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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

小説だよ。

火球が雪に落ちる時、 【後書きに追加有り

作者: アキノナツ

藍さくら 様 主催のユーザー企画『真冬の花火企画』の参加作品です。


(2024/01/01)

後書きに【なろう版】の『冬の夜空に、』を追加しました。



ライターで火をつける。


ロウソクを雪に刺した。

白い雪に白いロウソク。

小さな炎がゆらゆら揺れている。


シンと冷える冬の夜。


「こんばんはぁ〜」


待っていた人の声に心がポッと温まる。


「こっちぃ〜」


玄関に向かって、横の庭から声をかける。

垣根の扉を開けて、庭の方にやってきた。

半年ぶりに見る彼はちょっと大人びて見えた。

着ている黒のロングコートさえも大人な感じだ。


オレが呼び出した。約束の時間通り。


オレは、寒そうにしている幼なじみに花火の袋を渡した。


「何? 冬に花火?」


戯けた口調で言って、花火のパッケージを裏返したりして見ている。


「だって夏いなかったから出来なかったじゃん」

ちょっと拗ねた声が出た。


三つ年上の幼なじみは、海外の大学に進学した。

夏、彼は行ってしまった。

前の夏に『また一緒に花火をしよう』と約束してたのに。


オレが受験勉強で煮詰まってるだろうからと彼も受験なのに、息抜きにって誘ってくれたのが嬉しくて「来年もしよう」と約束したのを反故にされて、オレは、ちょっと、怒っていた。


彼が卒業した同じ高校の制服を見せたかったけど、なんだか忙しそうというか、母さんが「お兄ちゃん大変そうだから行っちゃダメよ」って言うから遠慮していた。だから、『大変立腹』を『ちょっと怒ってる』にしてあげてる。

あげてるけど、まさか進学先が海外なんて聞いてないよ…。


「ごめんな。でも、こんな夜に花火も悪くないな」


少し雪がチラついてる。

庭には雪が積もっていた。

彼が来たのも雪道だ。

暗闇に白い雪がぼんやり浮き上がって見える。


彼はオレの言う事を否定しない。

オレがなんと言っても、いいように言ってくれる。いつまで経っても年上のお兄さんの余裕だろうか…。

家から漏れてくる明かりで彼がぼんやり照らされる。


雪の上に赤や緑の豊かな彩りの火花と白い煙。火薬の臭いが冷えた空気と一緒に鼻を擽ぐる。


シューっと派手な音と共に吐き出される火の粉は白い雪に黒い沁みを幾つも散らしていく。


スマートに黒のロングコートを着こなしてる彼を見てると胸が苦しくなってくる。

海外に行ってくれて、近くなくて良かったとも思うし、物理的に遠く離れてしまえば、こんな気持ちも、いずれ…消えてくれるかもしれない。


知られず、このままの関係で終われる。


このままの関係が続けられる。


なのに、ちっとも消えてくれそうにない。


以前見た動物番組を思い出していた。毒の生き物の特集だった。

毒には、即効性と遅効性があるそうだ。

オレを苦しめるコレはゆっくりじわじわと苦しめる。遅効性の毒のようだ。

毒は甘いと聞いた事がある。甘いからもっとと求めるのだろうか…。

ゆっくりじわじわと蝕んでいく。

あの雪のように徐々に黒くなって…。塗りつぶされるように浸透していくのだ。


彼を憧れの対象から変化したのはいつだっただろうか。


派手な音と共に流れ出る光を眺めながら、ぼんやり思い出す。


夕暮れの帰り道。

見知った背中を見かけて、声を掛けようと思ったその横に、知らない人影を見て、心臓が跳ねた。跳ねて、湧き上がるドス黒い感情に慄いた。


『そこはオレの場所だ』


唐突に浮かぶ言葉。


違う!


即座に否定する。


彼女の場所は彼女のであって、オレの場所にはなり得ない。

オレのは、幼なじみのポジション。ただ、それだけ…。


自分はあの場所に立てない事実に気づいて、その場に立ち尽くした。


悔しさに胸が締め付けられた。

悔しさ?

嫉妬?

