出会いそして別れ
―――ヒロが帰ってきたのは昼頃だった。
かつての彼なら、笑顔で昼食を食べていたに違いない。だが今日は違った。まるで心に重くのしかかる何かがあるように、俯いたまま食卓についた。
無理もない。ヒロを助けてくれたと思っていた老人――ジロが、実は彼の故郷を襲撃し、家族を殺した張本人だったのだから。
ジロはそんなヒロを追い詰めるように、冷たく言い放つ。
「お前の王国の軍隊は、弱すぎじゃったな。ふん、簡単に全員殺せたわい」
その言葉は、心優しいヒロの怒りに火をつけた。
「……お前を、殺す」
そう言うと、ヒロは物置部屋から刀を取り出し、ジロに向かって突き刺そうとした。しかし、少年の腕力では刀の一撃はジロには届かなかった。
「ほら、ほら。その程度か? お前の力なんて」と、ジロはあざ笑いながらヒロを軽く投げ飛ばす。
「……くそっ、まだだ!! 俺は国を守るために戦うんだ!!」
「まだまだお前なんぞには負けんわい」
二人の戦いは、夜まで続いた。そして気づけば、二人ともその場で深い眠りについていた。
朝。目を覚ましたヒロの目の前には、見慣れたシチューがあった。
「……ほら、食え」
「食べない!!」と叫びながらも、お腹が空いていたヒロは内心すぐにでも食べたかった。
「食わねえと、強い男にはなれんぞ?」
「ま、まぁ……そこまで言うなら食ってやるよ! でも、別にお前を信用してるわけじゃないからな!!」
「わかった、わかった。喉に詰まらせるんじゃねえぞ」
そう言われ、ヒロはシチューを口いっぱいに頬張った。
ジロはそんなヒロを見て、どこか嬉しそうな顔を浮かべていた。
――だが、その背後には魔の手が忍び寄っていた。
「今だ!!」
ヒロはジロの脇腹を目がけてフォークを突き立てようとする。しかし、ジロは後ろを見ずとも軽くかわしてしまった。
「……まだまだだな」
それからというもの、ヒロは毎日ジロに挑み、毎日返り討ちにされる日々を送った。
それでもジロは、決してヒロを殺そうとはしなかった。
むしろ、ヒロを鍛えているようにすら見えた
「おりゃああああ!!」
「ほらほら、それじゃあ脇腹がガラ空きじゃろ?」
ヒロはその日々を通じて、みるみるうちに強くなっていった。
それから、五年が過ぎた頃でも、ジロにはまったく歯が立たなかった。
「このままではダメだ……」
ヒロはそう決意し、山に籠って野生動物たちとの戦いを始めた。
動物たちの動きは人間とは比較にならないほど鋭敏で、最初の一週間はまったく触れることさえできなかった。
だが、三年もするとヒロには変化が起きた。
「……読める。足の動き、気配、そして……なんだ、この感覚」
言葉にできない、しかし確かな“気”のようなものがヒロに見え始めていた。
それから一年――ヒロは野山で魚や猪を自ら狩り、己の剣を鍛え続けた。
少年は、かつての自分とは比べものにならないほどの戦士へと成長していた。
そして、村へ帰還したヒロは、かつての宿敵・ジロと再会する。
「ジロ!! あの日の復讐、ここで果たしてやる!!」
「おお、ヒロか……わしの愛しの孫よ。……って違うか。ずっと、ずつと山籠りとは……動物と遊んでただけじゃろ?」
「うるさい!! 剣を抜け!!」
「ふむ……ならば久しぶりの再会じゃ。シチューでもどうじゃ?」
「決闘だ!! 仲間の仇を討つ!!!」
「……そうか。ならば正々堂々、受けて立とう」
ジロは素手で構える。
「素手で? 俺は本気だぞ」
「わしの剣は保管してある。だが、お前はまだ子どもじゃ。素手で充分じゃ」
「行くぞおおおお!!!」
剣を振りかぶったヒロ。ジロはそれを腕で受け止め、腹へ拳を繰り出す。
だがヒロは避け、反撃に転じる。その攻防が続き、ついにヒロの剣がジロの腕をかすめ、血が滲んだ。
「……やるのう。さすがは、わしの孫じゃな」
「ジロ!! なぜ俺たちの王国を襲った!? 答えろ!!」
「……お前には関係のないことじゃ。だが、お前は……本当にかわいそうな子じゃ」
「ふざけるな!! 答える気がないなら、ここで終わらせてやる!!」
戦いは続き、ヒロの中に一つの疑念が芽生える。
「(……何かがおかしい。ジロの動きが、どこか本気じゃない。まるで俺を殺す気がないような……)」
直感か、記憶か。ヒロは迷い、だが――
「……俺は記憶を信じる!!」
――グサッ……
「やった!! これで……復讐が果たせた!!」
だがその瞬間、天から声が響いた。
「――呆気なかったな、ジロ。まぁ、いいものを見せてもらった。だが、もっと良いものが見られそうだ。ここでこのガキの洗脳を解いたらな……」
緑の光が空から降り注ぐ。
「……ん、なんで……俺、おじいちゃんを刺した……? なにか、幻を見てたような……。おじいちゃん、大丈夫!?」
「……ヒロや、ようやく気づいたか。お前は記憶を改ざんされておったのじゃ……」
「そ、そんな……俺は……俺は……」
「ヒロよ……お前は悪くない……悪いのは……×××じゃ……」
「な、なに!? 聞こえない!!」
「……血で、ろれつが回らん……もう、長くはない。これは遺言と思って聞いてくれ……」
「そんな、やだよ!!」
「……神様に会いに行け……わしも助けられた。ヒロも会えば、道は開かれる。そのためには、神獣が必要だ⋯!!行け!さすらば、お前の道は開かれん!!」
「神様って何!?神獣ってなんだよ……どういうこと!? 他には何を……!? 教えてよ!!」
だがもう、ジロに息はなかった。
「……さっきの天の声……あいつが、王国を襲った真犯人か……。ジロに罪を擦りつけようとしたんだ……」
ヒロの冒険が、ここから始まる。
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