同じ境遇
だからこそ
異動になって和真の家に居候することになった実夢。しばらく誰とも喋らず外にも出られない日々が続いていた和真にとって実夢が来てくれたことは大きいと感じていた。
名目上として居候という形で家に住む形になってはいるが、ずっとこのまま居てくれたら嬉しいな。何かをしようとしても身体が受け付けない和真に変わって身の回りのことを全てしてくれていた。
毎晩、実夢に泣きながら話しかける。
「何も出来なくてゴメンね。ホントは働かなきゃいけない、炊事洗濯など家の事もやらなきゃいけないのに……。実夢に申し訳ないし、いなかったらどうなっていたことか」
胸に抱き寄せて頭を撫でて何も喋らなくていいよ。実夢としては駅から通わせてもらっているし、住まわせてもらっているだけでも助かるよ。
優しい実夢はそうは言っているが仕事の日だけでなく、休みの日も無気力で何もしていない人を見たら嫌悪感を覚えてもなんら不思議ではない。
実夢が居候するようになって数週間、数ヶ月と経過をしているうちにある変化を感じていた。
自称ショートカットのマーメイドと呼んでいた実夢が髪を伸ばしている。気分転換なのかな、家に送られていた残りのダンボールを開けていると始めて見るものというよりも見た事のある物が多かった。
何を思ったのか懐かしいグッズを出して髪の毛を伸ばしている。服装もどことなく柚那ちゃんが好みそうな感じにしていることに気になっていた。何か理由があるのか、偶然そうなっているのか尋ねてみた。
和真君はどっちだと思うと質問を質問で返されてとても困惑をする。答え合わせをするかのように口を開いた。
「実夢も友達が亡くなって悲しいし、和真君はもっとツラいと思う。だけどずっと下を向いているのをきっと柚那は望んでいないし、忘れちゃうことが故人として悲しいことはないと思うの」
和真としては結婚式を挙げようとしていた人を忘れることなど出来ることないし、その日が来ることはないだろう。
献身的にやってくれている実夢に助かっている和真、ありがとう以外の言葉が出来ないくらいだし友人が亡くなっても前を向こうとしているだけでなく、少しでも元気になって欲しいと色々としてくれている事が伝わっていた。
布団を敷いて寝ようとしている和真に耳元で何かを囁く実夢。うわの空で聞き取れなかったので再び聞き直した。
「実夢が柚那になろうとするの烏滸がましいって思う?顔は変えられないけどメイクやファッションを近づけようとしているけどそれがもし、自分本位だと思うなら止めるよ」
実夢は実夢のありのままでいいのにと思っていたが最近、柚那ちゃんに似てきたと感じたのは少しでも近づけようとしてくれていたと知る。
その話を聞いて和真も答える。
「烏滸がましいとは思わないよ。今までショートカットしか見たことなかったから長い髪と似合っている。柚那ちゃんに似せようとしてくれているのは嬉しいけど自分の意思でならいいけど、ムリしているなら今まで通りでいいよ」
この日は夜明けまで柚那ちゃんの話をしていた和真と実夢だった。