自分の気持ちの湧き上がりについていけない。

分からない感情の渦に思考が止まった。


彼の彼女を見る優しい横顔を夕闇が塗りつぶしていく。


オレは、その時、彼が好きだと思った。


あの日、赤く滲む視界を何度も拭いながら、とぼとぼと帰った。


あの日から、否、その以前から、この気持ちは育っていた。

ゆっくり、ゆっくり…と。


一滴の毒が波紋を広げるように、オレにポタポタと注がれ、広がり、根を張るように育っていた…。


火が出なくなった花火を雪に刺す。

幾つも棒が刺さっていた。


オレの恋心と一緒。


育った根を一本ずつ、ブツ、ブツ、切っていくように潰していく日々。


刺さる棒のように、オレは育つ気持ちを刺して、切った。


「俺の高校に進学したんだったな。遅くなったけど、おめでとう。…そっか…後輩か。学校の方は変わりない?」


オレが喋らないものだから、彼が明るい口調で話しかけてくれる。


「頑張ったんだ。褒めてよ」

花火を見ながら話す。


実際ギリギリだった。何度も先生からはランクを下げる事を提案されたが、どうしても彼と一緒のところに行きたかった。


伸びてきた手が一瞬止まって、オレの頭に乗った。ぐりぐり撫でられた。


「よくやったな。おめでとう」


オレは、相槌を打ち、ポツポツと返答する。


頭に置かれた彼の手は大きくて温かくて…男の人の手だった。


じわじわと毒のように蝕むこの気持ちはもう全身に回ってて、苦しくて…。


「卒業してすぐに何か変わる訳ないじゃん」


「そういえば、そうだな」

笑ってる。

離れる手に寂しさが募る。


新しい花火に火をつけてる。


ぐるぐる回して、スマホで写真か何か撮っていた。


向こうの誰かに送るのだろうか。


向こうで、彼の隣に立つ人が出来たのだろうか。


あの彼女はいつの間にか見なくなっていた。


消えた事に嬉しくなってた自分がいた。

そういう自分は嫌いだ。

だから、頭の中で殴り倒した。


離れてしまえば、忘れられる。

だから、海外に進学してくれたのは好都合だとも思った。

だけど、気持ちとか整理出来ると思った半年は、悪化を進行させるのに充分な時間だったようだ。


時間は解決してくれない。ちっとも小さくも消えもしてくれなかった。


「あれ? もう無いよ」


大きな袋に入ってた花火は線香花火を残して終わってしまったようだ。

雪に刺さった残骸と辺りに立ち込める火薬の煙い臭いが終わりを告げていた。


「線香花火が残ってるよ」


「お、懐かしいな」


線香花火は小さい頃から一緒にした思い出の花火だ。よくどっちが長く出来るか競争したものだ。


「オレ、長く出来るようになったよ」


「練習したのか? 年長の経験を甘く見るなよ」

腕まくりしてやる気だ。


そんな彼が、可愛く見えてしまった。

昔みたいに年上のお兄さんじゃなくて、ひとりの人として近く感じていた。


不思議だ。


年齢を重ねていくと、あれだけ埋められないと思っていた年の差が少しずつ感じなくなってくる。

そんな事は無いはずなのに…。


「負けないよ」


しゃがみ込んで、肩を寄せ合って、じっと火球を見つめる。

コレが落ちたら、彼は帰る。

冬休みが終わる頃に海の向こうに行ってしまう。


また会いたい…。


「また花火しよう?」


「ん? そうだな。またしようか」


会えるように、この気持ちは、蓋をして、鍵を掛けてしまおう。


「今度は打ち上げ花火用意するよ」


「いいな。河原とかでした方がいいかな」


「夏だったら、結構そこでやってるよ」


「そうなんだ」


「最近小さな子が増えたからね」


最近近くに住宅が増えた。それに伴って小さな子供も増えて、道路や公園は賑やかだ。


「そうなんだ。今度帰ってきたら浦島になってそうだな」


笑ってる彼の横顔をやっと見れた。

あの時の彼女はこの顔を見てたのだろうか。

ちょっと寂しそうに見えた。


「オレは変わらないよ」


「そうか」


人は変わる。

変わるのに、オレはなんでこんな事を言ったんだろう…。この時は自分から出た言葉に不思議に思った。


その言葉を彼はまた肯定した。


少し寂しそうに感じた顔もすぐに明るくなった。


「また会いに来るよ」


「うん、またね」


