あの空き地は
正解か、間違いだったか
家に帰って楽しい時間はあっという間に過ぎてしまうなと改めて感じた。チケットを渡した時のあの笑顔、片時も見逃さないようにとジュースやポップコーンを振り向かず手だけで探していた。
あの眩い瞳からは自分もあんな風に踊りたい。近くにバレエ教室があれば行きたい。なくても通えるところにあるならばと考えていてもおかしくない。
柚那ちゃんに喜んでもらいたくてチケットを渡したのは確かだが、ここまでどっぷり浸かるとは正直思ってはいなかった。もし、バレエをやりたいと言って通うことになったら応援しよう。そう考えながら布団に包まった。
翌朝、いつものようにバス停でスクールバスに乗り込む。すると柚那ちゃんは話しかけてきた。
「昨日のバレエスゴかったね。柚那もあの人たちみたいに色々な人に感動させられるバレリーナになりたい。和真君、もし柚那がバレエを習うって言ったら……どうする?」
やはり恐れていたことが起きてしまった。運動能力も高い柚那ちゃんなら出来ると確信していた。そうなると今までのように家を行き来したり遊ぶことが出来ないのかと落胆をしていた。
このまま黙っていては柚那ちゃんが困ってしまうととりあえず返事をした。
「いいと思うよ。柚那ちゃんはかわいいし、世界に羽ばたくバレリーナになれる。周りが何て言おうと味方でいるからね」
と、言ってしまったことを後悔をしていた。だが次の瞬間、あることに気がついた。
「待てよ、柚那ちゃんがもしどこかのバレエ教室に入るならば発表会がある。それは必ずしも大分だけであるとは限らない。いや、九州やまだ行ったことのないところに行けるチャンスではないか。そうすれば自分の好きな電車に乗れる」
柚那ちゃんの応援に行くのが目的なのか、それとも電車で旅をするのが目的なのか分からなくなってしまうが行先が同じならばいいと勝手に解釈をしていた。
学校までのスクールバス内で誓った。
「柚那ちゃん、バレリーナで公演があるなら近所でも日本全国どこでも行くつもりだから遠慮なく言って欲しい。チケット売りの目標とかあるなら手伝うからさ」
柚那ちゃんはバレリーナになりたいと思い、和真は全国を電車で駈け巡るというそれぞれの思惑があるものの、この時はまだ近くにバレエ教室はなかった。
お互いに近所に出来たらなと嘆きつつもまだ何ヶ所かある空き地を指を差して何が出来るのかねと話、あの空き地にバレエ教室が出来たらいいのにと理想を話していた。
その話をしていた数ヶ月後、空き地は誰かに買われて工事中になっていた。柚那ちゃんの家にはバレエ教室の体験会のチラシが入っており、それを態々《わざわざ》伝えに来てくれた。
「和真君、言霊ってホントにあるとは思わなかったよ。沢山練習して沢山発表会出れるように頑張るからその時は応援に来てくれたら嬉しいなっ」
敷地的の大きさから見て、コンビニか駐車場になるのかと思ったらホントにバレエ教室になるとは。もしかしてバレリーナとして有名になって世界に羽ばたいたら世界各地の電車に乗れるかも、決して口には出さないがそう考えていた。




