会えない二人
しかし、そんな微笑ましい時間は邪魔されるものだ。
新騎の二日連続のサボりは後に響いていた。
「蓮、俺帰っちゃだめだよな。」
変わらずボールの挟まる天井を眺めていたが、新騎の心は常に小さくひっそりと輝く一つ年下の少年のもとにあった。
「ああ。だめだろうな。てか、そんなに帰りたい理由でもあるのかよ。」
「ある。俺にとってとても大事な用事だったんだ。」
「まあ、もうすぐ部活も終わるんだしさ。少しくらい我慢しろよ。」
三年の半ばに差し掛かるという時期だ。進路を考えなければいけないということもあり、もうすぐ最後の試合も待っている。
「俺はあの子と一秒でも長く一緒に居たいんだよ。」
「いや、なんの話だよ。あの子ってなんだ。教えろよ。」
あの子という発言が引っ掛かった蓮は謎に拗ねている新騎に対して何度も問い詰めた。
それもそのはずだ。今までに新騎から会いたがるような相手など聞いたこともなかった。それに加え、あの口調と表情から出る大切な相手と思われる人物。蓮の好奇心を誘うには十分な要素であった。
俺は今日ももしかしたら来てくれるのではないかという期待を隠しきれずにいた。度々後ろを振り返ってはあの大きな体躯がないことに肩を落とした。
しかし、心情的にはあまり悲しくなかった。期待をしていた反面、信じ切れていない自分もいたからだ。何度も思うが、先輩はかっこいい。偏見かもしれないが、絶対に体育祭の借り物競争では彼女と手をつないでゴールをするタイプの人間だ。盛り上がりの中心にいるような人だろう。
先輩のことを考えていたら気づくとカフェの前だった。いや、先輩のことを考えているとか乙女かよ。と頭の中で自分に対してツッコミを返す。
俺は思考を逃がすように両手で頬を抑えた。
「琉詩。何やってんの。早く入りなよ。」
入り口で突っ立っていた俺を不審に感じたお姉ちゃんが扉を開けて話しかけてきた。
「あれ、昨日もいたイケメンさんは?今日は送り届けないの?」
お姉ちゃんはドアノブを片手に左右を確認した。しかし、いつでも目立つあの尊顔はどこにも見当たらない。
その反応に俺の思考も暗いものへと変化していく。
「先輩は部活だよ。そんなにいっぱい一緒に帰ってくれるわけないでしょ。」
自分も先輩のことを気にしていたくせに、先輩がいないことを分かっていたかのような返答をした。こうやって逃げてばかりだから友達ができないことなんて、今までの経験からもわかる事実であることは自分でも理解しているつもりではある。
「そっか。また一緒に帰ってこれるといいね。」
お姉ちゃんのトーンの低い優しい口調は落ち着くようで胸をざわつかせる原因でもある。