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第47話 【実況】#8 ワイ氏、Aランクダンジョン『死霊の臓物』に挑戦

 ドチャア――


 

 突然、フレッシュゴーレムの体が崩れ始めた。

 

 僕たちは、フランケ氏を追うべく、その場を立ち去りかけていたが、驚いて足を止めた。


 ゴーレムは全身をばらけさせつつ、ドロドロと床の上に伸び広がってゆく。

 まるで、肉でできたケーキが溶けていくみたいだ。


《なんやこれ》

《キモ》


「これは……奴のスキルが解けたのか」


 呟いたのは柊さんだ。


「つまり――」

「ああ。誰かがフランケを倒したんだろう」


 僕の脳裏に、幼馴染みたちの顔が浮かぶ。

 

「もしかしたら、あの3人がやってくれたのかな……」

「ん?」 

彼女たちリューショージャーのメンバーも、このダンジョンに来てるんだよね?」

「あの連中のことか。しかし、彼女たちがフランケをやったとは、はっきり言って私は思えないぞ」


《わいにも思えん》

《あいつらのことだから、安全そうな場所で、自分のやりたいことをやってんじゃね?》

《あるとしたら、『連れて来たスライムの中に、偶然首が転移してきて~』みたいなパターンかな?》

《あるわけねぇだろ、そんなの(笑)》


「うーん……いざという時はちゃんとやってくれると思うんだけどなぁ」


《ええ!?》

《オッズ氏……前から思ってたけど、ちょっとあいつらに甘過ぎじゃね?》

《あんな目に遭わされてきたのに信頼できるとか、聖人かよ》


 とりあえず、当面の危難は去ったとみていいだろう。

 

 『カシナートの翼』は3人パーティだ。

 僕たちは、残りの二人を探すべく、ダンジョンを進み始めた。




「ところで、柊さんはあの人たちを最初から怪しいと思ってたの?」


 僕は傍らを進む同級生に囁きかける。


「カシナートの翼のこと? なんで?」

「いや、町で彼らと会った時、いやに警戒してたように見えたからさ」


 ダンジョンに潜る前、僕たちは多利無(たりむ)市内の商店街にて、件のパーティメンバーと対面した。

 その際、妙に柊さんが彼らに塩対応だったのが、気になっていたのだ。


「そうね、正直尋常じゃなくやばそうだと思ったわね」

「なんで?」

「目付きがすごくいやらしかったから」


 あの時の彼らの表情を思い出す。

 なにかニコニコ愛想よく笑っていた印象しか僕にはなかったが。


「……変な人たちだったけど、そんなやらしい目をしてたかなぁ?」

「してたよ。尾妻君は気付かなかったかもだけど」


 柊さんの言葉に、僕たちの手前を歩いていたトレ坊のリーダーさんが振り返る。


「あれはやばかったですよね」


 どうやら、女性にはピンとくる類の物だったらしい。

 まあ、この二人ぐらい魅力的だったら、その手のオーラを異性から向けられることも多いのだろう。


「あそこまで露骨にいやらしい目は人生で初めてだったわ」

「私もです」

「へえ、そこまで酷かったんですか」

「3人とも尾妻君をじっとりねっとり値踏むように見てた」

「まさにニチャアって感じでしたよね」


 

「…………………………………………え?」


 

 僕?

 僕のことを見てたの? 彼女たちじゃなくて?


 僕は改めてあの時のことを思い出す。

 そういえば、二人とも僕を庇うように彼らと握手していたような……。


「これは触れさせちゃだめだと思ったわね」

「同感です」


 つまり痴漢にあいそうになっている友達を守ってくれるような感じで、僕を助けてくれたのか?


「……すみませんでした。ありがとうございます」


 若干混乱しつつも、僕は頭を下げた。

 

 ついでに、自らの股間を見つめる。


 配信で該当箇所(こいつ)を晒し過ぎたせいか……。

 この物体にそこまで人を惹きつける力があるとは思わなかったが、今後は気をつけねば……。


《オッズ氏、なにか勘違いしてない?》

《あいつらもそこが目当てじゃねーと思うぞw》

《欲しいのは、不死身の体の方でしょ、どう考えても》




 僕たちは用心しながら進んだ。


 敵はこのダンジョンをホームグラウンドにしているようなので、罠を警戒する必要があったからだ。

 

 しかし、予想に反して上層はあっさり通過できた。


 異変が起こったのは、中層フロアを2階ほど進んだ時だ。


「前方に誰かがいます!」


 索敵能力に優れたメンバーが告げた。


 床の上に何者かが横たわっている。


 僕たちは身構えつつ、その人物に歩み寄った。


「死体か……」


 柊さんの呟くとおり、それは人間の遺体だった。


 しかし――


《随分高齢者だな》

《こんなところに老人の死体とか、おかしくね?》


 探索者は圧倒的に10代と20代が多い。

 スキルに覚醒する大半の人が、その年頃に獲得するからである。


 30歳以上は稀で、40歳以上の探索者は僕の知る限り存在しない。

 

 しかし、目の前に横たわる、どう見ても齢80は下らない遺体は、鎧をまとった探索者の姿をしている……。


「……外傷がないな」

「死因はなんだろう?」


《老衰じゃね? わいは仕事柄、高齢者の死に立ち会うことが多いけど、自然に息を引き取ったように見える》

《マジかよ。でも、なんでこんなところで?》

《それはわからん》


「かれ、は、探索者、ですよ……」


 ふいに通路の奥からそんな声が届いた。


 美しいけど、どこか人形じみた顔の青年がゆっくり姿を現す。


「……おまえはカシナートの翼のマリオンか」


 彼は、柊さんにぎくしゃく首を頷かせた。

 

「は、い」

「探索者と言ったな? ……まさかこの老人のことではないだろうな?」

「そうで、す。彼は、あなた方と同様、ギルド長に、命じられて、ここまで潜ってきた、パーティのメンバーで、す」

「…………なに?」

「ワタシの、スキルは、時を操る能力、です。これからあなた方にも、彼らと同様の姿になっていただきます!」


 突然早口になると、すっと僕の背後を指で示す。


 同時に、どさりという音が耳に届いた。


 振り返ると、トレ坊のメンバーさんたちが床に倒れ伏していた。


《なんてこった……》

《マジかよ》

 

 僕もただ呆然と目の前の光景を見つめる。

 

 全員が皺だらけの姿になって、床の上に横たわっていた。

 かろうじて息があるものの、今にも()()で息を引き取りそうだ。



 ニチャア。



 マリオン氏が作り物のような面貌を歪め、笑みを形作る。


「さあ、オッズさん。あなたの体をいただきますよ……」

「そんなに自分の物体に自信あるのか」




「面白かった!」




「この先どうなる?」




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