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ラッコ 〜 ご存じ銀河鉄道の夜の主人公ジョヴァンニ少年と少年の襟巻きにするため毛皮を剥かれたラッコの衝撃の出会い

作者: 茜見零

 


 ええ、ご来場のみなさま、今日もまたこの贅沢なステージにようこそいらっしゃいました。

 この贅沢というもの。いちど体験いたしますとなかなか忘れられず離れられず、何度も何度もお金のある限り続けてしまうというものだそうでございます。


 すっからかんになるまで。


 みなさまも何度も何度もステージに足をお運びいただいて。


 恐悦至極でございます。


 贅沢ですね。

 これは忘れられない贅沢。

 

 みなさま、周りを見回してください。あっちもこっちもガラガラスカスカ。広いお席をどうかご自由にお使いください。


 なんて贅沢な席なんだ。


 さて、みなさま、近頃はどのようにお過ごしでしょうか。

 このところは、いかがでしょう。

 安心して暮らしている? 今日も楽しい夢をいっぱい見て……そう行きたいものですね。しかしこれが、なかなかそうはいかないものでございます。


 なにしろ、この世と言うのは…だけど、おや、手をあげてらっしゃる方、いらっしゃいますね。

 

 何かおっしゃりたい?


 どうぞ。


 どうぞおっしゃってください。


 私は違うよ!


 違う? 


 私はうまくいっている?

 

 ほう、そうでございますか。羽振りがよろしい? どんな調子なんでしょう? 少しばかりご福運のおすそ分けを。

 お話をうかがわせていただきたい。


 ええ、私は、宝くじに当たった。いっぱいお金が。どう使うか今、必死に考えているところだ、という夢からさめたばかり。


 あぁ、そうでしたか。


 夢でもお腹いっぱいになれるなら、それはたいそう羽振りがよろしくて。

 こんな世でございます。どっちを向いても、世知辛い話ばかり。あっちもこっちもあくせくバタバタ。



 これはひとえに人間界だけのことでございしょうか?

 

 いえいえ世知辛くあくせくバタバタしておりますのは、人間界ばかりではございません。

 最近小耳に挟んだところでは、ネズミの世界も大変なことになっているともうします。

 ネズミといいますのは、ちょろちょろ走り回って人間様の残飯をこっそり漁り肥太っているけしからん奴、このドブネズミね! などと追われたりもいたしますが、あれはあれでなかなか気苦労が多いようでございます。


 先日行われました。ネズミの会議では、とあることがテーマに上がり、みんな真っ青になって、ネズミたちが、小さな額を寄せ合っていたということでございます。


 え? 

 お客様なんでしょうか? 


 なになに? ネズミなんて不潔で嫌いだ。連中が困ってるならいい気味だ。


 いえいえ、そういうことを言ってはいけません。


 だって奴らは!


 どうされたのですか?


 あいつらは俺のチーズを齧ったんだ。


 チーズを?

 それは大変。その……チーズはどこに置かれていたんですか?


 え? 

 

 仏間の仏壇に? 


 それはまた……あの、あなた、なんでそんなとこにチーズを?

 

 飼っていたハムスターが死んだ? それでそのお弔いに、仏間の仏壇にハムスターの写真とチーズをあげていた。

 

 なるほど……それは……ご愁傷様。



 えーと。

 ネズミ族については、いろいろご意見がございますが、ミッキーマウスもネズミ。ぐりとぐらもネズミ。そして、これから登場する。我らが主人公もネズミの仲間なのでございます。

 さて、ネズミたちの会議でございます。そこで話し合われたのは何でしょう?

 

 それは2023年問題でございます。

 

 そう、世界のみんなが誰もが知っている。ネズミのヒーローキャラクター。その権利が、なんと、2023年に消えてしまうというんだそうでございます。

 著作権のルールと言うものがございまして。


 これは大変だ。どうしよう。


 ネズミたちは大騒ぎ。


 自分たちの権利が取り上げられちゃうんだって。これまでしっかり権利に守られてきた俺たちがいったいどうなっちゃうんだろう。


 いやいや、そんなに心配することないんじゃないか?


 2000年問題のことを思い出してみろよ。あの時もさんざん大騒ぎして大変だ、大変だとオレたちは食料ため込んだり夜逃げの準備したり、大わらわだったじゃないか。

 それで結局なんともなかっただろう?

 そんなに気にすることないんだよ。

 2023年問題なんてそんな大した事じゃないんだ。


 馬鹿野郎!


 なに言ってるんだ。お前はものを知らねえんだ。2023年問題ってのは2000年問題とは訳が違うんだ。


 どう違うのよ。

 

 知っているか?


