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【初稿】失われた記憶、消えない愛。取り返す記憶、紡がれる愛。  作者: 言ノ悠
第五章 〜「街での地位と愛を与える君」〜
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042話 Feat.ユリ

「私はスレス・オシリス。オシリス帝国の末裔です」


 その一言で、我はシンは思わず顔を見合わせた。聞いたことのない国名であったし、彼の表情からしても、やはり初耳なのだろう。


「そんな仰々しい帝国の末裔が、なぜこんな辺境の街に?」


「この街は辺境だからこそ、暗黒神復活に必要な素材が揃う。私を監禁していた者たちは、そう言っていました」


「……素材、か。それなら筋は通りそうだな」


 シンは腕を組み、静かに頷いた。


「暗黒神。ユリは知ってるか?」


「いや、我も知らんな。有名な神なのか?」


 この場で暗黒神とやらを知っているのは、スリスしかいない。


「世界中に知られているかは……すみません。わかりません」


 彼女はゆっくりと首を横に振った。その行動と表情には、無知への恥が含まれていた。


「君は捕まる前から知っていたのか?」


「はい。オシリス帝国とは、暗黒神の血を引く一族によって建てられた国ですから」


 その暗黒神とやら、人と交わった神だったのか。神が人と交わることは相当に珍しい。そもそも、神々はその性質上の問題で、性欲があまり強くないからだ。


「……つまり、君は神の末裔ということか?」


「そう……なります」


 その瞬間、スレスの表情が露骨に翳った。語るのを拒絶する意思が、その背後に見え隠れしていた。


 なるほど、と我は内心で思う。恐らくこれは、彼女自身が“否定したい血”なのだろう。その感情までは我には測れぬ。


「君のことはそれなりにわかった。改めて聞くことでは無いかもしれないが、暗黒神の復活のために、捕らえられていたのか?」


 シンの声は淡々としていた。スレスの曇った表情にも、顔色ひとつ変えなかった。ただ、事実を確かめるように問う。


「……はい。暗黒神の血筋の者を生贄に捧げることで、神を降臨させることができるようです」


 その声音は乾いていて、何処か現実味を感じさせない。まるで自分は関係無いと言いたげな、そんな印象を受けた。


「なるほどな。暗黒神ってどんな存在なのか知ってるか?」


 彼女の話を聞く限りでは、善性のある神ではないように思えるが、その存在を知らない我としても、その問いの解に興味があった。


「世界の全てを暗黒に染める力を持つ存在、そう私は聞いています」


 それはまた随分と、吸血鬼と相性が良さそうな神様ではないか。


「ユリと相性が良さそうだな」


 我の胸中に浮かんだ言葉を、シンがそのまま口にした。


「そうやって言われるのは些か不満だ」


 我は思わず、じろりと彼を睨み付けた。恩人に対する態度としては褒められたものではないと、頭ではわかっている。だが、それでも口に出さずにはいられなかった。


 ここまでの話を聞いて、どう考えても“人でなし”にしか思えぬ神を、あたかも冗談めかして肯定するような言い方をされては、見過ごすことなどできようはずもない。


「悪かったよ。……機嫌を直してくれ」


 シンは困ったように眉を下げ、両手を合わせて我に詫びてきた。

 ……あまりにも大げさで、普段の彼らしくない。


「……貴様、レイと揉めたのか?」


 何気なく放った問いに、彼はぴくりと肩を揺らした。思った通りか。


「……何を揉めた?」


 バツの悪そうな顔を覗き込む。我の問いに、彼は目を逸らした。


「いや、揉めたわけじゃない。多分……。ただ、満足してもらうまでに、ちょっと時間がかかったというか」


「それは今さらだろう?」


 レイの愛が重いなど、今更すぎる話だ。


「……まあ、な。その中で、いろいろあって……」


 しゅんと項垂れる彼の姿が実に滑稽で、先程の失言は深追いせずに流すことにした。


「……あの、何の話ですか?」


 控えめな声が背後から届く。スレスだった。

 すっかり話の蚊帳の外に置いてしまっていた。


 その申し訳なさそうな顔に、我は小さく息を吐いた。


「すまんな。主君もそれなりに、色々とあるらしい」


「……って、え? 俺のこと主君とか呼んでるの?」


「もう黙れ。話がややこしくなる」


 我は彼の脛を蹴った。


「いったっ!?」


 そのまま地面に蹲るシン。……なんだ、思っている以上にポンコツだな。

 今までの旅では、そんな印象はなかった。むしろ、どこか頼れる風にも見えていたはずだ。


 だが、振り返ってみて納得した。


 いつだって、彼の傍にはレイがいた。

 だから、ポンコツをやる前に止められていたか、もしくは軌道修正されていたか、それともその両方で、シンはとても頼りになるように見えていたのだろう。


 そういえば我を封印から救った時も、段取りが良かったとは言いがたい。

 レイが口を開くまで、解放された我を放っていたくらいだからな。


 ──うむ。その仮説、なかなかに説得力があるな。


「……もういい。今夜は宿の部屋に一緒に眠らせておく。レイが目を覚ましてから、我が直接話す」


 そうスレスに視線で告げると、彼女は勢いよく縦に首を振った。


「……そうしてくれ」


 シンは肩を落とし、何処か憐憫を感じさせる表情をしていた。


 彼はレイが居ないとこうなるのか。ちょっとした新体験を味わった気分だった。

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