この顔を見る為にもオレは変わらず、幼なじみでいたい…。


最後の火球が落ちた。

白い雪に黒い点がついた。


横の影が立ち上がる。

オレも散らばった線香花火の残骸をまとめて、ゆっくり立ち上がる。


ググーッと伸びをしてる彼。

「関節固まった。やっぱ寒いな」

吐く息が白い。

手を息で温めている。

花火が消えてしまうと更に寒くなった気がする。


「楽しかったよ」

彼は笑ってた。

真っ直ぐ目を見てくれていた。

オレはこの笑顔が好きだと思った。

見上げていた顔がほぼ変わらない高さになりつつあるのを感じた。


「うん、オレも。して良かった」

鼻のツンとする。目の周りがじわっと熱くなってくる。

鼻が痛いのは、寒いから……。


「誘ってくれてありがとう。おばさんたちにもよろしく。ーーーじゃ、おやすみ」


「おやすみ」


笑顔で返す。


眠るには早い時間だけど、そう言って彼は手をふりふり来た道を帰って行った。


チラリと白い物が視界を過ぎる。

雪だ。

頬についた雪はすぐに水になった。

途中でやんでた粉雪が再びちらつき出した。


黒い影が冬の夜に消えてしまうまでじっとその場で見送った。

歪む視界。瞬きすれば、つーっと流れ、頬が冷えた。


コレは雪だ…。


オレの恋心もこの花火と一緒に捨ててしまおう。


次の年、彼は帰って来なかった。

手紙が届いた。

彼は向こうで忙しいようだ。


でも、繋がりは切れてない。切りたくない。


オレは些細な出来事を手紙にしたためては、ポストに入れる。

カタンと鳴る音。

これを何度聞けば、会えるのだろうか…。


見上げれば曇天。

今日は雪が降りそうだ。




線香花火の火球が雪に落ちる時、始まるのか、終わるのか。


その後の話はムーンに書きます。

申し訳ないですが、18歳以上の方のみでお願いします。


結果だけ申しますと、ハッピーエンドとなります。

始まりはどうなるかとか、彼らのこれからを書くと思います。この淡く灯り、焦がすように育った恋はちゃんと成就しますよ(*'ω'*)ご安心を。


後書きか別短編で『なろう版』にして、投稿するつもりですので、18歳以下の方はお待ちくださいね♡



€€€€€€€€€


(2024/01/01)

お約束していた相手側の視点からのお話です。

場面が重なってる部分があります。

18歳以上のサイトでの作品のソフト版のつもりで書いてますが、至らぬ点があるかもなので、ダメだと思ったら回れ右で、お願いします。

では、どーぞ(・ω・)ノ



《タイトル》

冬の夜空に、【なろう版】


========


やりたい事が見つかった。


そう宣言して海外の大学受験をする事にした。

失敗したら浪人したらいいわよと母は笑ってる。

母なりの応援だろう。

だが、俺は失敗する訳にはいかない。

なにがなんでも海外に。日本を脱出したかった。


ココから離れた土地の大学でもいいじゃないかと思った事もあった。あったが、帰省出来る距離が俺を奮い立たせた。


生半可な距離じゃダメだ。


今、離れなければ、とんでもない事になりそうで、俺は逃げるように勉強に打ち込んだ。


そんな勉強漬けの夏のある日、ふと窓の外を見ると、赤い顔をした三つ年下の幼なじみの彼が自転車を押して歩いていた。辛そうだ。

パンクでもしたのだろうか。

滴る汗を腕で拭いながら、うんしょうんしょと…。


俺は、その横顔を見ながら、溢れる衝動を押し込んだ。

汗で光る首、肌が透けてるのではないかと思うような張り付いてるシャツに視線が釘付けになる目を剥がす。


ペンを握る手が握り拳になり、俯き暫く顔を上げる事が出来なかった。

背中を丸め、熱くなる身体を小刻みに揺らしなんとか抑え、身体を起こす。


背凭れに体重をかけられた椅子がギシッ鳴って抗議している。


ウチの前を通る事なんてなかったが…。

確かもう少し行った先に自転車屋があった。

やはりパンクだろうな…。


徐に、スマホを手に取る。

アドレスを開き、彼の番号を表示させる。

暫く見つめて…コールを押した。


コレを最後にしよう…。


「あ、俺。今いい?…うん、元気だよ。今晩、花火しないか? 受験勉強で煮詰まってるだろ。ちょっと息抜き。ーーーーうん。そう。ウチでもそっちでも。…分かった。そっちに行くよ」