 くまのやつのことを。


 くまがどうしたって?


 なんだ、知らねーのか。


 オレたちより先にくまの野郎の方が権利を取り上げられちまったんだよ。


 プー、クスクス、そうなんだ。あいつはこれまでだいぶでかい顔してたけど、じゃぁ、これからは、俺たちみたいに人間どもの顔色伺って影でこそこそと。

 そうなるのかな?

 

 いや、それ所じゃねーんだよ。

 え? いったいどんなことになってるんだ。


 くまのやろう、今度ホラーにされちまうんだってさ。


 ホラーに?


 それ本当なのか?


 そうよ。


 大変だー!


 じゃぁ、俺たちも権利が消えちゃったら、ホラーにされちまうのか? 俺たちみんなホラーになるのか?


 ホラーになる?


 一体どうなるのよ。


 それは、お前、ホラーっていうのはよ、俺たちがでっかくなって、怖い顔して、牙剥いて、人間どもを襲うんだ。それで人間どもがキャーキャー言って、逃げ回るのよ。


 あー、こわい。こわい。


 そんなことになったらどうしよう。夜も眠れない。


 みんな黙り込みました。


 その時、ネズミの中でも特に賢いと評判のネズミがいいました。


 あの、それいいことなんじゃないですか?


 え、みんな驚きました。


 だっていつも人間どもにビクビクして逃げ回っている俺たちが、逆の立場になって、人間どもを襲うんでしょう? ホラーな世界の方が、だいぶマシなんじゃないかな。


 そうだ!


 ネズミの誰かが叫びました。


 ホラー大歓迎だ。ホラーになろう。みんなでホラーになって人間どもに復讐するんだ。いいね。それ。その筋書き…俺が脚本書いて、監督に送るから。


 ちょっと待って。


 また別のネズミがいいました。


 そのホラーってのは、大体でっかくなって、人間を襲うやつってのが、最後には狩られちまうんじゃないかな? 俺はそういうの観たことあるぜ。


 みんな、また黙り込みました。


 ジェイソンは不死身だ。誰かがいました。


 みんなうつむきました。あまり気休めにならなかったようで。


 そういえば、くまの野郎、最近見かけねぇなぁ。


 どんよりとした空気の中で。



 ネズミの仲間、それは大変多うございます。例えばビーバー。みなさんご存知ですか? あのダムを作る働き者のビーバーでございます。

 ダムの建設現場で必死に汗を流して働いてますね。


 大変な働き者のビーバーでございます。ところで、私の知り合いのビーバー、この前お会いしたところ、なんだか元気がない。

 どうしたんだろう。

 ちょっと話を聞いて、元気付けてやろう、そう思って、お茶に誘ったのでございます。そうしたら、ビーバー、浮かぬ顔をして、なんだかもじもじしている。どうしたんだろう?


 あの、何かあったの?


 いいえ。


 ビーバー、もじもじしている。なんだか恥ずかしそう。


 話聞いてあげるから、お茶に行こう? 


 いや……でも……


 どうしたの?

 何かあるなら言ってちょうだいよ。私ができる事はなんとかするから。


 いや、そのお茶に行こうにもお金がなくて。


 あぁ、そうか不景気なんだ。いったいどうしたんだい?


 仕分けされちゃったんだ。


 え? ネタが古い? そんな事はございません。人もネズミも、古今不変の悩みも喜びも抱えているものでございます。



 さて、ここで登場しますのはラッコ。

 

 かわいいかわいいネズミの仲間でございます。


 ラッコと言えば、みなさま。そんなにお目にかかるものでは無い。いや、この目でそんなの見たことないよ。まだ見たことないよ。どこにいるんだい。本当にいるのかい。そういう方ばかりですね。


 ラッコ。


 そうですね。ラッコ。どこにいるのでしょう。北の海でお腹に置いた石に貝を叩きつけている毎日でございます。



 そして、みなさまお馴染みの宮沢賢治『銀河鉄道の夜』にも、かわいいかわいい、とてもかわいいラッコが登場いたします。


 銀河鉄道の夜という作品。もちろん、みなさまご存知ですね。ところで、この作品に登場するジョバンニ少年。物語の主人公ですね。


 このジョヴァンニ少年の年齢。みなさま、それについて考えた事はおありでしょうか。

 いったいジョヴァンニ少年は何歳なんでしょう? 13歳? 14歳?


