第42話 【実況】#4 ワイ氏、Aランクダンジョン『死霊の臓物』に挑戦
《マジかよ……有名な人なのに、こんなイカレた奴だったなんて》
《俺、カシナートの翼を尊敬してたのに》
《ていうか、ホントにやばくね? 例のカス集団がかわいく見えてくるレベルで鬼畜過ぎるだろ》
コメント欄がかつてないほど、騒然としていた。
それはそうだろう。
国内最強と目されるパーティが、まさか人攫いをした上にこんな非人道的な行為をしていたんだから。
「……接続の能力って言いましたよね?」
僕はいまだに満面の笑みを浮かべているフランケ氏に尋ねた。
「言ったねえ」
「あの三つ首の犬も、あなたが作ったのでは?」
相手のにやにやがさらに深まった。
「察しがいい! その通りだよ」
《マジかよ……》
《てことは、この人、多利無市内で普通に違法行為をしてたってこと?》
《完全にアウトだろ》
当たり前の話だけど、探索者といえどもダンジョンの外で犯罪行為をしたら、即座に逮捕される。
超法規的措置の恩恵を受けられるのは、あくまで探索中限定の話なのだ。
……というか、そんなことはベテランの彼なら百も承知だろう。
「どうしてですか?」
「んん~?」
「あなたは龍翔たちと違って、実績もあれば社会的地位もある人でしょう?」
「なぜそれらをどぶに捨てるような真似をするのかって? そりゃ~決まってるさ」
彼はにやりと口元をゆがめた。
「もうそんなものどうでもよくなったからだよ。本当に欲しいものが見つかったからね」
ニチャア。
またしても、あの粘りつくような眼差しで僕を見つめるフランケ氏。
「さあ、おしゃべりはここまでだ! お前たちさっさとこいつらを倒せ!」
彼はおぞましいキメラたちに指示するが、ふいに「ん?」と怪訝そうな声を上げた。
ぽたり、ぽたり……。
床に血が滴り落ちる音が響く。
オークの体に接続された、あの憐れな探索者が自らの喉に刃を突き立てていた。
どさっ、とその体が前のめりにくずおれる。
「あーあー、馬鹿だねぇ……こうなっちゃったら開き直って、充実した魔物ライフを送ればいいのに(笑)」
自決した青年の目は、死してなお絶望感に満ちていた。
僕は、膝をついて、無言で彼の瞼を閉じてあげる。
「その点、こっちの豚人間はいいよねぇ~、喜んで人間ライフを送ろうとしてるし」
「ブヒッイ!」
「まあオークってのは性欲が強いからさ、人間の女とヤるためにはむしろ人間の男の体になった方が都合がいいんだろうねぇ~。ほら、こっちの世界にはヤる相手が人間の雌しかいないし」
「ブヒヒィ♡」
《《《《「「「「……………………」」」」》》》》
「ってことでオーク君、彼らをさっくり始末しちゃってくれたまえ。あー、女は好きにしていいからね」
「ブヒ♡ ブヒ♡ ブヒ♡ ブ――」
嬉しそうなオークのいななき声が、突然途切れた。
柊さんの剣に、顎から頭の先まで貫かれたからだ。
オークが白目を剥いた時にはもう、彼女の剣はフランケ氏に迫っていた。
ガキンッ!
ロングソードで、間一髪、攻撃を受け止めるフランケ氏。
「……君、たしかS級探索者だっけ? まあまあの動きだねぇ」
「強がるなよ、この見せ筋野郎が」
普段の理知的な生徒会長の姿からは想像もつかないようなドスの聞いた声で、柊さんが言い返す。
実際、彼女の方が膂力が上らしく、フランケ氏の剣はみるみる押し込まれてゆく。
「馬鹿が。俺の力を忘れたのか?」
これまでの朗らかな上っ面をかなぐり捨て、獰猛な口調で応じるフランケ。
「チートスキル『接続』!」
彼が叫んだ。
身の危険を感じたのか、とっさに身を引こうとする柊さん。
「!?」
しかし、なぜか跳び下がることができず、ガクンとその場で体勢を崩す。
フランケはその隙を見逃さない。
――ボグンッ!
強烈なパンチを鳩尾にくらい、膝を付く柊さん。
「どうだい? 手が離れないだろう」
「…………っ!」
敵の言う通り、彼女は倒れたにも関わらず、両手で剣の柄を握りしめたままだ。
そのため、拝むような不自然な姿勢になっている。
「これが接続スキルだよマヌケがっ!」
《どうなってんだ?》
《剣と剣をスキルでくっつけたんじゃね?》
《しかも彼女の腕ごとだな。この効果は》
「ふん……おまえより猿どもの方が理解力があるんじゃないか?」
平然とリスナーさんたちを猿呼ばわりし、侮蔑の表情を浮かべるフランケ。
ふいに彼は呆れたような眼差しになって、柊さんの刀身を眺めた。
「しかしおまえ、ちょっと剣が汚すぎやしないか? 刀身に血がこびりついているじゃないか」
フランケ氏の発言通り、彼女の刃には赤黒い返り血が厚くこびりついていた。
「これじゃ切れ味も鈍るだろ? 駆け出しの探索者じゃないんだから、毎日きちんと手入れすることをお薦めするよ。まあ、君はもうそんなことを心配する必要もないけどねっ、マヌケ!」
《いや、マヌケはてめーだよ》
《今度は、おまえがオッズ氏のスキルを甘くみたな》
「……なにぃ?」
僕は隣に立つ、トレ坊リーダーさんに叫んだ。
「いまだ! 殺ってください!」
彼女は、事前に打ち合わせていたとおり、僕の喉笛を横一文字に切り裂いた。
即死だ。
そして、その瞬間、僕のスキル『死んでもズッ友』が解除され、柊さんの刃にこびりついていた僕の血液が再生を開始した。
――ベリベリベリ
強引に剥がれ落ちて、僕の元へ帰ってこようとする血糊。
同時に柊さんの剣が敵の剣から解放される。
今まで、文字通り血の糊として、両者の剣を繋いでいた僕の血がなくなったからである。
「くそ!」
今度はフランケ氏が飛び下がろうとしたが、柊さんの剣が閃く方が速かった。
――ザンッ!
たくましい腕が宙を舞う。
「あああああ、ぼ、僕の右腕がああああああっ! 鍛え上げた肉体がああああああっ!」
《はい、オッズ氏の一本勝ち》
あらかじめ僕の作戦を知っていたリスナーさんが書き込んだ。
そう。
僕はいざというときの保険として、パーティメンバー全員の武器に自分の血を付着させておいたのである。
こうしておけば、万一ダンジョン内で攫われても、『死んでもズッ友』を利用して居場所を探ることができるからだ。
「い゛だい、い゛だい、い゛だい、い゛だい、い゛だいいいいいいい~」
フランケ氏は、血の吹き出す断面を振り回しながら、泣き叫ぶ。
しかし、さすがに誰も同情はしなかった。
《ザマァwwwww》
《おまえは苦しんでから、逝けや》
《たぶんこれから56されちゃうけど、いまどんな気分?w》
「もっと派手にざまぁして欲しい」
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