切れた画面をいつまでも見ていた。


財布を掴んで部屋を出た。


大きくて沢山入ったヤツにしてやろう。

打ち上げは住宅街だから無理だな…。


見納めと決めて、花火で遊ぶ彼を目で追った。

お兄ちゃん、お兄ちゃんと追いかけて来てた彼に恋…否、劣情を抱いてしまったにはいつの頃だっただろう。


彼の家でやって良かった。

ココには俺のところと違って、大人たちの目がある。今もおばさんが飲み物や蚊取り線香の様子やらを見に来て、はしゃいでる息子を見て笑って奥に引っ込んだ。


俺はお兄ちゃんとしての俺を保てる。


「楽しいね。誘ってくれってありがとうッ」


屈託ない笑顔。

俺はこの笑顔が曇るような事をしてはいけないんだ。


「明日から頑張れよ」

俺もな。

「うん。ねぇ、来年もしよ?」

白い歯が眩しい。今日の日焼けだろうか肌が赤い。

縁側から差し込む部屋の明かりが彼を浮き上がらせる。


「ああ、来年しよう」


約束してしまった。彼の言う言葉を否定出来ない俺。いつも『いいよ』と言ってしまう。


最後にしようと思ってるから、これは嘘になってしまう。

嘘か。

俺はずっと俺自身に嘘を。彼に嘘をついてる。


俺は、お前が好きだ。人としてではなく。一般的な異性に思う感情と同じモノを同性のお前に思っている。

言いたくても言えない。言っちゃいけない。この気持ちは受け入れられる訳がない。

今も、抱きしめたくて、その唇を奪いたいと思う自分がいる。

その卑しい俺を俺は押さえ込む。


俺はいつまでも彼のお兄ちゃんじゃなきゃダメなんだ。

俺は自分に嘘でもなんでもついて、この気持ちを捩じ伏せる。


春の香りを感じる頃、合格の知らせが来た。


出発まで手続きやらに忙殺させて、夏前に向こうに出発した。


母に『お別れしないの?』と訊かれたが、曖昧に応えて、結局何も言わずに国外へ。


逃げた。


『冬休みは帰ってこい』と父から連絡が来た。

父なりに心配してる。

あっちで何かしらの手続きも残っていたらしい。親戚の何かの集まりもあるらしい。断れない状況になった。


帰国して数日あちこちと飛び回り、やっと家族でゆっくりしていた。


母が楽しそうに電話してる。

「大丈夫よ。暇してるみたいだし、伝えとくわよ。分かったわ。じゃあ、また。…うん。お土産持っていくわね、いいって、またね、うん、だからぁ〜、うん、またね。はいはい、じゃあ」


よく喋る。

相手も同じ感じで喋ってるのだろうか。

どこで息継ぎしてるんだって感じだし、『最後』が何回もあって、いつ切れるんだって感じだった。楽しそうだからいいけど。


息子が居なくなって寂しそうじゃなくて俺は安心だ。


自分で淹れたコーヒーを啜ってると、さっきのテンションのままの母が、幼なじみの家に行けとメモを渡して来た。


電話の相手は、彼のお母さんだったようだ。

二人は仲がいい。


「待ってるらしいわよ。あんた結局あっちに行っても何も言ってないのね」


非難の眼差し。


メモを見ながら「分かった」と返した。


夜…。


約束を破った事など色々と詰られる覚悟を決めて、雪道を歩いた。

耳の中まで冷える。


メモの時間通りに到着。


庭から応答があった。垣根の立て付けが悪くなった扉を開けて、季節違いのあの庭に踏み込んだ。


驚いた。

彼は変わらず笑っていた。

なじりはしないが、ちょっと拗ねた言い方をする。ちょっと怒ってるんだぞってか?

変わらず可愛い。


花火がいっぱい入った大きなパッケージを渡された。あの夏、俺が買ったのと同じ感じだ。


花火か…。


約束を破った。多分初めての事だ。それを今しようと誘ってくれたようだ。


背が伸びたな。ちょっと表情が男っぽくなっただろうか。成長を感じられる。


出来るだけ明るく今までのお兄ちゃん像を壊さないように振る舞う。


ごめんな。

気持ち悪いよな。

こんな感情…、気持ちを、もし、…ぶつけられても困るよな。


向こうでそういうカップルを見かけたり、大学内にも居たりして、コレは病気や俺が変ではないと頭では理解出来たが、彼にぶつけて良い感情ではない。

彼が俺と同じとは限らないじゃないか。一瞬でこの関係が壊れてしまうぐらいなら、この気持ちは知られないようにしなければ。


「褒めてよ」


手を思わず伸ばしてしまった。

肩に向かう手をグッと止める。

引っ込めるには不自然だ。方向を変える。


頭を撫で褒めてやった。


本当は抱きしめて、良くやったよと言いたかった。

向こうではハグは当たり前だとか言ってやれば良かったかと後で考えついたが、今更だ。


俺と同じ高校か…。

よく頑張ったと思う。何度か勉強を見てやった事があったが、あれではギリギリだったのではなかっただろうか。


何故そこまで頑張ったんだろう…。

俺?

