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6月12日 広瀬くん(3)

 今日は日記を書かないつもりでしたが、少し書きます。


 授業中は本当に神様が意地悪をしているとしか思えないほど時間が行ったり来たりとなかなか進まず、私をやきもきさせました。


 金曜は部活のない一斉帰宅の日ですから、私は一目散に走って家へと帰りました。私がドアを開けると、シェリー奥様は玄関で待ち構えていたようで、


「とびっきりの衣装ができているわ。早くシャワーを浴びてきてちょうだい」


 とおっしゃいました。私は追い立てられるようにシャワーを浴びて身体を冷ましますと、少しの緊張とともに奥様が仕立ててくださった衣装に袖を通しました。それはシェリー奥様が大事にしていた高級な化繊で織られた真っ白な生地で仕立てられたブラウスとスカートでした。


 ひと目で上等だとわかるその生地は窓から入る日の光をたっぷりと含み、生地自身がやわらかく発光しているように見えました。今にも割れてしまいそうな薄い貝ボタンも、胸元で緻密な模様を描くレースもすべて白色で、それを着た私は、夏の国のお姫様のように見えました。


「気に入ったわ」


 私はため息混じりにうっとりとそう漏らしました。


「本当に美しいわ」


 シェリー奥様もまた熱っぽい吐息とともにそう言いました。

 私がくるりと回ると、スカートが少し遅れて回り、優雅に広がりました。


 生地に爪を立てないよう慎重に脱いで、「明日はお化粧もしましょうね」というシェリー奥様に「似合うかしら」と照れてみたり、「広瀬くんってどんな男の子なの」という質問から逃げ回ったり、「じゃあ明日どこに行くかだけ教えてちょうだい」と聞かれ「クリニックよ」とだけ教えてあげたり、キャアキャアと夜を過ごしました。


「今日はゆっくり休みなさい。睡眠が一番の美容法よ」


 とシェリー奥様はおっしゃっていましたが、事態はそう簡単ではありません。目をつむると広瀬くんの顔が浮かんできて、先日手首を掴まれたことを思い出し、明日ふたりが恋人同士になって、「手を繋ごう」などと広瀬くんの声が聞こえてきて、私の眠りを邪魔するのです。


 けれど早く寝なければなりませんね。私が想像しうる限りの羊たちをかき集め、一生懸命寝てみようと思います。明日が幸せな一日になることを願って。

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