表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【初稿】失われた記憶、消えない愛。取り返す記憶、紡がれる愛。  作者: 言ノ悠
第四章 ~「冒険者との邂逅と魅せる君」〜
40/75

040話

「……いい部屋だな」


 アッシュが用意してくれた部屋には、ベッドが三つ並び、全体に清潔感が漂っていた。

 宿としては、申し分ないどころか、もったいないほどだ。


「そうですね。埃も、ほとんど見当たりません」


「うむ。王族である我から見ても、かなり丁寧に手入れされているように感じる」


 ユリは感心したように、室内をぐるりと見渡していた。

 俺も一応“王”だったらしいが、その記憶は曖昧なままだ。だから彼女の評価に、深く頷くことはできなかった。


「……レイ、ちょっと座りたいから、離れてくれないか?」


 室内には、二つの椅子と小さな丸テーブルが置かれていた。

 今日一日よく歩いたし、旅を始めてからというもの、腰を落ち着けてゆっくりする時間なんてほとんどなかった。野宿でもゆっくりはできるが、所詮は野営でしかない。


「……」


 俺の腕に抱きついたままのレイが、黙って見上げてくる。

 無言なのに、その視線からははっきりと不満が滲み出ていた。どうやら、離れろと言われたのが不満だったらしい。


「……わかった。じゃあ、このままで」


 彼女がくっついているからといって、座れないわけじゃない。

 少々座りにくいのは確かだったが、無理ではない。椅子はさすがに狭いので、隣の寝台に腰を下ろす。

 程よい柔らかさが、服越しにじんわりと伝わってきた。


「……苦しくないか?」


 レイの身体は、俺の腕に引かれて妙な体勢になっている。まるで軟体動物のように、ぐにゃりと曲がっていた。


「少しは、気を遣ってくださっても良いのでは?」


「どうすればよかった?」


 できれば気を利かせたい。でも、どうすればいいのかがわからない。


「……甘やかしてください」


「たとえば?」


「……考えてください」


「……むぅ」


 レイの心が思った以上に読めない。

 何を求めているのか、どこまで応じていいのか、その加減がわからない。


 ふと視線を横に向ける。そういえば、この部屋にはもう一人いた。

 ユリがいたことをすっかり忘れていた。


 助けを求めるように彼女を見やると、ユリは肩を揺らし、笑いを堪えているようだった。


「何が可笑しい?」


「くくっ……まるで子供のようではないか」


「……誰が?」


「二人とも、だ」


 レイはともかく、俺まで子供っぽく見えるのか。

 一番幼い外見をしているのはユリのはずなのに、彼女にそう言われてしまえば、もう反論もできなかった。


「俺は違う、とでも言いたげだな?」


 ユリが、まるで俺の胸の内を見透かしたように言う。

 冷や汗が背を伝った。


「……そうなのですか?」


 レイが、先ほどとは打って変わった表情で俺を見上げてくる。唇をわずかに尖らせ、不満げに。


「い、いや、そんなことはない」


 思わず慌てて否定した。

 レイのことを子供っぽいと思っていた、なんて知られたら、本気で怒られるかもしれない。いや、呆れられるかもしれない。


「私は……自分が子供っぽいことをしてしまった自覚はあります。ですから、ユリにそう評されるのは納得します」


 その言葉は、先ほどまでの行動に反して、どこか冷静で理知的に聞こえた。

 けれどその直後、レイは俺の胸元を押し、寝台の上へと押し倒した。


「……ただ、少しだけ悲しいですね。旦那様のお好きに甘やかしてくださって構いません。その代わり……愛を感じたいのです」


 体を起こそうとしたが、レイの力は思いのほか強かった。

 もし無理に振り払えば、それは彼女の求めを拒絶することになる。そこまでして否定する気にはなれなかった。


「……我は外に出てくる。好きに楽しんでくれ」


 ユリは気を利かせてくれたのか、窓から静かに外へと姿を消した。


「気を遣わせたな」


「ユリだったら、気を遣ってくださるのはわかっていたので」


 ユリが幼いのは外見だけだからな。空気を読んで何処かに消えるくらいはする。そこに驚きはない。


「レイが知ってる俺じゃないのに、それでもいいのか?」


「私が知ってる貴方なので、特に問題はありません」


 俺は今の俺だとか、昔の俺だとかを気にするつもりはない。好意を向けられたら、それに見合った愛を返すのは当然のことだから。


 レイが問題ないのなら、俺だって沢山の愛情を彼女に与えよう。少なくとも彼女には、それを受け取るだけの権利があるのだから。


 俺は彼女の力が抜けたのを見計らって、彼女の体を下敷きにして押さえ付けた。


「……さすがですね」


 長い黒髪が、まるで染み出した墨のように寝台に広がった。


「レイがどう思ってるか知らなかったからさ。だから、ここまでの行動はしてこなかった」


 彼女の身体には、大き過ぎない胸の膨らみ、程よいクビレに槍を振り回すだけの筋肉が同居している。

 異性としてはとても魅力的だ。


「……どうなっても知らないぞ?」


「好きにしてください」


 酷いことはされないと知っての答えは、少しばかり狡いとすら思った。


 だから俺は、彼女の肢体に指を落とした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

小説家になろう 勝手にランキング

ブクマ・ポイント評価お願いしまします!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