自惚れるな。


まさか、海を越えてまで追いかけては来ないだろうな…。来て欲しいような気もした。


柔らかな髪の感触を掌に刻みつけるように擦り付け、引き剥がした。


もう、限界だ…。


次々と花火に火をつけ、消費していく。

終わった花火を雪に刺した。


自分に刺す気分だった。


雪に散る黒い跡が、何も知らない彼を汚してしまいそうで、戒めに写真を撮った。


サクっと刺して、次の花火を探す手が台紙を掻いた。


終わった。


「線香花火が残ってるよ」


残ってやがった。


勝負を挑まれては、断るのは変だ。

気合いを入れた。

あと少し。

肩を寄せ合って、光る火球を見ていた。


身体が熱くなる。睨みつけて、集中する。


親の仇のように火球を見つめた。


火薬の煙りの臭いの中に彼の匂いが混じっている。近い…。

暫く立てそうにない。

ロングコートを着てきて良かった…。


次の約束をしてしまった。

今度の夏を彼は想定しているようだ。


約束できないと言えなかった。


俺はいつまでも彼には良きお兄ちゃんでいたかった。勝手なものだ。


チリッと小さな音と共に、火球が落ちた。


白い雪に黒くなった粒が寂しそうだ。


このまま雪に埋もれてしまえばいい。


思い切って立ち上がり伸び上がる。身体が強張っていた。至近距離でガチガチに身体が固まっていたようだ。


耐えた。


彼は『変わらない』と言ってくれた。


でも、人は変わるものだ。

もう、俺は、ココに来る気はない。

もし来る時があったとしたら、彼の結婚式かもな。呼んでくれたらだが。


結局、おばさんは現れなかった。

寒いからな。

もしかしたら、様子を見に来てたかも知れないが。


俺は耐えた。

そして、彼の姿を目に焼き付ける。

いつの間にか目の高さが変わりなくなりつつあった。まだ伸びるな。


手を振り帰る。


もう振り返らない。


さよなら。俺の…恋。


そして、夏。手紙で詫びた。

母を経由しても良かったのだが、なんとなく、短い文面だったが、久々に日本語を書いていた。


あれから手紙が来る。


彼の字を目で追い、畳むと引き出しにしまう。同じ筆致の手紙が何通も納められている。


最初の手紙は、約束を破った事を怒っての物だと思ったら、こちらを心配していた。

それから来る手紙には、日々のちょっとした出来事を綴られていた。度々送ってくれた。


俺から手紙は送っていない。

書いてみた事はあるが、数文字で丸めてゴミ箱へ吸い込まれた。

手紙は送らなかったが、毎年クリスマスカードを送った。

今年はニューヨークの雪景色に花火。ツリーの点灯式の花火の絵柄にした。


俺はあれ以来、帰らなかった。

カードを送るのも辞めたかったが、何故か、辞めれなかった。彼との繋がりが切れるのが嫌だったのだろうか。


俺はこっちで就職した。

研究職の空きがたまたまあって、誘われ飛び込んだ。


彼ももう社会人だそうだ。

大学は家から通ったから、初めての一人暮らしで緊張するとあった。


浮いた話は無かった。

彼女のひとりも出来ないのか…。


俺は昂るモノに手を伸ばした。

捨てたはずの恋と劣情は健在だった。しかも悪化していた。

目を閉じ最後に見た彼を思い出し、髪の感触を蘇らせて、手を動かす。

色褪せない。


息も上がって、彼の汗ばんだ首に張り付く髪を思い出し、彼の肌を思い描き…。

手に劣情を吐き出し、身体の強張りを解いた。


最低だ。


帰国する理由もない。

彼への想いも消えない。

彼に告白する勇気もない。

ないない尽くしで、彼への想いは、ドス黒く渦巻いていた。


身体を蝕むように広がり、澱のように溜まっていく。俺を蝕んでいく。コレは毒だ。甘い毒は俺を狂わせていく。


こんな状態では、尚更、彼には会えない。


でも………会いたい…。





冬の京都。

俺は日本にいた。

底冷えする。この前までいたイギリスよりはマシか?

