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一緒にお昼

 その後少しの間、新騎先輩と帰ることはなくなった。しかし、合わなくなったわけでは無くて、新騎先輩は俺の教室を通りかかっては「るうちゃん。おはよ。またね。」と通り過ぎていき、昼休みになると「るうちゃん。お昼一緒しよ。」と教室を覗きこんではクラス内をざわめかせていた。


 「琉詩、いつ先輩と仲良くなったんだよ。」

 琉詩への質問攻めは颯真から始まり、隙を縫って聞いてくる人が多くいた。「わからないんだけど、新騎先輩が仲良くしてくれてて…。」などと曖昧な返事と共に微笑を返していた琉詩だったが、内心では嬉しいという気持ちを隠し持っていた。

 先輩が一緒に居なくとも悲しくはないとは言ったが、新騎の登場は琉詩にとって立派なライフイベントとなっていた。すぐ忘れられるわけもなく、また来てくれることを素直に喜ぶことしかできなかった。

 飽きもせずにこんな平凡な自分に話しかけ続けてくれている。その事実に動揺と喜悦を休むこともなく繰り返していた。


 あまり深く考えずに新騎の後を追うばかりだった琉詩だったが、話す話題を探す時間がどれほど難しいものかを思い知らされることとなった。

 人気のない空き教室を選んだ新騎は机と椅子を向かい合わせに持ってくると、琉詩に自分の正面に座ることを促した。






 緊張で言葉が出てこないのは琉詩だけではない。

 実際は新騎の心臓の方が穏やかなものではなかった。琉詩としては知り合ったばかりの先輩と二人きりという緊張感。しかし、新騎としては可愛らしいものがそばにいるということだけで頭を真っ白にするほどのパニックっぷりだ。ここまで動揺を起こすことは初めだったため大きな体躯に見合わず胸を縮こまらせていた。

 「るうちゃんはお弁当なんだね。」

 布に綺麗に包まれたお弁当を机上に置きながら椅子に腰を掛ける琉詩。俺は同じく市販のパンが入ったビニール袋を机上に置いて腰を掛けた。

 「お姉ちゃんが毎日作ってくれるんです。ほんとにおいしいんですよ。カフェでもお姉ちゃんの料理出してるので今度食べに来てみてください。」

 布の結び目をほどきながら楽しそうに話す琉詩。本当にお姉ちゃんのことが好きなんだと伝わってくる。前に話した時も思ったが、琉詩がお姉ちゃんの話を始めると周りの温度が高くなる。緊張感も抜け、話すことに夢中になっている姿に嫉妬をしないこともないが、それ以上に微笑ましいという思いで頬が緩む。それに、この少し壁が捲れる瞬間がとても嬉しい。

 「そっか。また一緒に帰ろうね。その時に食べさせてもらおうかな。」

 琉詩の声が響く中で途端に聞こえた新騎の声に、琉詩は恥ずかしそうに肩を小さく収めていった。

 「はい。ありがとうございます。」

 

 

 このようなやり取りを数日続けていた。そのころには新騎のスマートフォンには大量の琉詩の情報が書き込まれていた。「るうちゃんと初めてのお昼をした」日。「るうちゃんはお姉ちゃんの話だと楽しそうに話してくれる」「るうちゃんと連絡先交換した」日。さらに俺からの琉詩への質問は続き、順調に琉詩の情報で画面を埋めていくこととなった。


 

 「るうちゃん今日はオムライスなんだ。おいしそうだね」

 「あ、俺が好きなのでお姉ちゃんがよく作ってくれるんです。カフェにもありますよ。」

 琉詩は、落ちないようにと気を付けながらこちらに弁当を傾ける。

 弁当を俺に見せるために頑張る琉詩を見て、俺は一を十で返すように前のめりに言葉を放った。


 琉詩と昼食を共にするようになり嫌でも気づかされたことがある。琉詩はお姉ちゃんが関係する話の時以外は心の扉を開こうとはしないということだ。ましては、元から厚かった壁をより構築しているような気もする。よく話してくれるようになったのに俺がこのように判断することには理由がある。琉詩とはなぜか目が合わない。琉詩は俺の目を避けるように下を向く。かわいいなと思い、見つめすぎているという自覚はある。心当たりと言えばそれくらいだろうか。もしこの心当たりが当たっていたとしたらと思うと少し落ち込む。俺は勝手に痛めた胸の傷をさすりながらも口元を動かす琉詩を眺めることにした。

 

 毎回、そうして俺と居ることを辛そうにしては両手を絡めて居場所を探す。相対的に、一緒に居る時間が増える程に琉詩に向ける好意が増していく俺は、この気持ちの居場所を探しながらため息を飲み込んだ。

 

「オムライスが好き カフェのオムライスも絶品」「困ると両手を絡める」

 確実に琉詩の情報は増えていっていることに比例して、俺しか知らないるうちゃんをもっと知りたいという欲も同時に増えていった。





 

 今までなら目も合うことのないような先輩が俺を見ていることに恐怖すら感じることもあった。

先輩が俺に目を向けるたびに自分の顔に自信がなくなっていく。脳内では拒否していても勝手に顔に熱が昇っていくのが分かる。

 益々俺は先輩と居られるような人間ではないと思うようになった。傷つくのが怖いということを自覚したうえで壁を増やし、先輩が離れていってもいいよう準備をしている。

 嬉しいという気持ちで溢れていた心が変わっていくのにはすぐに気がついた。


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