 うーん、それだとどうも話の通りが悪い。


 17歳、18歳? それだと話が通りますね。

 そう。18歳。18歳ジョヴァンニ少年。18歳のジョヴァンニ少年と、かわいい、かわいい、とてもかわいい、ラッコのお話でございます。


 18歳ジョヴァンニ少年のお父さんは、船員でございます。

 お父さんは北の海へ船で漁に行っているのでございます。お父さんは、船出する前に、ジョバンニ少年に、帰ってきたらラッコの毛皮をプレゼントする、そう約束したのでございます。

 ジョバンニ少年は、学校の友達に、このことを得意になって触れ回りました。

 しかし、幾日幾週幾月がたっても、お父さんは帰って来ません。消息も分かりません。どうしたんだろう。少年は、気もそぞろではありません。もしかして北の海で何かあったんじゃないか。そう考えるたびに、ジョバンニ少年の胸は、潰れそうになるのでございます。

 

 しかし、子供と言うのは残酷でございます。


ジョヴァンニ少年に向かって、学校の仲間たちは、


 「ジョヴァンニ、ラッコの毛皮が来るよ」


 などと言うのです。


 そのたびに、ジョヴァンニ少年は、大変辛い思いをして、ただただうつむくしかなかったのでございます。


 大変辛い思いをしていた、18歳ジョヴァンニ少年ですが、とうとう、お父さんが帰ってきました。

 ジョヴァンニ少年は、もう躍り上がって、玄関に迎えに行きます。


 「お父さん!」


「ジョヴァンニ、待たせたな。心配かけたな。さぁ、これがお土産のラッコの毛皮だよ」


 お父さんは、ジョヴァンニ少年の首に、ラッコの毛皮の襟巻きを、しっかりとかけたのです。



ラッコ 「ぶるぶる、ぶるぶる、ボクはラッコ。赤裸に剥かれた、哀れなラッコ。

 

 寒いよー。痛いよー。海の潮が、体に刺さるよー。


 なんで、なんで、どうしてボクがこんな目に。


 ボクは、ただ、海で、のんびりと、お腹に置いた石に、貝をたたきつけて。そう、のんびりと。次は何を食べようか、ウニがいいかな、そんなことを考えていたんだ。


 そうしたら、いきなりつかまって、毛皮を剥かれて、赤裸に….こんな姿に。


 なんてことするんだ!


 おかしいよ!


 絶対に!


 誰か助けて!


 あれ……コツ、コツ、足音。誰かがこっちに来る。


 誰か……助けてくれるかな。助けてくれないかなぁ。


 でも、人間だよね。人間て、ボクたちのことを目の敵にしてて。

 なんでそうするんだろう? ひどいよ。人間に近づいたら、危ない。


 でも、でも、ひょっとしたら、人間の中にも、いい人はいるかもしれない。


 ボクを助けてくれるかもしれない。

 ボクはこんなにひどい状況なんだ。


 ボクを見たら、手を差し伸べてくれるかもしれない。ボクは…賭けてみるんだ! そうするしかないんだ!」


ジョヴァンニ 「やっぱりラッコの毛皮ってあったかいなぁ。こうやって襟巻きにしていると。夜でも全然平気だ。本当によかった。お父さんを信じていて。


 あれ? 誰かいる。薄暗がりの中に。


 こっちを見ている。なんだ? あれは。


 人間? 人間じゃなさそうだけど。


 なんだかすごく訴えかけている。訴える目をしている。どうしよう。無視する?


 でも……あの目……無視できない。気になる…行ってみよう」


ラッコ 「あ、こっちに来た。あれは、いい人なのかな。それとも悪い人なのかな。どうしよう。ボク、赤裸で何もできない」


ジョヴァンニ 「君……どうしたの? そんなところでうずくまって。


 何か困ってるの? 相談して。


 僕でできることなら何でもするよ」


ラッコ 「ボク……ボクは……あれ? 君、君が首に巻いているのはなに?」


ジョバンニ 「え? お父さんからお土産にもらった、ラッコの毛皮の襟巻きだよ」


ラッコ 「あ、ああ、ああ、そ、それは……ボクの……ボクの毛皮だよ!」


ジョヴァンニ 「これが? 君の毛皮?」


ラッコ 「そうだよ! 君のせいで、ボクは、ボクは……こんな……こんな姿に…いったいどうしてくれるんだよっ!」


ジョバン二 「落ち着いて。それじゃあ、君はすっかり剥けてしまったのかい? 」

 

ラッコ 「そうだよーっ!」


ジョバンニ 「僕は、君がうらやましいんだ」


ラッコ 「どうしてーっ!」


ジョバンニ 「僕は、まだ皮が剥けてないんだ」


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