湿度も諸々違うから比べるものでもないか。


友人が結婚する。

冬の京都で出来れば雪景色の中で結婚式を挙げたいと嫁さんが言ったとか。

いや、アイツを知ってる俺を含む友人たちは分かっている。コレはアイツの趣味だと。

嫁の所為にしよって。いずれギャブンと言わされるだろう。


雪は降らなかったが、冷える。

足元から冷えが這い上がってくる。コレは凄いな。


そばで水の流れる音。

あちらこちらにある柔らかな光りで石畳が照らされている。

ここにぽっくりの音を響かせて舞妓さんが歩いてたらさぞかし絵になるだろう。

実際は、俺たちのような観光客がそぞろ歩いてる。それはそれで雰囲気がある空気感。

京都らしい飲み屋街。

用水路のような小川すら、ザ・京都といった感じだ。


何故、彼の居る日本に帰って来たと思うが、ここは日本ではあるが、彼のところから離れた場所。だから、来た。

ヨーロッパの距離感とは違うが、日本だって広い。


久々に同窓会のような面子にも会いたくなった。


二次会も進み、そろそろ俺はホテルに引き上げたかった。時差がキツイ。


「あー! お兄ちゃんだぁぁ〜」


不意に後ろで声が上がる。


懐かしく、ココで聞こえるはずのない声。

何度も頭の中で反芻していた声。


酔っ払い特有の呂律だが…。


振り返れば、真っ赤な顔の彼がスーツ姿の男たちと一緒だった。肩を借りた状態で足元が危ない。


肩を貸してる男に殺意が芽生えた。


自然と手を伸ばしていた。彼が腕の中に飛び込んで来る。


「やっぱり、お兄ちゃ〜ん」


「お兄さんですか? 良かったぁ〜。俺たちこれから駅に行かないと。時間が無くて。任せていいですか?」


え? はぁあ?! 


「確か上に兄弟が居るって言ったな」

「マジ、時間どうしようかと思ってたんだよな」

「よろしくお願いします」

「こっちの支社でも頑張れよぉ〜」

二人で話してる彼らも顔が赤い。手をふりふり去っていく。


「ま、待て…」


俺の声は雑踏に掻き消えた。


『お兄ちゃん…』と呟きながら、半分ムニャムニャと眠りかけている。

抱きつく腕に力がなくなってきて、重い…。

支え直す為にグイッと持ち上げるように抱き寄せた。

俺の肩口に頬を擦り付けて…可愛い顔が、近い。


最後に会った高校生の彼しか知らなかったが、彼だと確信出来た。背が伸びて、俺より少し低い感じだが、ほぼ変わらない背丈。


すくすく育ったようだ。


スーツ姿が小慣れていた。社会人として頑張ってるようだ。少し大人になったかな。


それはそれでなんだかもやもやした。

これまでの手紙には浮いた話はなかったが、付き合いぐらいあっただろう。

誰かと肌を合わせたかも知れない。

邪な考えが過ぎる。俺も酔ってるな…。


こうも体温が近いと良からぬ考えが次から次へと沸いてくるというものだ。


成長を喜ぶ兄のような気持ちとは別のドス黒い気持ちも顔を覗かせてくる。


頭を振って邪念を振り払う。


「ソレ、どうしたの?」


さっきまで飲んでいた男が声を掛けてきた。

三次会のお誘いのようだ。

さっきまで彼の研究とかの神経毒の話を延々聞かされていた。

ま、自分を含めてここにいる面々は、この男と変わりなく自分の専門を語ってしまうところがある。ほとんどが自重しているが。


「弟。すまないが、時差ボケがひどいからホテルに戻る」

少し嘘をついた。


「おお、分かった。他にも伝えとくわ〜」

いい感じに千鳥足になりながら、少し離れたところの集団に入って行った。

皆に手を振られたので、手を上げて応じる。


さて、『コレ』をどうにかしないと…。




ホテルのベッドで寝ている彼を眺めていた。


スーツが皺になるから、寝苦しいだろうから、などなどの言い訳を幾つも挙げて下着に剥いて、ベッドに押し込んだ。


見たが、見てない!


という言い訳もしていた。


拗らせた劣情がこの眠った彼にご無体な所業をしそうになってるのも確かだが、なんとか理性が頑張ってくれている。


あと…時差ボケも。

眠いのだ。非常に眠い。

アルコールも入っているのもある。

最大の原因も心当たりがある。

ここに来る前にトラブルで徹夜して、その足で飛行機に…。


若くもないのに無理をした。


俺も寝よう。


電気を消してソファで横になろうとして、動きが止まる。


唸り声?

あっ、しまった!

