無気力
抜け殻
昏睡状態になっている柚那ちゃん。中々目覚めずひな祭り、結婚式の日を迎えた。
病院から出て現状で結婚式が出来るはずもなく、式場に電話をかけ、延期してもらうように要請をして様子を見てからで大丈夫。この件に関してはひと段落した。
朝、病院のテレビにて昨日の事故について報道されていた。
「友達と居酒屋で飲んでいた。代行やタクシーに電話をしたが難しかったため自分が運転をした。何が当たった感じがしたが、翌朝の仕事があったから確認もしなかった」
このテレビの報道を見て非常に殺意を感じる和真。口で言わずとも目や態度で感じとった実夢。深呼吸して、落ち着くように説得していた。
和真としては自分の新婦がこの状態になったことに対してそうなる気持ちも分かる上、実夢自身も大事な友人がこのようになったことに怒りはあるが、自分よりも和真君の方が精神的につらいことは認識をしていた。
可能ならば和真、実夢ともに病室で柚那ちゃんの目覚めるのを見届けたいが仕事を抱えているために中々そういうワケにもいかない。看護師の方にまた何かがあったら電話して欲しい、出れなかったら留守電に入れて欲しいと伝えて病院を出た。
和真は不安な気持ちでいて、休憩時間中にずっと泣いている。同僚や上司の方が慰めてくれているものの不安感に押しつぶされそうな気がしていた。
数日続いたある日、和真は上司と共に心療内科を受信をすることになって休職することに決まった。何度も頭を下げる和真、気にすることないから自分を休むことと奥様の傍にいてあげな。あまりムリはしないようにと伝えられた。
実夢もまた数ヶ月間休養するように通達されて違う場所でのバレエ教室に行くならば改めて申請して欲しい、その辺は優遇するからお友達の場所に行っておいでと言われたみたい。
だが、責任感の強い実夢としては自分が発表会やコンクールに出られないであったり練習が出来なくて勘が鈍るというのは自力でどうにか出来る自信があった。それよりも自分を慕ってくれて練習に来てくれている教え子たちに申し訳ない気持ちでいた。
お互いの現状と心情をラインのメッセージや電話を話していた。すると和真のもとに病院から電話がかかってきて昏睡状態から危篤になったと連絡があった。
車で再び合流した実夢は和真を乗せて病院に向かって病室に向かう。今日がヤマで耳はまだ聞こえていると思うので声をかけてくださいと先生から伝えられる。
必死に呼びかけて柚那ちゃんの手を握る和真と実夢。両手を握ってニコリと笑って息が止まった。
振り向いて先生と看護師さんたちは手を合わせて目を閉じていて、冷えきった手を触って言わずともこの現状がどういうことなのか理解出来た。
結婚式を挙げる予定がお葬式になるとは思いもしなかった。結婚式の取りやめは後でいいとしてお通夜、お葬式や告別式を決めることを急いでいた。
魂が抜けた和真に代わり、実夢がお葬式や告別式の手続きを全て行ってくれて弔辞の言葉も考えてくれて申し訳ない気がしていたが何も出来ずにいた和真。
お通夜、お葬式に告別式に火葬と数日間の中でのことを終えて和真と実夢、それぞれ心のキズが癒えるには時間がかかるとお互いに感じていた。




