第26話 葵の過去5
今回の任務には、俺以外の人も参加する。
紗智との約束を守るためにも、連携はしておきたい。
「おお、やっと来たか。遅かったな。
俺は、山本彰吾。で、こっちが―――「坂本愛」だ。
よろしくな」
「ああ、俺は清水葵だ」
「…清水葵?最近、何処かで聞いた気がする。
…思い出した!新しい司祭の名前だ!そうか、お前が新しい司祭か」
「彰吾!そろそろ本題に入ってよ!」
「すまん、愛。ちょっと気になってな。
じゃあ本題だ、今回の任務の内容は、
固有学園に潜入し、有用な人材の勧誘。もしくは、殺害だ。
これは全員知っていると思う。
そこで、問題になるのが、俺たちが入試をどうするか、だ。
俺たちは、有用な人材を探さないといけない。
だけど、絶対に上のクラスの方が良いのか?と問われれば答えはNOだ
潜入がバレる可能性が上がるからな。
でも、下の方のクラスだと有用と言えるような人との接触をする機会が減る。
どちらも一長一短と言う事だ。
ここまで聞いて二人はどっちがいいと思う?」
「私は、下のクラスの方が良いと思う。
今回の任務は、最長だと六年、最短でも三年間でしょ?
なら、下のクラスでも上のクラスの人と関わりを持つ機会もあると思う
それなら、私は、安全第一でやりたい」
「俺も下のクラスがいいと思う。理由は…ほぼ同じだな。彰吾は如何なんだ?」
「正直、俺は上のクラスでも良いかも。と思ってたんだが、二人がそう言うなら
下のクラスにしよう」
「彰吾。一つ気になった事があるんだが。俺たち以外に目立つ存在がいた場合はどうする?」
「確かに。そこは、考えて無かったな。その場合は、全員が変に目立たない程度に
上のクラスを目指すって事で」
「「了解」」
俺達の方針は、ここで決まった
一か月後
今日、学園の試験がある
手続きが少し面倒だったが、しっかり入場できた。
その試験で俺は、理不尽を見た。
あれは…何だ?
通常、同時に二つの魔術を使う事できない為、『並列思考』を持っている。
もしくは、魔術の情報を二つ同時に処理できるだけの処理速度がある?
どちらにしても驚異的だが、魔力を増幅させる固有がある事で凶悪さを増している。他の事の印象が強く、分かり辛かったが、魔術の出力も上がっている
まだ未熟だが、あいつがこのまま成長すれば、魔術師としての完成形になる。
アイツを勧誘するにしても、殺害するにしても、よく見ておこう。
念のため、彰吾と愛にも情報を共有して意見を聞いてから判断しよう。
「彰吾。試験会場に変な奴がいた。どうする。勧誘するか?殺すか?」
「おいおい落ち着け。そいつの性格も分かって無いのに殺す訳無いだろ?
まだ早い、決めるのは色々分かってからにしよう」
「私の試験会場にも変な奴がいた。多分、今年の首席はあいつだと思う」
「分かった。当分は、その二人の事を監視しつつ、他にも良い人材がいないか調査しよう」
「なあ彰吾。お前の所には、おかしな強さを持った奴はいなかったのか?」
「強い奴はいたけど…俺が殺せるレベルだし、大丈夫だと思う」
「そうか、それなら良い」
俺たちは、Sクラスになった。今日が入学式だ。学園側に潜入している者がいるかもと、考えさせないように初日にある程度の混乱を起こす予定だ。
俺達が、おかしいと思っていた二人は、次席と首席だった。
今、その首席が次席を連れて教室を出て行った。
やるなら今だ。今回は、俺が自分の存在を『隠匿』して、保健室に爆弾を仕掛ける。
ドゴオオオオオオオオオオン
次席を保健室に行くよう誘導したが、蓮は行かなかった。
代わりに双葉が行ったので、双葉を巻き込めるなら、それで良いかと思っていた。だが結果は如何だろう。
壊れた保健室、慌ただしい教師達、制服が汚れているだけでほぼ無傷の双葉。
…おかしいだろ!何であれに耐えてんだよ!普通の爆弾では、傷一つ付かないこの学園の部屋を壊す為に作られた危険物だぞ!しかも双葉は、自分の回復にしか固有を使わなかった。つまり、この学園の一室を破壊する爆弾を生身で受けても死にはしないと言う事だ。そこは、死んでおこう。人として。あの爆発に耐える生身って何なんだよ。ダイヤかよ。
もうヤダ。お家帰る。そうして拗ねていた帰り際次席の蓮に海に行こうと誘われた。しばらく双葉の顔も見たくないし、蓮の事を観察する為にも行こうと思う。
蓮と釣りをした。蓮は下手だった。
釣りをしている時、少し昔の事を話してしまった。気を付けなければ。
記憶は、ここで終わりだ。思い返すと、酷い人生だった。
だが、俺には紗智がいた。それだけで十分だった。
心残りが有るとすれば、紗智のこれからだ。
紗智の事は蓮に託そう。教団の連中よりは信頼できる。
「蓮――――――――――――――
〈四条蓮〉視点
目の前で葵が叫ぶ。なぜ、こうなっている?
