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プロローグ 「腹ぺこ少女、転生する」

ダンジョン経営ものです!

女の子?二人による殺伐ほのぼの目指していきます!


本日三話投稿、その後は週二〜三話ペースでの投稿を予定しております。

 


 暗闇の中で、何かがうごめいている。


 目を凝らせば、それがボロ切れを(まと)った小さな人間だと分かる。ガリガリに痩せていて子供くらいの大きさしかない。性別すら定かではない。


 それはじっと丸まっていた。

 もうしばらく何も口にしていない。空腹を感じる感覚すら薄くなっていた。今はただ、寒さに震え、じっと体力の消耗を防ごうとしていた。


 カヒュ、と喉の奥から乾いた呼吸音が聴こえる。


 その小さな音を最後に、それは静かに動きを止めた。





○ ○ ○





「にゅ?」


 ルルテはなんだか、長い間眠っていたような感覚がした。そもそも最近は、極度の空腹と寒さにより満足に眠れることがなかったのに。


 むむむ、と頭をひねりながら周りを見回してみると、いつも寝ている隙間風のひどいボロ屋ではなさそうだった。

 薄暗い洞窟のようである。土壁に囲まれた小さな空間がぼんやりと白い灯りに照らされている。振り返ると拳大ほどの大きさの、四角い石のようなものが台座の上で白く光っていた。


