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6話 「初来客」

 



『あ』


「んぇ?」


『ルルテさん、来ました』


「なにが?」


 失敗とはいえ魔法を使ったからなのか、何だか疲れたルルテは地面のスレスレを漂っていた。

 そんなルルテを静かに眺めていた……のかは分からないが、黙っていたダンジョンコアが不意に声を出した。


『侵入者、と言いますか……お客さんですね』


 パッ、と再びダンジョンコアがダンジョン内外の映像を映し出す。

 小さな花園と、ぷるぷるしているスライム。


「…………?」


『ほら、ここに……蝶ですね』


「ちょうちょ……」


 ずいと画面がズームされると、確かにひらひらと赤い何かが舞っている。

 ぴた、と花に止まったそれは、鮮やかな赤い羽を持った蝶だった。


「えーと……これで、魔力が集まる、の?」


『はい。今も少しずつ魔力を吸収しています』


「へぇー……」


 蝶はふわりと羽を動かしながら花の蜜を吸っている。特に何かを気にしているような様子もない。

 時折花と花とを移動しながら蜜を吸い、ひらひらと舞って飛んでいる。


『このあたりに生息しているアカバネミマアゲハです。ごく一般的な蝶ですね。ルルテさんは見たことはありますか?』


「うーん、たぶんないかな」


 蝶自体見たことが少ないルルテだが、こんなに赤くて綺麗な蝶は見たことがない。赤い羽がパタパタと動くたび、その羽が日の光で鮮明に景色から切り取られてよく目立つ。


『となると、やはりルルテさんの故郷は遠いのかもしれませんね……』


「ちょうちょきれいだねえ」


 ルルテはポケーっと蝶に見入っている。

 ダンジョンコアは切り替えるように点滅した。


『さて、これでも魔力は回収できていますが……ごく微量です。蝶も違和感を感じていずれ飛び去ってしまうでしょう。効率良く魔力を集めるには……蝶を狩る、つまり殺す必要があります』


「ころす……」


『……ルルテさんは、殺すことに抵抗を……嫌だと感じますか?』


 ルルテは何かを殺したことは、たぶんない。

 きれいな蝶を殺してしまうのは、少し可哀想だなと思う。だが……


「……ごはんのためなら仕方ないと思う」


 意味もなく蝶を殺すのは良くないと思う。だが、ご飯のこととなれば……自分が生きるためのこととなれば、話は別だ。


 人間の頃であれば、もしかしたら命を奪うことに躊躇っていたかもしれないが……ご飯が食べられるしあわせを知ってしまった以上、その欲求が罪悪感を大きく上回っていた。


『それは……たとえ殺すのが人間であっても、ですか?』


「うん」


 これまで死が身近にある人生だったからだろうか。それとも、人魂という魔物になって人間ではなくなったからだろうか。


 ルルテにとって人間の命が重いものであるという認識はかなり薄かった。

 人の命も、蝶の命も、生き物の命に大した変わりはなく、殺すのが人間であっても蝶であっても変わらない。


「お腹いっぱいのご飯のためなら、わたしはなんでもするよ」


 それが、一度は人生を終えたルルテの、一番の欲求にして生きる意味であった。


『……分かりました。ルルテさんが生物を殺すことに忌避感がないなら良かったです。ならば、これからスライムに指示を出して蝶を殺しましょう』


 ぼわ、と炎を膨らませたルルテに応えるように、ダンジョンコアがチカッと煌めく。


『ただ、スライムの動きはかなり遅いので難しいとは思いますが……とりあえずやってみましょう。一緒に』


「うん!」


『初めての狩りです!』


「おー!」


 ワクワクしてきたのかルルテがふわふわと上下に揺れる。ダンジョンコアもそれに合わせるようにピカピカと光を点滅させる。ダンジョンコアなりに、ルルテのことを心配して空気が暗くならないようにしているのかもしれない。


『スライムは話せませんが、私達の言うことは理解できます。今から私達の会話をスライムに繋げるので、まずはスライムが蝶を捕まえられるように、指示をしましょう』


 パア、とダンジョンコアが光るとルルテに向かって伸びてくる。


『はい、これで繋がりましたよ』


「わー……」


 ちらっと宙に浮かぶ映像に目を移す。

 スライムは先程から全く変わりなく、ただぷるぷると震えていた。


「スライムー?」


 スライムはぷるぷると震えている。


「……ほんとに言葉わかるの?」


『分かっている……とは思いますよ。多分、指示を出せば動いてはくれるかと……』


「ほぁー…………」


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