これからのこと
可能なら
家に実夢が来てから数ヶ月が経っていた。休みの日には外に行こうよと誘い出してくれてショッピングや映画を観に行ったりとずっと引きこもらないようにしてくれていた。
最初、休養していた時はある程度の蓄えがあって何とかなっていたもののそれが数ヶ月となるとやはり厳しくなってくる。
外に出たなら柚那ちゃんにも挨拶した方がいいよねと提案をする和真。命日でもなければお盆でもないが、近くに来ていたこともあって訪れることにした。
墓石に触って話しかける和真。
「柚那ちゃん、今ね実夢があの家に住んでいるの。理由としては佐倉市って場所に異動になったみたくて居候している感じだよ。次はお盆にまた来るね」
そう言い残して家に帰って行った。まずは仕事に復帰しなきゃ生活が出来なくなる。そのためにも積極的に家を出て炊事洗濯を出来るようにしようと決めていた。
有難いことに焦らなくて大丈夫と言ってくれる実夢、そしてその話を上司に伝えるとムリしないで徐々に慣らしていけばいい、ちゃんと籍は残してあるから心配しないでとラインが送られてくる。
ある日、実夢と共に出かけていて鏡越しに写る姿を見て何を思ったのか「あ、柚那ちゃん」と言ってしまう。そこにいるのは実夢だってことは分かっているのに何故だろうか。気がついたら立ち振る舞いまでも柚那ちゃんに似てきていた。
とはいえ、人の名前を間違えることはあってはならない。伝えるならばこう伝えるべきだった。
「実夢、最近立ち振る舞いまで柚那ちゃんに似てきたね。瞬間的にだけど柚那ちゃんと勘違いをする程似ているよ」
他の言い回しがあったのになと後悔しつつ、何故だか実夢の目を見ることが出来なかった。
それにしても数年来の友達と言えど、どうしてここまで献身的にしてくれるのか。居候として家にいるから少しでも何かしてあげようとしてくれているのか気になっていた。
その話をするとそれは立ち話ですることじゃないからと目の前にあった純喫茶に入っていった。
「単純に居候させてもらっているからというものあるけどそれだけじゃない。学生時代、柚那と付き合ってなかったら実夢が告白していた。それくらい弟のようにかわいくて愛おしいって思っていたからね。キズが癒える日がくるとは思わないけど将来的に結婚出来たら実夢は嬉しいよ」
これは所謂逆プロポーズってやつなのか。嬉しいが今すぐ分かりましたと返事が出来ないと答えた。
決して実夢のことを嫌いだからではなく、本来ならば柚那ちゃんと結婚しているはずだったのに亡くなったからじゃあ他の子と結婚するねとなると柚那ちゃんに示しが付かないし、顔向けも出来ない。そのことも同時に伝えた。
そして最後に実夢からこう述べられた。
「実夢として何年でも待つつもりだよ。和真君がこのタイミングなら結婚してもいいなと思うその時までね。実夢が好きでも和真君が違う人を好きになったらそれも叶わないけどね」
そう笑っていたが現状では自分をここまで献身的にサポートしてくれている実夢以外と付き合うという選択肢は和真にはなかった。




