3話 「スライムってかわいいね」
『ルルテさん、少し離れていてくださいね。いきますよ』
ルルテはふよふよと飛んで壁際へと移動した。
ダンジョンコアがチカッ、チカッと瞬き始める。
やがてブワ、と強い光が洞窟を満たしたと思えば、その光は一カ所に収束した。
白い光が収まれば、そこにあったのは。
「わぁー……?」
水たまりだった。
「これが……スライム?」
『もうしばらくすれば動き出すはずですよ』
ふよふよと近寄り、じーっと水たまりを眺めていると、水たまりがふるふると震え出して形を変え始めた。
ぷるん、という表現が適切な見た目のそれは、確かに緑色の半透明で、丸くてぷるぷるしている。
ぱっと見は生きているのかすら分からないが、よくよく見れば中央に何やら小さな石のようなものが浮いていた。
「おぉー……」
『これがスライムです。まぁ、魔物の中では動きも遅くかなり弱いですが、防御と素早さが低い分敵を捕らえた際の攻撃力はそこそこなので、小動物程度なら多少は戦える魔物です』
「ほぉー……」
スライムはぷるぷると震えている。
何か大きく動くような様子はない。
「おしゃべりはできないの?」
『できませんね。そもそも、ルルテさんもこうして私と会話しているのは召喚者と被召喚物である繋がりから意思疎通ができているだけで、実際に声を発している訳ではありませんからね』
「え!?そうなの?」
てっきり自分は喋っているつもりだったルルテだが、確かに口もなく呼吸すらしていない状態では声を出すのは不可能である。
もう一度スライムに目を落とす。
スライムはぷるぷると震えている。
「……かわいいなぁ」
ルルテはスライムを抱きしめてみたいと思った。もちろん、今は抱きしめられる体がない上に触ることすらできないが。
ぷるんとしたスライムのからだは触り心地が良さそうだ。
『ルルテさんのことは敵と認識しないので大丈夫だとは思いますが、スライムは獲物に巻きついて絞めたり、飲み込んで窒息させたり、酸で溶かしたりするので、気をつけてくださいね』
「わぁ…………はーい」
見た目に反して、魔物は魔物。やっぱり危ない生き物のようだ。
『では魔物も作ったところで、次は配置に移りましょう。と、その前に』
ピカッとダンジョンコアが光る。
すると三本の光がダンジョンコアから放たれ、空中に板のようなものが出てきた。よく見ると、ルルテ達がいるこの洞窟内と、外の様子と、もう一つどこかの洞窟がそれぞれ写っている。
まるで、空中に窓があって景色が切り抜かれているようだ。
『ここと、ダンジョンの入り口方面から見た外と、あとはそこの、外と繋がっている、ダンジョンにあるもう一つの空間の映像です』
この場所の奥の方ではもう一つの空間と小さな穴で繋がっている。この二つの小部屋を合わせて洞窟であり、ダンジョンとなっている。
『ルルテさん、ちょっと動きながら、左の画面を見てみてください』
ルルテはぐぐーんと上下に動いてみる。すると、あの窓のようなものに映っている青い小さな火も一緒に上下に動いている。
「えぇー!」
『この映像はほぼズレがなくその場所の映像を映すことができます。ダンジョン内とダンジョンの周りだけですが。そして魔物や餌は、あの中央に映っている隣の空間に配置します。この場所にはなるべく侵入者を入れたくありませんからね』
ダンジョンコアがチカっと光る。それもあの映像?に映っている。
ルルテがそれに興奮していると、スライムがのそのそぽよぽよと動き出して隣の空間へと移動していった。
「あ!スライム!」
すると、中央の映像の端からスライムがぽよぽよと現れてきた。
『この空間は、高さは人間がギリギリ立てるくらい、広さは人間が余裕で横たわれるくらいですね。今スライムがいる向こうの空間は、高さは人間がしゃがんでギリギリ入れるくらい、広さはここと同じくらいです。虫や小動物なら十分に入れるくらいの空間ですね。さて、ここにスライムや餌となる植物を配置するのですが……ルルテさん?』
「んっ?な、なぁに、ダンジョンコアさん?」
映像に夢中になっていたルルテにダンジョンコアが声をかける。
『これから、配置を考えたいので、一緒に考えてくれませんか?』
「あっ、うん!わかった!」
ルルテの注意が引けたところで、ダンジョンコアはピカ、と光って話を進めた。