慌てて明かりをつける。


明るくなった部屋のベッドで泣きそうな顔の彼が起き上がっていた。


「お兄ちゃん…」


掠れた声。今にも泣きそうだ。


『お兄ちゃん、怖いから消しちゃダメだからねッ!』

俺の家にお泊まりに来た時そんな事を言ってたなぁ。

まだ克服出来てないのか…。


「分かった。俺は明るいと寝れなから常夜灯でいいか?」


あの時もこんな感じだったかな…。

リモコンで操作しながら、彼の頭を撫でてやってると、俺の腕を掴み、「一緒ぉ〜」と引き摺り込まれた。


酔っ払いの力って強いんだな。

あの時も一緒に寝たな。

俺も酔ってるが、鍛えてるのかね、敵わん。


仕方なく彼の抱き込まれて眠ってしまった。





朝、酒臭い息と共に目覚めた。

そして、抱き込んでる温もり。

寝惚けてて認識するまで時間が掛かった。


脚…絡んでるなぁ。

素足が密着してる。

ヤバいなぁ。

向かい合って、互いに不味い感じ…で、密着してるのは、…ね。


彼は朝のってヤツです。俺はそれに、気持ちの上乗せが起こってます。


円周率を頭で唱えながら、身体を離そうと脚などをゆっくり移動させる。

モソっと彼が動いた。

ピタッと止まって、様子を伺う。


互いに下着姿だった。

起きたか?と覗き込んだのと、彼が顔を上げたのは同時だった。


至近距離で目があった。

ただ、彼は寝惚けてるようで…。

ニッコリ微笑むと、唇を押し付けて来た。


キス???!


驚いて口が緩んだ拍子に深く唇が合わさる。


はぁあ???!!


完全受身で彼にディープな口づけされていた。

拙い感じだけど、懸命で、ちょいちょい気持ちのいい感じのところを刺激してくる。


彼の柔らかな唇がッ。

夢にまで見たキスをしている。


唇が離れていくのを身体の力が抜けた状態でぼんやり見ていて、急に、しまったと身体が固まった。


方や彼は、ニッコリ笑ってる。

「お兄ちゃん、好き」

また唇が合わさった。


好きぃい?!?!


思いっきり吸い付いてくるのを引き剥がして見遣れば、まだ寝惚けてるようだ。


そういえば、寝起きが悪かった…ッ!


ん〜〜ーッ!と不機嫌な唸り声。

抗議の声に反射的に腕の力が緩む。

また唇が重なる…。

マジか……。

ダメって言わなきゃ…言わないと……言えない。


染みついた『いいよ』根性が、邪魔をする。


「お兄ちゃん、好き。お兄ちゃん…」


唇が耳元に移動した。耳介を食みながら囁かれる。

連動するようにムクムクとあちらも育って来てしまって、彼のモノと擦り合わされて、下着の中で大変不味い事になっていた。

彼もそうなのだろう。荒い息遣いが耳をくすぐる。


全身が熱くなって……息が上がって来て……頭がぼーっとしてくる。

腕の中に彼が居て、ベッドで、キスしてて…。


ああ〜ーーーーッ!!!!


