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【初稿】失われた記憶、消えない愛。取り返す記憶、紡がれる愛。  作者: 言ノ悠
第四章 ~「冒険者との邂逅と魅せる君」〜
37/75

037話

「俺たちが街に?」


 グランの言葉に、思わず聞き返してしまった。あまりに唐突な提案に、脈絡が掴めず戸惑う。


「ああ。俺たちだけで“竜を倒した”なんて言っても、信用されそうにないからな」


 そう言いながら、グランはちらりと視線を横へ流す。そこでは、レイとユリが無言で竜の死骸を解体していた。


 その様子を見届けると、彼は声を落とし、俺の耳元で囁くように問いかける。


「……あのユリって子、人間なのか?」


「一応、半分はな」


「俺と同じか……だが、あの爪はすごいな」


 グランの姿は、まさに獣人そのものだった。狼のような顔立ちに、鍛え抜かれた肉体。二足歩行ではあるが、その容姿は人と獣の中間に位置する。一方のユリは、アルビノのように色素の薄い外見こそ目を引くが、体格や骨格は人間そのもの。しかしその力と能力は、常識の範疇を明らかに超えていた。


「……話を戻すが」


 グランが咳払いをひとつして、話題を元に戻そうとする。


「竜を討伐したことを信じてもらえない、って話だったな」


 先回りして、俺が話の本筋を引き戻す。


「ああ、そうだ。

 俺たちもそれなりに名の知れたパーティではあるが、それでも“竜を倒した”とか、“スタンピードの心配はなくなった”なんて報告したところで、ギルドや組織が真に受けるとは限らない。あくまで調査依頼だったからな」


 なるほど、確かに一理ある。竜の討伐など、常識的に考えてあり得ない話だ。ましてや、それを少人数で成し遂げたとなれば、信じてもらえない方が自然だ。


 ……それより、今の会話に知らない単語が混じっていたことに気づき、俺は彼に訊き返す。


「“パーティ”って?」


「ああ……そっか。冒険者を知らないって言ってたな」


 グランは、想定外だったのか、狼耳の裏側を困ったように掻いた。


「パーティってのは、冒険者が所属するギルドの中で、仲間同士で組む小集団のことだ。俺たちは“混合旅団”って名前で活動してる」


 その説明を、隣にいたアッシュが補足してくれる。


「混合旅団、か。覚えておくよ」


 冒険者ギルドという組織についてはまだ理解しきれないが、ひとまずそういった仕組みが存在することは把握した。


「街に行くのは構わないが、あの竜の死骸を解体し終えてからでもいいか?」


 レイとユリが時間をかけて解体している。今ここで中断させたくはなかった。


「もちろん。周辺にも、もう危険な魔物はいないだろうし、俺たちは残りの区域を少し調べてくる」


「了解。こちらはここで待ってる」


 俺が頷くと、グランたちは武器を構え直し、森の奥へと向かっていった。


「……レイ、どう思う?」


 彼らの姿が見えなくなったところで、俺はレイに意見を求めた。


「彼らが何かを企んでいるのでは、という意味ですね?」


「ああ。疑ってるわけじゃないけど、念のためな」


「そうですね。今のところ、特に怪しい点は感じません。……完全にないとは言い切れませんが」


 話している間も、レイの手は止まらない。竜の体の半分ほどは、すでに解体を終えていた。


「警戒はしつつ、か。でも過剰に構える必要はなさそうだな」


「ええ。それが一番だと思います。……街にも、興味がありますし」


「我も行ってみたいぞ」


 ユリも加わるように声を上げる。


「俺も同じだ。何かあれば、そのとき考えよう」


 三者三様の思惑はありつつも、皆が街に向かうことに前向きであるようだった。ならば、多少のリスクは許容範囲だ。


「ユリ、あと少しで終わりそうだ。頭部の処理、頼めるか?」


「承知した」


 ユリは吸血鬼としての身体能力と術を駆使し、巨体の竜を手際よく解体していた。力任せに引き裂くかと思えば、繊細に切り分ける所作も見せる。その両極の動きが、違和感なく共存している。


 残るは巨大な頭部のみ。だが、ユリはそれに手をかけたところで動きを止めた。


「レイ。この頭部、解体せずに残しておくべきではないか?」


 その意図が掴めず、俺とレイは顔を見合わせる。


「竜を討伐したというのは、人類種にとっても名誉ある行為だろう? グランたちも“証明”が必要だと言っていた。この頭部こそ、その証として相応しいのではないか?」


 ユリはさらに言葉を重ねる。その主張に、俺たちはようやく納得した。確かに筋は通っている。


「剥製としても価値がありそうですし……。わかりました、残しましょう」


 レイは頷き、頭部だけを丁寧に切り離すと、それをアイテムボックスへと仕舞った。


「そういえば、グランたち、アイテムボックスを見て随分驚いてたな。そんなに珍しいものなのか?」


「私は旦那様のそばで暮らしていましたから、特別なものという感覚はありません」


 レイの話によれば、そもそもその開発に携わったのが俺らしい。ならば、彼女にとっては“当たり前”の生活道具という認識なのも頷ける。


「我も名前は知っていたが、実物を見るのは初めてだったな。まさか、本当に存在していたとは」


 長命なユリですらその程度の認識なのだから、一般的な知名度はさらに低いのだろう。


「日常で使う以上、隠すのは難しいけど……あまり目立ちすぎないようにした方が良さそうだな」


 実際、レイが槍を取り出したときの彼らの反応は印象的だった。物珍しさに目を丸くしていた。どうやら、俺たちの“常識”は、外の世界では通用しない部分も多いようだ。


「そうですね。……戻ってきました」


 レイが視線を向けると、グランたちが森の奥から姿を現した。


「どうだった?」


 俺が声をかけると、アッシュが答えた。


「特に問題はなかった。やはり、原因はあの竜だったみたいだな」


 その顔には、安堵の色が浮かんでいる。


「そっか。じゃあ、この後は街に向かうんだな」


「ああ。もしよければ、街の案内もさせてくれ」


「それは助かる」


 街の常識も文化も知らない俺たちにとって、案内役は心強い。道に迷う心配も減り、無用なトラブルも避けやすい。


「そう言ってもらえると、こっちも安心できるよ」


 アッシュが笑みを浮かべ、少し離れたところにいたグランに声をかけた。


「グラン、もう出発していいか?」


 混合旅団の面々と話していたグランが、こちらへと視線を向ける。


「ああ。そちらの準備が整っているなら、問題ない」


「こっちはもう大丈夫だ」


 俺が頷くと、グランも軽く手を挙げて応えた。


「なら、出発しよう。今からなら、日が暮れる前に街に戻れるはずだ」


 その言葉を合図に、俺たちと混合旅団は、街を目指して歩みを進め始めた。


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