これのために
新たな映え
車を運転をする実夢に尋ねた。笛吹市からレンタカーを借りてきたのかと。何も知らないのもいけないと思ってスマホで調べると石和温泉っていうのが有名みたいではるばる来たのかと聞く。
ミラー越しに困り顔をしていた。
「さすがに違うよ。亀戸駅で柚那と合流して近くのレンタカー借りて和真君を拾って駅に向かっている感じだよ。今住んでいる場所からレンタカー借りるにも少し遠くてね……」
自分も自動車免許を取得しておけばよかった。駅近だし、そこまで必要性を感じなくてアルバイトや面接に明け暮れていたことを悔いていた。
途中で何度かサービスエリアに寄って飲み物やお菓子、そしてご当地グルメを食べつつ大原駅に向かっていた。着く頃には車内で黄昏になっている。
夕焼けに輝く電車と菜の花。そして風に靡いている蕾の桜。この姿を美しいと和真はスマホを取り出して写真を撮っている。このような姿はスゴイとテンションが上がっていると柚那ちゃんと実夢はインカメラで突然入り込んで撮る。
しばらく菜の花を眺めていると夜になり、近くのファミレスで食事をする。話は盛り上がって全然帰る気配もなければホテルや旅館に行こうという話すら出てこない。この先はどうするのか。
腕時計を見て驚く実夢。じゃあそろそろ会計をして行こうかと車中泊しようとしていた。さすがにそれは身体を痛めるからよくないと和真としては漫画喫茶でもいいから寝れるところの方がいいと伝えた。
近くの旅館に泊まって布団を敷いて寝ようとしていた。やってみたかったと川の字にして柚那ちゃんと実夢に挟まれて寝ることになる和真。中々寝付けずにいて寝不足を覚悟をした。
寝ていると大音量のアラームが鳴る。時刻は午前4時半でこの時間に起きたことのない和真としては何事かと思っているとアラームを止めて目覚める柚那ちゃんと実夢。起きるなり急ぐから早く着替えてと急かされる。
まだ日の出にも数時間ある。今からどこで行こうとしているのか聞いても全く教えてはくれない。旅館を出て車を「いすみ鉄道」沿線を走っていた。目的地は大多喜駅になる。
昨日、黄昏の景色を撮ったということは今度は対義語にあたる東雲の景色、それも始発電車を撮るために来たのかなと何となく察しが付いていた。
夜が明けようとする。菜の花電車が反射していて菜の花もいっそう輝いて見える。日中の姿は見たことがあっても朝や夕方に来たことがなくて時間によって景色が全然違うし、映えも狙えそう。
そう思って眺めていると柚那ちゃんと実夢がこの景色、ツイッターやインスタグラムに載せたら映えそうだねと話している。
映えと最近よく使う言葉ではあるが、その定義は何だろうか。男の和真にとって永遠に解けない謎であった。




