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神の名を求めて  作者: ササン木
神界編
36/51

神獣との修行part.2




何時間たっただろうか。ここは、深海。今何時かも何もわからない。

空気が重くなる。さっきまで静かだった石畳の広場に、無数の影が現れた。


 ジロが手をかざすと、地面から亀型の幻影兵が次々と立ち上がる。大きな甲羅を身にまとい、感情のない顔で、嘴を尖らせ主人公と神獣を見据えている。


「次は、“戦闘同調”だ。実戦で、お前と神獣がどこまで一体となって動けるかを試す」


 ヒロは拳を握りしめた。神獣はその横で低く唸り、気を高める。


「さっきの舞と違って、今度はお前たちに“役割”はない。どちらが攻めても、守ってもいい。ただし、一瞬でも迷えば、それが死を招く」


 師匠が指を鳴らした瞬間、幻影兵が一斉に突進してきた。


「くっ!」


 ヒロはすぐさま前へ出る。青龍は横に跳躍し、鋭い爪で敵の一体を切り裂いた。


「──合わせる、んだよな!」


 振り返りざま、神獣の動きに合わせて拳を叩き込む。うまくいった、と思った瞬間──


 ドッ!


「うわっ!」


 神獣のしっぽと主人公の蹴りが交差し、互いの動きを相殺してしまった。反動で二人とも吹き飛ぶ。


「くそっ……!」


 幻影兵は容赦なく迫ってくる。ジロは遠くから言う。


「“力を出すな”。“力を重ねろ”。神獣を“使おう”としているうちは、融合には届かん!」


「使うつもりなんて……!」


 叫ぶ主人公の前に、神獣が覆いかぶさるように体を寄せる。深く呼吸し、再び、ヒロと向かい合う。


 視線が交錯する。


 言葉ではない、理解。


(……もう、一人じゃない)


 息を吸う。


 幻影兵の一体が突進してくる。


 神獣が先に動いた。ヒロは考える前に、体を預ける。


 爪が敵を切り裂き、直後、ヒロの肘が敵の脇を砕く。


 別々の体。だが、ひとつの動き。


「いいぞ……」ジロが呟いた。


「──もう一歩だ!」


 幻影兵がさらに数体、四方から迫る。


「……神獣、いこう!」


 神獣が咆哮を上げる。


 主人公と神獣は左右から同時に跳躍し、回転して空中で交差する。


 一撃。


 二撃。


 そして最後の三撃。


 二人の軌跡が、まるで一筆書きのような弧を描いた。


 ドンッ。


 全ての幻影が、消えた。


 静寂が訪れる。


 ジロが歩み寄り、静かに呟いた。


「……見事だ。“分けられた命”が、“一つの意思”に還りつつある」


 ヒロは肩で息をしながら、神獣の背に手を置いた。


「……お前の動き、見てたんじゃない。感じてた。……いや、違うな。俺自身だった。そう感じたんだ」


 神獣が満足げに低く唸った。


「ヒロ⋯お前の動き…見違えったな。」


「さっ、次が最後だ。最終修行、“無明の洞窟”」


 ジロは空を見上げ、両手を掲げた。


「そこでは何も見えず、何も聞こえず、何も感じられない。ただ、お前と神獣の魂だけが存在する空間だ。そこで完全に同調できた時──お前たちは、“一つ”になれる」


 風が止まり、音も無くなった。そして空間が淡く歪んでいく。


「行ってこい。ここからは、誰も手を貸せない。完全に二人の空間だ。」


 光が、すべて消えた。


 音も、温度も、感覚もない。そこは“何もない”空間──無明の洞窟。先程の洞窟は発光植物が照らしていたが、無明の洞窟は壁すら見えない完全な暗闇であった。


 ヒロは、闇の中に立っていた。壁もなければ、岩もない。ただ、深く静かな闇が広がっている。海の中であり、太陽の光なんて物は少しも届かない。まるで宇宙の中に放り出されたような気分になっていた


「……ここが、“最終段階”か」


 声が、闇に吸い込まれていく。反響はない。自分の声すら、まるで誰かのもののようだった。


 そのとき、闇の向こうから気配が現れた。


 ──青龍。


 だが、見たことのある姿ではない。


 それは、まるで“ヒロ自身”のような形をしていた。金の瞳と黒の気をまとった、もう一人の自分。


「……お前が、“青龍”なのか?」


 偽りのような自分が、口を開いた。


「いや。“お前の内側”だ。これまでは、肉体だけを共有していた。だが、魂の融合とは、“心の奥底を照らす”こと。つまり──お前自身と向き合うことだ」


 ヒロは一歩、踏み出した。


「なら聞く。俺の中の“何”が、お前を拒んでいた?」


 “もう一人の自分”が答える。


「怖れていたんだ。“完全になること”を。力を得た先に、自分が変わってしまうのではないかと。仲間から、世界から、“お前”でなくなることを」


「……違う!」


 ヒロが叫んだ。声が反響した。今度は、確かに届いている。


「怖れていたのは、変わることじゃない! “失うこと”だった。神獣の力を完全に手にしたら──お前が、俺の中で消えてしまうんじゃないかって……」


 青龍が、ゆっくりと近づく。その姿が、再び本来の龍の形へと戻っていく。


 そして、ヒロの目の前に止まった。そして、静かに言葉を紡いだ。


「ならば、証明しろ。“一つになる”とは、“消える”ことではない。“共に在る”ということだと──」


 その瞬間、空間が大きく揺れた。


 地平のない世界に、光が差し込む。闇に、金の紋様が浮かび上がる。


 ヒロは青龍へと手を伸ばした。


「……行こう。お前となら、どこへでも行ける」


 神獣がうなずく。


 手と爪が重なる。


 意識が混ざり合う。


 身体の奥から、熱が昇ってくる。


 魂と魂が、ゆっくりと、確かに重なる。


 ──そして。


 白光が、結界を裂いた。


 修行場の洞窟。師匠が静かに目を閉じていた。


 洞窟の中が、金色に染まる。


 中心に現れたのは、漆黒の衣をまとう青年。背中には神獣の鬣を残し、瞳は左目はヒロの目。右目は青龍の黄金の目となっていた。

洞窟の動物たちはその姿を見た瞬間に勝手に頭が地面に着いた。体は脳からのいうことを無視し、本能のままに動く。

目の前にいるのは、自分よりも崇高な存在。そんな者を前に感動とともに、少しの恐怖感すらもあった。


「来たか……」


 師匠は微笑む。


 「メルヘイヤの“完全融合体”──これが、“お前の形”か」


 主人公は静かにうなずき、拳を握る。


 「俺たちはもう、迷わない。神獣と共に、“俺”として進む」

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