で殴ってみたが、こちらの拳が痛くなるだけだった。(殴ってから僕程度の身体能力で試しても意味が無い事に気が付いた)
これからの行動を決めようと言う時に毎回僕達が通った道と言っていると何の事か分かりづらいので、僕達が来た道をAルートと、双葉達が来た道をBルートと呼ぼうと言う事になった。
今、僕達がいるAルートは、Bルートと比べると、比較的真っすぐになっていると言う。『遮断結界』の効果で相手にBルートで進む事を強制させ、僕達はAルートを使う事で出来るだけ早く帰ると言うのが今回の目的だ。
あのスピードから考えると、双葉が足止めを頑張ってくれなければ、この僕達がAルートを通っても追いつかれそうなので不安だ。
方針が決まったので、怜君に狼系統のテイムしたモンスターを人数分出してもらい、一人一人がそれに乗って出口を目指した。
…狼は乗り辛い
◇ ◇ ◇
理不尽としか言えない程の圧倒的なパワーを受け流す。
受け流しが無理な攻撃は全力で拳を振るい相殺する。その時、ドン!ともボン!とも違う空気を振るわせる大きな音と、破裂音の様な小さな音が聞こえた。
破裂音の様なその音は、相殺した俺の拳が砕け、壊れた音だった。
…まあすぐに再生するから気にしない。
だが、このままでは千日手だ。…如何する?使うか?IFを…
いや駄目だ。今使うと結果が変わってしまう。時間稼ぎだけならば、今のままでも大丈夫だ。焦る必要は無い。
そう思っていた時、女が話しかけて来た。
「睦月と言ったか?あの小僧の近くにいたお前とは違う浅栗色の髪を持つ童、あれは一体なんだ?自然な物であそこまでの魔力を我は見た事が無い。突然変異か、急成長か、将又…固有か?」
「…何故分かる?」
俺の質問に対して女は楽しそうにに笑った。
「クックックそれではほぼ答えを言っている様な物だぞ?良いのか?敵に情報を開示するなど愚者のやる事であろう?」
「まあ今は気分が良い。我も愚者になってやろう。今回、お前達の襲撃は只の足止めに過ぎなかった。なので見返りも期待していなかったのだが…生贄として丁度良い膨大な魔力を持つの人間を見つけ、明空がまだ居ると分かり、今は、貴様とこんなに楽しい殺し合いをしている。我にとっては嬉しい誤算だ。我は今回の襲撃にあまり本気に慣れずにいたが、こんな事ならしっかりと準備して置けば良かったわ!」
そう言って女は本当に後悔している様な素振りを見せた。
「それにしても、残念よのう…我では貴様は本気を出さんのか。まあこればっかりは仕方ないと割り切るとしよう。
だが一つ聞きたい。貴様が本気を出さぬのは、何のためだ?
本気を出さぬと言うその思考になるまでに何があった?
大切な人間でも守れなかったか?理性でも失ったのか?
それとも…もしや、安心の為か?
本気を出さなくても、この位ならで出来る。そう思っているのか?
自分が本気を出せば、勝てぬ者などおらん。そう思いたいだけであろう?
我は強い、しかしそれ以上に貴様は強い。それに関しては認めよう。本気で殺り合えば勝つのは貴様であろう。だが、本気を出さぬ貴様に負けるほど我は弱くない。
さぁ如何する?我を殺すために本気を出すか、このまま千日手か、貴様が決断する時間が長くなるだけ先の奴らが危険に晒されるだけの事よ。時間はたっぷりある。精々楽しもうぞ!」
「……」
会話中も途切れずに放たれる攻撃を全て受け流すか相殺している。
…戦いではこう言ったタイプが一番面倒臭い。
◇ ◇ ◇
二十分ほど経過した。目の前の女は相変わらずお喋りだ。
ここ五分程は喋る内容が昨日の朝ごはんとかの話になっている。
薄っぺらい事を言う位なら喋るなよと思わなくもないが、結果的に敵の集中力は下がっているので良しとする。
緊張感も薄れて来た時、突如として女の横に謎の男が出現する。
女が攻撃を仕掛けて来る瞬間だったので、俺は被弾覚悟でその男の首に向けて全力で拳を振るった。
しかし、その拳は空を切り、男はいつの間にか龍形態から戻った女の手を握り、「『光輝』さん。時間です。行きますよ」そう言ってその場から姿を消した。
あまりにも一瞬の出来事だったので、俺は自身の目を疑った。
位置関係分かりずらかったので、時系列順に書きます。
ボス部屋に到達→睦月が止めを刺す(この時、ボス部屋の奥の方にいたドラゴンを攻撃する為に睦月もボス部屋の奥の方に行っている)→『光輝』の登場、ボス部屋出入り口を粉砕→睦月の苗字を聞いた『光輝』が睦月に高速で接近する→攻撃が当たる直前に双葉によって睦月が回収される→お兄さんズが攻撃を仕掛けるが、殺される→『光輝』が龍に変身している間に今後の事を決めて行動を別にする→蓮たちは逃げ、双葉が時間を稼いでいる時、謎の人物によって『光輝』が回収される←今ここ。




