まだ間に合う
休みならば
家に入った和真は実夢姉に電話をかけて明日の朝イチの高速バスに乗るみたいだから一緒に見送りをしよう。飛び立つその瞬間を見送ろうと話していた。
教えてくれてありがとう。見つからないように変装して行くから、和真君もよろしくね。あくまでも柚那ちゃん本人には見つからないようにお忍びで行って驚かせようと策略を考えていた。
同じ高速バスに乗っていたらいくら変装をしても見つかってしまう可能性があり、どうすれば遭遇せずに柚那ちゃんにサプライズで会うことが出来るのかと考えていた。
その日の間に大分空港に着いて待っているところで寝れれば理想だが、肝心の高速バスがもう走っていない。そうなると出来るのは途中のバス停まで行ってそこから乗車するということ。
残された手段はこれしかなく、和真と実夢姉は電車を乗り継いでショッピングセンターの近くにあるインターネットカフェに泊まって翌朝の大分空港行きのバスを確保して眠りにつく。
翌朝、6時にアラームを鳴らして無事に起きた和真。用意する必要があるか分からないが隣にいる実夢姉をたたき起こしてそれぞれ準備をしていた。顔を洗ってショッピングセンターでサンドウィッチを買ってバスを待っている。
念の為に持ってきた帽子を深く被ってバレないように敢えて連番で取らず、バラバラで取っていた。バレないように、悟られないように。浅はかと言われつつも自分たちに出来ることをする。
バスを降りてからも合流して一緒に歩いていたら気づかれると考えてあくまでもどこかに行く人、見送りに来た人を最後まで貫きそうとしている。
搭乗手続きをしている柚那ちゃんは振り向いた。
「お見送りに来てくれてありがとう。実夢、和真君。朝イチだから昨日伝えたけどまさか空港に来てくれるとは思わなかったよ。朝早くお疲れ様。搭乗時間まで少し喋ろう」
そう言って椅子に座って話しているとどうやら和真たちの作戦は見破られていた。
どこから気づいていたのか聞くと高速バスに乗る前に素顔丸出しで乗る時に帽子を深く被っている姿に車内でクスッと笑っていたらしい。バレていないと思っていたのは和真と実夢姉だけだった。
ツメが甘かったとしかいいようがない。何のためにバスの席を連番で取らなかったのか、何のためにずらして歩いていたのか分からなかったねと話していた。
柚那ちゃんからそれぞれ話しがあるからちょっと時間もらってもいいかなと実夢姉と和真、それぞれ目を合わせて頷いて先にどうぞと実夢姉を先に行ってもらう。
改まって目を合わせて恥ずかしそうにしていた。
「実夢、いつも柚那って慕ってくれて学校でもバレエ教室でもありがとう。いつも柚那を越えるって闘志を燃やして頑張っている姿は誰よりも知っているよ。日本とイタリア、物理的な距離は離れてしまうけど心の距離は変わらないよ。お互いバレリーナとしてまた会おう」
実夢姉が戻ってきて次は和真の番がやってきた。
大体のことは昨日話したから何を話すのかとドキドキしていた。
「和真君に言うべきことは昨日伝えたからお願いがある。柚那にしてくれたことをこれからは実夢にしてあげてね。また会おうね」
そう言って握手してギュッと抱き合って柚那ちゃんは家族を大分に残して単身でイタリアに旅立っていった。
予定時刻になり、柚那ちゃんをエスカレーターで見送って改めてよろしくお願いしますと挨拶をする和真と実夢姉だった。




