破壊大臣
重く閉ざされた扉が開かれると、そこにあったのは――威厳など微塵も残さぬ、崩れかけた王の姿だった。
椅子に深く腰を沈めた国王は、頬がこけ、唇は青白く、汗が滲んでいる。
その手はわずかに震えており、焦点の合わない瞳が宙を泳いでいた。
「う、うう……あいつが、裏切ったのか……? もし、皆のものにあの事がバレれば……いや、そんなことは……無いはずだ……」
その声は掠れており、思考の渦に飲まれているようだった。
ヒロは国王を見た。しかし、何か違和感を感じたが、心配をし、話しかけた。
「国王様⋯?大丈夫ですか?」
国王はその声でようやくヒロたちが入ってきたことに気づいた
「お、おう、お前さんたち⋯よく来てくれたな⋯
ワシも一緒になって戦いたいところなんじゃが⋯生憎な⋯ゴホッ...」
その様子を見たミカは国王に優しい声で話しかけた
「国王様⋯国王様のことは私たちが命をかけて守ってみせます⋯」
国王の様子を見て、ヒロの後ろにいた副大臣のネスが眉をひそめた。
「……これは思った以上に深刻だな。精神的に追い詰められている」
隣に立つ仲間のネルが小声で続ける。
「誰かに――いや、何かに怯えてる……?」
ヒロは心配そうに国王へ一歩近づこうとしたが、ミカが手を伸ばして制した。
「それ以上は近づいてはダメよ⋯!王のお側に近づくのは許されていないわ。今は⋯悔しいけど、門の近くで警戒に立ってもらうわ」
「……わかりました」
ヒロはわずかに悔しそうに目を伏せると、ネスとネルと共に部屋の外、少し離れた門のそばへと向かった。
そしてその数分後――
彼らが国王の部屋の前で、立っていた。その瞬間だった。
ドン!!
豪快な蹴り音と共に、階段からここに繋がる、廊下の扉がが吹き飛ぶように開かれた。
その向こうから現れたのは――
大柄な男だった。
背は高く、広い肩に黒いマントをまとい、顎には立派な髭を蓄えている。
目つきは鋭く、ただ立っているだけで空気が震えるような圧力があった。
「無事か!? 国王!!」
その声に反応するよりも早く、ヒロの体が動いていた。
「……敵かッ!」
右手が青龍へと変化する。
蒼き鱗が巻きつき、力がうねり、風が唸る。
「――蒼天牙龍撃ッ!!」
放たれた渾身の一撃が、一直線に男を貫く――はずだった。
だが、
ズッ――
青龍の一撃は、男の身体をすり抜けた。
「な……!」
驚愕するヒロ。攻撃は確かに当たった。なのに、手応えは何もなかった。
男はわずかに笑みを浮かべた。
「ふん……中々いい反応だな。ヒロ」
その一言に、ヒロの目が見開かれる。
「な、なんで俺の名前を……!? 会ったこと無いはずだろ……!」
再び構えようとするヒロを、ミカが笛を持った左手で止めた。
ヒロはミカの行動に唖然とした。そして、ミカの方を見る
「え……?」
するとミカは深く頭を下げていた、そして深く低い声で礼を述べた
「お疲れ様です。破壊大臣様も来てくださいましたか⋯!」
その言葉に、場の空気が一変する。
――破壊大臣。
それは、国家の軍事部門の最高権力者であり、Sネーム保持者の中でも最上級の破壊能力を持つ者に与えられる称号。
名防省六大臣のひとりにして、Gネーム保持者。
ヒロは、愕然としたまま言葉を失っていた。
その巨体から見下ろし、大きな目で平和大臣に言った
「ミカか。ご苦労だな、入ってもいいか?」
「ええ。ぜひ。布団で寝ております。」
破壊大臣は国王の寝室へと静かに入った。
扉が軋む音さえ、重苦しく響く。部屋にいた者たちは、その男の存在感に自然と口を閉ざした。
「……陛下」
破壊大臣は深く頭を垂れ、膝を折った。
その大柄な体格からは想像もつかないほど、礼儀正しく、丁寧な動作だった。
国王は弱々しい息を繰り返しながら、ぼんやりと天井を見つめていた。
焦り、恐れ、そして何かを振り払おうとするような揺れる目。
(演技か……それとも本当に……?)
破壊大臣は国王の顔色をじっと見つめた。
その表情に一瞬の隙を探すように。だが、すぐに見切ったようにゆっくりと立ち上がる。
――そして、その目を、ヒロへと向けた。
無言のまま歩み寄ってくるその姿に、ヒロは自然と身構えた。
「……な、なんだよ」
返答はない。
次の瞬間、ヒロの身体は宙に浮いていた。大臣の大きな手が、容赦なく彼を抱え上げていた。
「ちょっ、ちょっと待てって! 何すんだよ、離せってば!」
騒ぐヒロを無視して、破壊大臣は部屋の隅にある使われていない控え室の扉を開け、乱暴でないが確実な力でヒロを押し込む。
重たい木扉が静かに閉じられ、部屋にはふたりきりの静寂が落ちた。
破壊大臣は壁にもたれるように立ち、低く、しかし確実に問いかけた。
「お前に、質問をする。――なぜ、この地まで来た?」
その問いかけに、ヒロは一瞬、何を聞かれているのか分からず言葉を失う。
「は……? なんであんたにそんなこと……」
だが、破壊大臣の目は一切の揺らぎもなく、ただ真っ直ぐにヒロを見据えていた。
嘘をつけば即座に見抜かれそうな、圧倒的な存在感。
ヒロは唇を噛み、渋々と口を開いた。
「……俺の住んでた街を……襲った奴を、探してる。それだけだよ」
破壊大臣は目を細めた。
「街の名前は?」
「……ジャポン」
その名を聞いた瞬間、破壊大臣の眉がわずかに動いた。
確信を得たような――いや、思い出したような、何かを繋げるような反応だった。
しかし、それ以上は何も言わず、ただ短く言い放つ。
「……分かった。もういい。戻れ」
「は? おい、ちょっと待てよ。勝手に連れてきて、勝手に質問して、終わりってか!?」
ヒロは怒りをあらわに詰め寄るが、破壊大臣は目を伏せたまま動かない。
まるで、今の会話以上は“許されていない”かのように、頑なに沈黙を守っていた。
やがてヒロは舌打ちして、部屋を出ようと扉へ向かう。
そのとき――。
「……ジロは、どこにいる?」
背中越しに、その名が響いた。
ヒロは一歩、足を止めた。
だが、返事はしない。ただ静かに扉を開け、何も言わずに部屋を後にした。
扉が閉まったあとも、破壊大臣は微動だにせず、その場に立ち尽くしていた。