プツッと何かが切れた。


グルンと上下が入れ替わり、彼の下着に手を差し込自分のものと一緒に握った。

劣情が夢中に手を動かせる。


彼が脚を絡ませて抱きついてくる。


俺は夢中で手を動かし、

喘いでいる彼のシャツを捲り上げて、少しでも近くに感じたく素肌を合わせる。


鼓動と体温が溶け合うようだ。


ゾクゾクを全身を駆け巡る快感。


互いの息遣いも荒くなって、そんな彼を感じるだけで、とんでもなく昂ぶって、益々手の動きが早くなってくる。


互いの声と吐息に、頬を擦り寄せ、身体を擦り付け合い、唇が重なった。


唸り、喘ぎながら、歯がぶつかるような激しい貪るような口づけの下で、ブルッと震えが走り、一瞬遅れて彼も。


唇を離し、彼に覆い被さって、互いの荒い息を互いの耳元で吐いていた。


肌を擦り合わせながら、互いの昂りを分ち合っていた。


「ほへ? へ? あれ? 誰?」


彼が本格的にお目覚めになったようだ。身体を固くして、自分の状態を確認してるようだ。

……俺は、顔が上げれない。


身体を固くした彼だったが、状況確認に動き出した。同じく固まってる俺の頭を掴んだ。

グイッと顔を持ち上げれてる。痛いので加えられる力の方向に流され……ご対面である。

力強いな。鍛えておられるようで…。


「やぁ…」

間が抜けてるな…。


「え? 夢? 現実? お兄ちゃん?」

驚きのようです。


「はい、ご無沙汰しております」

気まずい。


「お兄ちゃんとしちゃった? え? 帰国? なんでぇぇー???」


俺の顔をペタペタしながら、「なんで?」の嵐の彼を横抱きにバスルームへ。


互い昂りも治って、身体もさっぱりしたところで、バスローブを着せた彼をソファに座らせ、ミネラルウォーターのペットボトルを渡す。

俺はカリッと開けて、ラッパ飲みで、今の状況を飲み込んだ。


プハーッと吐く息の勢いで言い切った。


「忘れろッ」

「はぁあ?!」


それから無言の数分。。。


「おかえり、お兄ちゃん」

「ああ…」


また沈黙。


「オレ…帰る」


旅行バックからパッケージ入りの新品パンツを渡す。

「ありがとう…」

無言で着替え、「じゃぁ…」と力なく声を出して、ビジネスバックを引き摺るように下げて、ドアへ向かう彼をぼんやり見ていた。


ドアの前で止まった。

くるり振り返った彼は顔を真っ赤にして、告げた。


「オレ、お兄ちゃんの事好きだからッ」


「え?」


「この状況なんだか分かんないけど、今言わないといけない気がするから、オレ、…オレ、お兄ちゃんの事、ずーっとずーっと前から好きだからぁッ」


勢いよくドアを開けようとして、開かなくてワタワタしてる。鍵が掛かってたので、モタモタ開けて、出て行こうとしてる…帰って、帰って…。。。


思いっきり体が弾丸のように動いた。

行こうとする腕を掴んで中へ戻す。


ドアに押さえつけて、告げた。


「俺も好きだ」


カチャンとドアが閉まる音がした。


更に真っ赤になっていく彼。背中のドアに張り付くようにしてる。


何か言いたそうな唇にゆっくり近づく、吐息が混ざるような距離。あと少しというところで、部屋の電話が鳴った。


一瞬止まったが、放って置こうと思い互いの息を感じながら唇の先が掠るように擦れ合い、もっと触れ合おうとした時、思い出した。


チェックアウト!


慌てて、電話を取ったら、もうすぐ時間ですのでというフロントからのお知らせだった。


後ろで、出ていくのが分かった。

あー、俺って…何やってんだよぉぉ…。


受話器を置き、ズルズルと座り込んでいた。


いかん。

勢いよく立ち上がりチェックアウト準備。


彼の残り香があるような部屋を振り切るようにドアを開ける。

ドアに紙が挟まっていた。


電話番号。





あれから、彼とは、何度か電話とメッセージアプリでやり取りするようになった。


あの夜、数日前に京都の支社勤務になって、以前の支社の仲間が出張ついでに覗いてくれたのがあの状況で、懐かしさと嬉しさで酔ってしまっていたらしい。


懐かしいついでに、夢で何度も見てた背中の俺を見つけて、、、


危ない。


よく似たヤツだったらどうする気だったんだ。


間違えるはずがないと力説されても、危うさに頭痛がしてくる。彼はぬけたところが昔からあるから、そのキャラが皆に好かれるところでもあるのだけど…。


あの告白の後の出ようとしてワタワタしていた彼を思い出して、頬が緩む。可愛くってね。


手元の卓上カレンダーを眺める。

今日もビデオ通話で彼と時間を共有していた。

画面の向こうの彼も可愛い…。

恋人の彼。可愛くって仕方がない。


「休みは取れそう?」


『うん、みんな協力してくれた。お土産頑張んないと』


今年はカードと違う物を早めに送った。航空チケット。


クリスマスツリーの点灯式を二人で見に行く。


冬の打ち上げ花火を見たいと、いつか送ったクリスマスカードを見て言ってる画面の向こうの彼にプレゼントした。

あのカードたちは、全部取って置いてくれていたようだ。


あの奇妙な、もとい、奇跡的な出会いから直に会うのは初めてだ。

待ち遠しい。


優しく、出来るだろうか…。

どうも俺はそっちに頭が行ってしまう。

でも、画面の向こうの彼も、顔を赤らめてる。期待していいという事だろうか。


『…ねぇ、オレが、してる(・・・)ところ、見て?』


「いいよ」


今日はそういう気分だったらしい。

画面の向こうで、彼は服をたくし上げる。


俺たちを冒していたモノは解毒されたようだ。

別なのに冒されてる気もするが、どうでもいい。


画面の向こうの妖艶な彼に俺も昂められていく。



=========


冬の夜空に、華開け。


両想いになりましたでしょ?(*´ω`*)

恋愛って事故の連続ですよ。

って事にしてw




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[一言] 目に浮かぶような情景描写が素晴らしかったです! 一緒に花火してる気分になりました(笑) 個人的な趣味ですがやっぱりBLって伝えたいけど伝えられないとか認めてはいけない気持ちだ的なところが男…
[良い点] 毒は甘いから求めてしまう… 中毒になる人の気持ちが痛いほど伝わりました! [一言] 企画にご参加いただき、本当にありがとうございました! 美しいもの読ませていただき、新しい年の始まりから幸…
[良い点] 後書きを見てから本編を再度読むと見方がガラッと変わりますね。
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