表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【初稿】失われた記憶、消えない愛。取り返す記憶、紡がれる愛。  作者: 言ノ悠
第三章 〜「半怪半人の者と異常者な君」〜
27/75

027話 Feat.ユリ

「彼女も歩けるようになったみたいですから、今後のことを決めましょう」


 レイはキリッとした表情で話を切り出した。その言葉はまるで、いつまでも今の情動に浸っているべきではないと、戒めているようにも感じられた。


「そうだな。ユリはどうしたい?」


 シンは彼女の言葉に頷いて、我に視線を向けてきた。


「我は──」


 自身の望みをごく自然に答えてしまいそうになって、言葉に詰まってしまった。確かに彼らは敵ではないし、優しいとすら思う。だがしかし、意見を言えば尊重して貰えるとわかっているくせに、自らの望みを口にするのは、子供の駄々のようにも感じられてしまう。


「君に望みが無いのならば、俺たちはこの地下都市を後にするだけだ。

 でも、君にとっては生きてきた街なんだろう?

 だから、悔いが残らないようにした方がいい」


 彼の言葉は、そんな子供の駄々を肯定するようであった。だから、声が出なかった。どう答えるべきか悩んでしまった。悔いが残らないようにするのであれば、我の感情を素直に打ち明けるべきだろう。だが、それを出会って間も無い相手にすべきなのだろうか。


「我は──」


 彼はそう言うが、その言葉を信じて良いものか、我には判断が付かない。だから再び言葉に詰まった。


「──旅立つ前に見て回りたい……と思う」


 それでも、意を決して言葉を発することができた。


「そうか。ならばそうしよう」


 彼はニヤリと笑みを浮かべてそう言った。まるで、我のこの意思を待っていたかのように。


「レイもそれでいいか?」


「旦那様のお心のままに」


「じゃあ、外に行こうか」


 我を封じていた一室を、我らは後にした。


「……まだ、これだけ原型が残っているのだな」


 我はそれなりに長い期間を封じられていたはずだ。それに、神々の攻撃は苛烈を極めていたはずだ。にも関わらず、我の前に広がる玉座の間は、昔に見たままの景色と大きく変わらなかった。


「ユリは王様だったのか?」


「我は王族ではあったが、王になったことはない」


「そうなのか。ここ立派な場所だよな」


「そうだな。我も豪華な場所だと思う」


 豪華な場所だが、我の趣味ではない。

 身に付ける物は、この深紅のドレスのような、それなりに仰々しい物が良いと思う。だが、建物の構造に関しては興味がない。むしろ、質素な造りの方が好ましい。


 彼と世間話をしながら、埃っぽくなった玉座に手を触れた。手がすこし粉っぽくなったが、我はそのまま玉座に腰を掛けた。崩壊する前は、この玉座に座る資格も無ければ、座ることすら許されなかったが、既に咎める者もいないからな。


「眺めはどうだ?」


「あんまり、だな」


 シンの言葉に首を横に振って、再び立ち上がった。

 玉座から見える階段下は、とても綺麗な大理石で作られてはいるが、誰の人影も感じられない。だからかもしれないが、やはり豪華な建物を好かないと思った。


「我はこんな場所よりも、暖かい民家の方が好きだ」


「私も暖かい民家の方が好きですね」


「レイも?」


 意外だと思った。


「暖かい民家の方が、人の幸せって感じがしませんか?」


 彼女の問い掛けに、我は自分が豪華な建物を好かない理由がわかった気がした。我がこの都市を守ろうとした理由がわかった気がした。


 我は些細な人の幸せが、温かさが、好きだったのだ。ふとした所に感じる愛情とか、ふとした所に感じる幸福とか、それが尊くて、壊されたくなくて、我は神々に抗ったのだ。


「……そうだな」


 辛うじてそう言うことしかできなかった。それは終わってしまった世界に……


「ぐうっ……」


 肌を一雫が伝った。それに気が付いたときには、全てが止まらなくなっていた。手で拭っても拭っても止まらなくて、止まらない、止まってくれ。


「ユリ、これを」


 レイは一枚の布を被せてきた。


「……これは?」


 鼻をすすりながら、本当に小さな声で、精一杯の声で彼女に聞いた。


「感情というのは、事実とは矛盾するにも関わらず、暴れ出してしまうことも多々あります。それを拭い捨てる必要は無いと思うのです」


 彼女の言葉はまるで、涙を拭う必要は無いと、止める必要は無いと、そう言っているように聞こえた。


「……泣いても帰ってこない。守れなかった事実は変わらない」


 少しだけ落ち着いた。だから、言いたいことが口から漏れた。


「泣いても変わらないから、泣いてはいけないのですか?」


「……意味がない」


「意味がないから、泣いてはいけないのですか?」


「……でも」


「それ、泣かないための理由を、勝手に探しているだけですよね」


 レイの言葉は、ある意味で厳しかった。弱さとの決別を許さない、向き合わなければならないと、そう言われている気がした。


「泣いてもいいのです。少なくとも私たちは待ちます。……ですよね?」


「んあ?

 ……ああもちろん、待つさ。ついさっき旅に誘ったばかりだしな」


 彼女たちは明確な意思表示をしてくれた。我が慈しみ悲しむ時間を与えてやると。

 封印から救ってくれたばかりか、血も与えてくれて、心も救ってくれようとしていた。


 我は彼のことも、彼女のことも、好きになっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

小説家になろう 勝手にランキング

ブクマ・ポイント評価お願いしまします!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