 ルルテは人生で見たことがないようなキレイな石に見惚(みと)れてしまう。


『そこの方』


「わ!だれ!?」


 急に女の子の声が聞こえてきた。ルルテは驚いて周りをキョロキョロと見回してみるものの、誰もいない。


『そこの方、落ち着いてください。私はあなたの前にある石です』


 ぱっと石の方へ振り返る。

 白くキレイな石は、ほわほわと優しい光を放っている。


「い、石が……?」


『そうです。あなたにお願いが……その前に自己紹介をしましょうか。私はダンジョンコア217です。あなたは?』


「わ、私はルルテだよ」


 咄嗟(とっさ)に名乗るルルテ。ダンジョンコア217と名乗った石は満足げにピカピカと点滅した。


『ルルテさん。あなたには、このダンジョンの運営を手伝っていただきたいのです』


「ダンジョンって……あの、ダンジョン?」


『あの、ダンジョンです』


 ルルテの住んでいる近所にはなかったため行ったことはないが、ダンジョンという不思議な場所があることはルルテも知っていた。

 たしか、魔物という危険な生き物がたくさんいて、貴重な石とか、草などの素材が手に入るという場所、だったはずである。


 ルルテが持っている知識はその程度だった。


「えっと、じゃあここってダンジョンなの?なんで私が?」


『協力をお願いするために魔物を呼んだところ、ルルテさんが召喚されたのです』


「まもの……?」


『あら、自分のお姿の認識がまだでしたか。こちらにどうぞ、私に反射した姿が見られると思います』


 呼ばれるままにダンジョンコアへと近づく。ふわふわと近寄ると光を抑えてくれたようで、つるりとした面に何が反射している。

 覗き込んでみると、そこに写ったのは人間の姿ではなく。


「青い……火?」


 小さな青い火が、ふわふわと浮いている。


 たしかに言われてみれば、なんだか体の感覚がちょっと変だったな、とルルテは気づく。

 最近は手足の感覚がもうなかったため、ちょっと体のかたちが変わっていることに気が付かなかったようだった。


『「人魂(ひとだま)」ですね。人間が死亡した後の魂が魔物化したものです』


「わたし、死んじゃったんだ……」


 ルルテが覚えている人間としての最期は、極度の空腹と、寒さと、それを超えた後の全ての感覚が消えていく消失感だった。


 貧しい村に生まれ、常に満たされない空腹に襲われていた。親を手伝って働いても稼ぎは(すずめ)の涙で、数多くいた兄弟は一人、また一人と動かなくなっていった。

 両親までもが倒れてからは、働くことすらできず、ただただ空腹に耐えながらじっとしているだけの日々だった。


「……おなかいっぱい、食べてみたかったな」


 夢を見る余裕すらなかった生活の中で、ルルテが唯一抱いた願いは「満腹」だった。


 食べ物をいっぱい食べると、とても満たされた感覚になってしあわせになれるらしい。

 ならいつか、わたしも、食べ物をいっぱい食べて、お腹いっぱいって言ってしあわせになりたいな。


 成人することすらなく人間としての生を終えることになった、貧しい少女の小さな願いだった。


『……なら、お腹いっぱい食べますか?』


「え?」


 ダンジョンコアはほんのりと光を強める。


『協力してくださるのであれば、あなたにお腹いっぱいのご飯を用意すると約束しましょう。魔物のご飯は魔力なので、魔力をお渡しするということですね』


「……ほんとうに?」


 ルルテにとって、ご飯が何であるかは重要ではなかった。


 人生でただ一つの願い。ずっとずっと、きっと生まれた時から願っていた、死ぬまで叶うことのなかった、小さな願い。ルルテには叶えられなかった願い。

 それを、この人は叶えてくれると言っている。


『えぇ。先に魔力を差し上げましょうか。もちろん、協力するかどうか考えるのはその後でいいですよ』


 いきますね、と声をかけたダンジョンコアが眩しく輝きだす。それと同時に、ルルテは自分の中に何かが流れ込んでくるのが分かった。


 ほわほわと、あたたかい何か。それはルルテのお腹のあたりに溜まっていく。どんどん流れ込んできて、もうお腹から溢れてしまいそう、と思ったところでダンジョンコアはふっと明かりを落とした。


 ルルテは、感じたことのない感覚に身を委ねていた。


 あぁ、お腹にぎゅうぎゅうに何かが詰まっていて、それが重たくて体が一緒に揺れている。

 お腹からぽかぽかと温かさがからだ全体に伝わって、眠たくなって、ちょっとふわふわした、夢を見る前のまどろみのような感覚。


 これが、満たされているという心地。

 これが、しあわせの感覚。


 もちろん、人魂になったルルテにはお腹も体もないのだが、人間の時の名残りで体の感覚が残っていたのだ。

 ふわ、ふわとゆるやかに揺れる人魂は、まるで踊っているかのようである。


 はぁ、とルルテは息を吐いた。


「これが、おなかいっぱい……」


『……どうですか?ルルテさん。私に協力し、ダンジョンの運営を手伝ってくれるのであれば、定期的に魔力を差し上げると約束しましょう。私に協力するということは、魔物として人類に敵対することもあるということです。断っていただいても構いません。その場合は、ダンジョンの外に出てもらうことになります。どうしますか?』


 ルルテは満腹にぽやぽやしている頭で考えてみた。


 ダンジョンコアに協力すれば、このしあわせが何回も体感できる。

 人間と対立するかもという話は、正直ルルテにはよく分からなかった。魔物は危険だと言われていたから、魔物にとっても人間は危険ということになるのかもしれない。

 ルルテには、この話を断ることで得られるものが分からなかった。


「この、しあわせをくれるなら……ご飯をくれるなら、わたしはあなたを手伝う」


『契約成立ですね』


 ブワァ、と先程よりも強い光が洞窟内を埋め尽くす。


 ルルテは何かが自分の中に流れ込んでくるのが分かった。だが、先程とは少しだけ違う感覚だ。

 流れ込んできた何かはルルテの中で形を作っていく。それがカチッと固まった時、ダンジョンコアとの繋がりがより強くなったことを感じた。


『さて、契約も無事完了したところで……あらためて、これからよろしくお願いしますね、ルルテさん』


「うん、えっと……ダンジョンコアさん」


 こうして。一つの小さな人魂と、一つの小さなダンジョンコアが出会った。


 この出会いが世界にどう影響を与えるのか、影響を与え得る存在になるのか……それは、まだ分からない。


 ただ一つ確かなことは、ルルテという空腹感しか知らないままに死ぬはずだった少女が、魔物になって、満腹感を知ってしまった、ということだけである。


プロローグを読んでいただきまして、ありがとうございます。

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