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【初稿】失われた記憶、消えない愛。取り返す記憶、紡がれる愛。  作者: 言ノ悠
第五章 〜「街での地位と愛を与える君」〜
62/75

062話

「どうしたんだ?」


 なぜダルトンがここに来たのか、俺には分からなかった。


「貴殿らが呼んだのだろう?」


 何を当たり前のことを、と言いたげな表情で、ダルトンは応じた。


「ん?

 ……ああ、ダルトンがギルドマスターなのか」


 彼がこのギルドの管理者であることは知っていたが、“ギルドマスター”という肩書きで呼ばれているとは知らなかった。


「ああ、私がここのギルドマスターだ。……まあ、肩書きだけのものだがな」


 ダルトンは軽く肩をすくめた。


「では、個室で話を聞こうか」


 そう言うと、そのまま俺たちを外部から遮断された部屋へと案内した。


「かけてくれ」


 彼の言葉に従い、俺たちはそれぞれ椅子に腰を下ろした。


「見ての通り、ギルドも慌ただしい状況だ。本題から入らせてもらう」


「この慌ただしさ、俺たちと関係あるのか?」


「ああ、試験官から報告が上がってきた。それで、ゴブリンの殲滅隊を編成していたところだ」


 なるほど。あの試験官は、ただ逃げたわけではなかったらしい。


「殲滅隊を出す必要はない。俺たちが、ほとんどのゴブリンを狩り尽くした」


「……やはりか。貴殿らが試験官と共に戻らなかったと聞いて、もしかしたらとは思っていた」


「竜よりは手間はかかったな」


 あのとき見せた竜は、レイがひとりで倒したものだ。俺は剣すら抜いていない。

 だが今回は、多勢に無勢だった。さすがに俺とユリも手を貸さざるを得なかった。


 そもそも、最初からレイひとりに任せるつもりはなかった。


「そんなに数がいたのか。……頭数は覚えているか?」


「いや、俺は数えてない」


 最も正確そうな人物に視線を送る。


 レイは首をわずかに横に振った。


「さすがに、多すぎました」


 彼女も、途中で数えるのを諦めたらしい。


「後ほど、ギルドの記録官を現場へ向かわせる。それで、規模の概算は取れるはずだ。そのうえで正式な評価を出させてもらう」


 記録官、そんな役職もあるのか。こういうところに、組織としての厚みを感じる。


「それから、冒険者認定試験は問題なく合格になるだろう」


 その一言に、俺は胸をなで下ろした。

 また試験を受け直せと言われたら、さすがにやっていられない。今回の拘束時間だけでも十分すぎた。これ以上、無駄な時間を使いたくはない。


「それと、今回の件が竜一頭に匹敵する被害規模だと判断されれば、この国の貴族や王族の目に留まる可能性もある」


「……それは、どういう形で?」


「さあな。敵対的な動きを見せる者もいれば、取り込もうと接触してくる者もいる。だから気をつけろ」


「ご忠告、感謝する」


 貴族や王族か。相手次第だが、繋がりを持つのは悪い話ではない。場合によっては、今の生活がさらに快適になるかもしれない。


「それから、少し気が早い話かもしれんが……もしこの街を気に入ったのなら、俺の方でひとつ屋敷を安く譲る手配をしよう」


「……随分と羽振りがいいな」


 昨日会ったときとは打って変わって、ずいぶんと好意的な口ぶりだ。さすがに無警戒にはなれない。


「竜とゴブリン、そのふたつを立て続けに処理したとなれば、多少は気を遣って当然だろう?」


 彼の対応の変化は、実にわかりやすかった。それだけ、俺たちの力が認められたということなのだろう。


「それは……喜んでいいのか?」


「普通なら喜ぶところだ。だが、貴殿は地位や名声に興味はなさそうだな」


 地位や名声、か。

 たしかに、それには興味がない。

 むしろ、そんなものほどくだらないと感じてしまう。


「ともかく、貴殿から話が聞けてよかった。今はゴブリンの件で手一杯でな。ほかに用がなければ、これで失礼させてもらうとしよう」


 俺が考え込んでいると、ダルトンはそう言って席を立とうとした。


「ひとつ、お伺いしてもよろしいでしょうか」


 その背を引き止めるように、レイが口を開いた。


「……なんだ?」


「その屋敷には、お風呂は付いていますか?」


 何でもない質問のはずなのに、空気が一瞬で張りつめた。


「……ついている」


 ダルトンは少したじろぎながらも、慎重に言葉を選ぶように答えた。


「旦那様っ!!」


「シンっ! 今すぐに買うべきだっ!!」


 レイとユリが、俺の両肩をがしがしと揺さぶってくる。


 ……えぇ……そんな急に話を進めないでくれ……


「あ、案内させようか?」


 その様子を見て、ダルトンもどこか動揺しているように見えた。


「……もし、よければ見せてくれ」


 レイとユリをなんとか抑えつつ、俺はダルトンの申し出を受けることにした。


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