垣根を越えて
珍しいシステム
拓殖昭成付属の小学校・中学校分校はまだ出来て間もない学校だが、あることは東京にある学校と同じところがいくつかある。
1つは修学旅行が小学5年生と中学2年生が合同の修学旅行を行っている。その背景には小学生は他の私立中学の受験、中学生は公立・私立問わず受験があるからだ。
拓殖昭成付属小学校・中学校に通う全ての児童や生徒が内部進学をする訳でない。と言うよりも出来るとは限らないと言った方が正しいかも知れない。
この通称入試前の地獄のテストと呼ばれるくらい難しいテストの前に行われる最後の楽しみ、それが修学旅行となる。該当する学年になるとこれが終われば勉強するに向けてまっしぐら。
修学旅行から帰ってきた先輩たちからは同じ言葉を耳にしている。
「神様時間を戻して、あの場所に連れて行って」
この修学旅行だが毎年、児童や生徒のアンケートとその年の予算によって行先が決定する。そのため、去年は当たり年で今年はハズレ年と言った声が聞こえるのもあるあるだった。
その該当する年に当たる和真と柚那ちゃんの時の行先は同じ九州の長崎県に決まって、喜ぶ声もあれば落胆する声もあって様々な様子。クラス単位で動く時もあれば小学生と中学生同士が仲良くなって一緒に自由行動をする者も色々といる。
2泊3日の修学旅行。和真と柚那ちゃんにとっては同じ場所に行けるし、小学校と中学生が自由行動で一緒になってもいい時間があるならばどこでもいいと思っていた。
初日、高速バスでいざ長崎へと向かう。
世界遺産の長崎キリシタンを学び、半世紀前の悲痛な体験をされた原爆の実態を目の当たりにして今こうやって日常生活を送れているのが奇跡なことに改めて気がついた。
2日目はウィンナーの工場見学に行って、雲仙という街でビードロ美術館でオリジナルアクセサリー体験をしに向かった。柚那ちゃんはキーホルダー、和真はネックレスを選択する。作り始めて数10分で完成して郵送するとのこと。
夜にハウステンボス近くのホテルに宿泊して翌日は朝から昼までの時間、小学校と中学生の自由行動の時間が設けられていた。和真と柚那ちゃんはこの時間を何よりも楽しみにしていた。
夜、部屋から見えるプロジェクションマッピングに小学校だけでなく中学生。女の子だけでなくて男の子も興奮してスマホで写真を撮影するほど。
翌日、小学生は私服・中学生は制服に着替えて入場ゲートに並び今か今かと待ち構えている。そして中に入ると広大でマップを見るとこれを数時間で制覇するのは不可能だと判断をした。
動物ふれあい派とアトラクションを乗る派と大きく分かれていて、和真と柚那ちゃんは動物ふれあいと複数のアトラクションに乗りつつ一緒に写真を撮る。
迫る自由行動の終了の時間、和真を人から死角になる場所に連れ込む柚那ちゃん。何か見つけたのかなと振り向いたその時だった。
「もうすぐ修学旅行が終わっちゃうね。和真君、好きだよ。チュッ」
その瞬間、涙をハンカチで拭いながらバスに戻っていく様子が見えた。
楽しい時間はあっという間。これから勉強という現実が待っているなと感じていた和真だった。