考えられる原因は、さっき固有の効果を解除した事。
十秒ほどで葵の絶叫は止まった。
「蓮。俺はこれから死ぬと思う。最後に遺言を聞いてくれ」
ガシッ!グイッ
僕の服が葵に捕まれ、引き寄せられる。
「この場は盗聴されてる。今から30秒だけ聞かれないようにするからよく聞け」
「俺たちは、光神教の人間だ。光神教の人間は学園内にまだ数人いる。
学園の連中を無条件に信じるな。……それと妹を頼む。可愛い妹なんだ。
目に入れても痛くないほど、俺の唯一の家族なんだ。学園も教団も信頼できない、
だから、頼む。妹を紗智を助けてやってくれ」
そこまで言うと、葵は自分で首を切った
「お前…何して。いや…今は治療を」
ゴフッ
「良い゛。どうせ助からない。最後に、お前との学園生活は悪くなかった。
願わくば、紗智の人生に溢れんばかりの幸福を」
葵は力なく倒れこむ。僕が殺したのか?
先ほどの葵の言葉も、葵の死に自分が関わっていると言う事も、
あまりにも情報量が多く脳が混乱を起こしている。
ただ、葵が死んだ。これだけは…紛れもない事実だ。
少しすると、無傷の双葉君がこちらに駆け寄って来た
「蓮!無事か?」
双葉君が話しかけて来る。気に掛けてくれているのだろう。
気に掛けてくれている自体は嬉しい。だが今じゃない。
「睦月は大丈夫だ。剣が掠っていた様で少し血が出ているが命に係わるほどじゃ無い
お前は…その出血は大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ。大丈夫……大丈夫」
貧血のせいか思考能力が落ちている。
「敵は、ちゃんと殺したのか?止めは刺したのか?蓮!しっかりしろ!今ここで意識が有るのは、俺とお前だけなんだ。増援が来たら俺たち二人で如何にかしないといけないんだぞ!」
双葉君が正論を言っている事は分かっている。
だが、少し…ほんの少しで良いから、休ませて欲しい。もう疲れた。
そんな状態だったからだろう。この言葉が口から洩れたのは
「双葉君は良いよね。人を殺したとしても何も気にしない様な性格で!
僕には無理だよ。僕はそこまで冷徹になれない。君は、ロボットか何かなの?
人を殺した後にそこまで冷静でいられるなんて…人間とは思えないよ」
言ってから気づいた。これはさすがに言いすぎだと、いくら精神状態が良くないとは言え、さすがに言って良い事と悪い事がある。
「双葉君ごめ―――――――――――――――
「そうか…確かにそうなのかも知れないな。俺の精神は、もう人と言えるような物じゃ無くなっているのかも知れない。
そこまで言われるほど人の心が分からなくなっているとは思わなかったが――――――――すまなかった。蓮」
この会話の後、双葉君は睦月君を起こそうとそちらに向かった
僕は如何すれば良かったんだ?
「お前達、大丈夫か!」
先生がここに来たのは葵が死んでから、十五分後の事だった。
先生の視界に僕はどう映っているのだろうか?
「何をして…言わなくて良い。お前達は本部に戻って休め。
今はその方が良いだろう」
「ねえ、先生。僕達って何の為に固有を持ってるのかな?
モンスターを狩るため?強くなるため?…それとも、殺し合う為?」
自分では自覚がないが、ストレスが溜まっているせいか、
先生にも変な事を聞いてしまう。
「蓮。ショックなのは分かるが、今は本部に戻れ。その話はまた今度だ」
僕達3人は、本部に戻る事になった。
最初に刺された二人は、先生が死亡しているのを確認したらしい。
それなら、僕達は何の為に身命を賭して戦ったのだろう。
僕は、その答えをまだ知らない
あるいはこの先も分からないのかも知れない
読者の方が思っているよりモチベ向上になるので、面白いと思ったら
ブクマと☆評価をください。マジでお願いします(強欲)




