帰ってきた友人
手術明け
和真と柚那ちゃんは多忙な毎日を送っていた。テストの順位は下げられない、かといってバレエに行かなければ感覚が鈍るし、来て欲しいと望まれているのならば行きたいとも思っている。
中学校の入学式を終えた後に出会った実夢さんだが、最近顔を見かけていないような気がする。ケガをして別の道に進むことになったのかなとも考えていた。
ある日、いつものように学校が終わってスマホを取りに家に帰ってからバレエ教室に向かう。そして待機室から柚那ちゃんたちの様子を眺めていた時、突然真っ暗になって何も見えなくなる。
耳元で誰だと思うと囁かれた。
この声をどこかで聞いたことがあるような、ないような気もする。ケガをしていてこの場にいない子の名前を挙げるが違う、当てるまで名前を言い続けなくてはならなかった。
1度、実夢さんの名前を挙げたが違うと降参する。
振り向くとショートカットの実夢さんがいて、名前を言ったのにと伝えると聞こえなかったとはぐらかされる。
最近顔を見ていなかったことを伝えるとアキレス腱の手術をしていて退院は出来たけど練習にはまだ時間がかかるために待機所から練習を見ようとしていたみたい。
練習中、実夢さんが話しかけてきた。
「和真君、実夢さんって呼ばれると何かよそよそしい感じがするから実夢って呼び捨てでいいよ。最近柚那とはどう?付き合っているのでしょ?」
もう自分と柚那ちゃんの関係は狭い界隈では知らない人はいないと思った方がいい。だが、自分で言うのは恥ずかしい。
質問をされて答えないと無視したことになる。それは失礼だと思い、とりあえずいつもの日常を話すことにした。
「じゃあ実夢姉って呼ぶね。いつもスクールバスで隣の席に座って手を握ってお喋りしている感じかな。それ以外は特にこれといって……」
そう言うと和真の顔を見つめる実夢、間違いなくこの後何かを聞かれると察していた。
「実夢姉ってその呼び方かわいいね。それで和真君、柚那とキスした?もうすぐ中学生になるからキスしたいとか他にしてみたいこと、一緒に行ってみたいところとかないの?断られてもいいからアグレッシブにいかないと」
この時、実夢姉が何を言っているのか分からないがひとまず柚那ちゃんの体調とかも見てどうするか決めようと思っていると答える。
「和真君は優しい男の子だね。ホント柚那の事が大好きって伝わってくるよ。思春期の男の子だから本能のままにいくのかなって思ったよ。今のこと、柚那にちゃんと伝えておくよ」
毎日手を繋ぐだけでもドキドキするのに、キスをしてもらった時には鼻血が出るかと思った。ということは実夢姉にはナイショにしておこうと。
練習が終わり、和真はその日見て気づいたことをそれぞれの子に伝えて実夢姉と共に外で柚那ちゃんが出てくるのを待っていた。
久しぶりの再会を果たす柚那ちゃんと実夢姉。近くの公園で話していた。
「実夢、あまり和真君をいじめないであげて。すごく恥ずかしがり屋で手を握るだけでも顔が赤くなるくらいかわいいの。この前、ハウステンボスで死角になるところがあったからそこでキスをしたら笑顔で熱があるのかっていうくらい真っ赤であれはかわいすぎた」
イチャイチャしてるな〜と言っている実夢姉。何がイヤかと言うとこういう風に周りに茶化されるのが1番困る和真であった。




