表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/15

6月11日 広瀬くん(2)

 大ニュースです。土曜日、広瀬くんとデートをします!


 あと、あと、「急に帰ろうとした私を嫌いになった?」「バドミントンが下手くそな私を嫌いになった?」という質問には、どちらもノーでした。


「そんなことはないよ」


 と柔らかな笑顔で答えてくれたのです!


 さて、私はシェリー奥様のお陰で大変に勉強のできる生徒でございました。しかし恋のイロハにはめっぽう暗く、駆け引きなどできるはずもございませんでした。昨日泣いたカラスはどこへやら、今日には部活時にはケロケロ笑う蛙になっておりました。すっかり調子が戻った私は、


「広瀬くん、土曜日に一緒に公園へ行きましょう」


 とデートに誘ってしまいました。広瀬くんはちょっとびっくりしたような顔をして、


「すまないが、土曜はクリニックの予約があるんだ」


 と言いましたので、


「じゃあ私も付いていくわ」


 と約束したのでした。それからはもう舞い上がって仕舞って、広瀬くんが羽根をいくら放っても私のラケットにはちっとも当たらず、でも


「落ち着いて、羽根をよく見るんだ。一、二、三、今だ」


 と広瀬くんは優しく、私の中での広瀬くんの「好き」がますます膨れ上がるのを感じました。そして広瀬くんの羽根をうまく打ち返せたときには


「ナイス・ショット!」


 と言ってくれますので、私はもう嬉しくって嬉しくって、「やった、できた!」とぴょんぴょん跳ねてしまうほどでした。



 時々、私は考えていることが顔に出すぎるのではないかと心配になることがあります。しかしそれはシェリー奥様が悪いのです。シェリー奥様はとても鼻が利くお方で、今日家に帰った私の顔を見るやいなや


「おかえりなさい、私のかわいいルリ子。男の子とデートの約束でもしてきたのかしら」


 などと言うものですから、その探偵ぶりに私はびっくりしてしまいました。


「シェリー奥様!」


 と私は靴を玄関に放り出して奥様の胸に抱きつき、鼻をお腹にぐりぐりと押しつけ


「広瀬くんとデートに行くわ」


 と言いますと、奥様は「マァ、マァ」と私を強く抱きしめ、「とびっきりの衣装を仕立てなくっちゃ」とおっしゃいました。


 私が中学校に入学してからというもの、村中先生は研究が忙しいらしく、ほとんどラボに泊まりきりでしたので、日中ひとりきりになるシェリー奥様はここひと月ほどずっと退屈そうなお顔をなされていました。


 しかしこのときばかりはパアっと明るくなり急に活気を取り戻したようで、私は自分の幸福がシェリー奥様をも幸福にしたことに一層嬉しくなりました。


 白羽根マリンを読んだところによると、デートに行くと男性は女性に愛の告白をするものだそうです。大人になることへの不安はありますが、私は昔から「早く大人になりたいわ」と言っていましたから、その時の気持ちを持って臨まなければなりません。明日は日記を書かず、早く寝ようと思います。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