堕天使
突如、名防省へと乗り込んできた漆黒の翼を持つ男。
名を――「ルシファー」。
「君をスカウトしに来たんだ! 我が《奈落十三印》に!!」
少年はルシファーに舌を出して、あっかんべーをした。
「誰がお前なんかのところに入るかよ! べー!」
「なぜだ!? 何度も何度も、お前の元へ赴いたというのに!!
お前は私の物だ――戦争ッ!!」
ルシファーは全身を震わせるほどの声で叫ぶ。
「今ここで私の元へ来れば、団員のNo.1の称号を与えよう! さあ、来い……来るのだ!!」
「だからお前のとこには行かないって言ってるだろ!?
俺は、この人たちに助けられたんだ!!」
「なんだと……? 何をこいつらに吹き込まれた!?
こいつらは所詮――《偽物》だ」
その様子を見ていた破壊大臣が間に入った。
「もうそこまでにしておけ、ルシファー。少年はお前についていかない。それだけだろう?」
「……」ルシファーは沈黙し、考え込む。
「百歩譲って、私についてこないのは認めよう……。
ただ! 名防省に付くのはおかしいだろう!? 何か裏がある……例えば――《ムネーモシュネー》が絡んでいるはずだ!」
「 そんなわけないだろ…!」
「その焦り様……やはりあいつか。普段は姿を見せないくせに、こういう時だけは邪魔をする……」
ルシファーは小さく息を吐いた。
「まあいい。なぜお前が名防省に付いたかは理解した。ならば、私はここで退くとしよう……。長居は無用だからな」
すると、環境大臣が切れた顔で叫んだ。
「さっきから何を抜かしてやがる!! この子はお前の物じゃねえ!」
その必死さに、戦争の少年は涙ぐんでいた。
「ん~? 誰だ、貴様は。今日は定例会議のはずだろ?」
「ああ? 俺は環境大臣――ゼンだ!」
「は! 嘘だろう? ならばGネーム《自然》は貴様が持っているのか!? ……なんだと。名防省も落ちたものだな。最強のGネームを、このような弱者に託すとは……」
「だったら、てめえに見せてやるよ……俺の強さをな!」
ゼンは右腕をルシファーに向けた。瞬間、雲が渦巻き、ルシファーへと突進する。
「ゼン! やめろ!! そいつに《攻撃をするな》!!」
破壊大臣が叫んだが、もう遅かった。
だが、ルシファーの体はビクともしない。
それどころか、さらに巨大に膨れ上がっていく。
「ハハハッ!!! どうだ? ……いっそのこと名防省を潰してやろうか!」
その言葉に破壊大臣が前に出た。
「そこまでにしておくんだルシファー…」
続いてミカも前に出る。
「ここでは暴れさせないわよ……!」
彼女の体の震えは、すでに止まっていた。
二人に続き、ゼンとヨルもルシファーを睨みつける。
「……さすがに4対1は分が悪いな」
ルシファーは手を地面へ当てた。
「今日は見逃してやる……。だが近いうち、人間界で暴れさせてもらうぜ。じゃあな」
「待て!!!」
破壊大臣が呼び止める。
「あの日……お前は《虚無の楽園》で何を見た!」
「………」ルシファーは一瞬、目を細めた。
そして、静かに口を開く。
「……《世界の真実》」
それだけを言い残し、ルシファーは名防省を去った。
警報は鳴りやみ、ぬりかべも姿を消していた。
短い沈黙の後、環境大臣ゼンが声を荒らげる。
「誰なんですか!! あの男は!!」
だが誰も答えない。
「破壊のおっさん!! 誰だって聞いてんだよ!!」
破壊大臣は拳を握りしめながら答えた。
「あいつの名は……ルシファー。元・平和大臣だ…!」
衝撃の言葉にゼンは唖然とする。
「な、なんでそんなことが……!!」
「分からない……ただ――《禁断の書》を読んでしまった可能性がある」
「き、禁断の書……? なんだよそれ?」
ミカが口を開いた。
「禁忌とされる“神”に関する書物よ。約2000年前に記された文献。著者は不明、神について唯一書かれた書であり、神への反乱を招くとして厳重に保管されてきた禁書よ」
「じゃあ……なんでルシファーは、それを見たんだ?」
破壊大臣は苦々しく顔を歪めた。
「それは……私の一生の不覚だ。平和大臣は代々、テンビン家の長女が就任する。だが、ルシファーは出自も分からぬ特異な存在だった。ただ一つ……父親が大の神嫌いであったことだけは知られている。だからこそ、ルシファー自身も禁断の書に惹かれたのだろう……」
「そ、その、禁断の書と、環境大臣に、なんの関係が…?」
「禁断の書は先代環境大臣が管理していたのだ…ルシファーはその環境大臣を殺して、禁断の書を奪い、名防省を離れた…
このことは、私とミカと副大臣たちと国王しか、知らない。そして、私たちは、あいつのことを、堕天使と呼ぶことにしている…」
「堕天使ルシファー…名前だけなら聞いたことはあったが、やっぱりあいつだったのか…」
「さっ、今は、それよりも、定例会議についてだ!皆の者、席へ付け!!」




