第21話 【実況】#9 ワイ氏、Aランクダンジョン『死の顎』に挑戦
僕は左手の中指を確認する。
嵌めていたはずの黒い指輪は、跡形もなく消滅していた。
――やっぱりそういうことか
《で、次はどーするのん?》
《無敵のボスにダメージ与えたのはいいけど、1じゃさすがに意味なくね?》
「こうします」
僕は例のミミックの前に立つと、バカリと無造作に蓋を開けた。
即座に箱の縁に沿って牙が生え、勢いよく顎を閉じる。
さっと自ら頭を突っ込む僕。
――ボグンッ
そんな音とともに、後頭部を固くて鋭いものに貫かれる感触がする。
《ちょっとオッズ氏? なにやってんの?w》
《自分で食われにいってるように見えたんやが》
《ていうか、喰われてんだろw》
「すみません、自分では見えないんですけど、今って、僕の頭がつっかえ棒になって、ミミックの蓋が半開きになってる感じでしょうか?」
《まさにそんな感じだよ》
《てか、のんびり確認してる場合?w》
《俺、昔こういうの見たことあるわ。ワニの口の中にふざけて頭を突っ込んでいる人の動画》
よし!
ここまでは計画通りだ。
僕は薄暗い箱の中で、懸命に目をこらす。
「ミミックの口の中は、ものすごく臭いです。目に沁みます」
《生主の鑑すぎるけど、その解説いるのか?w》
――あった
僕はそれを発見すると、手を伸ばして拾う。
そして、頭はそのままに、素早く腕だけを箱の外に出した。
直後、めりめりという音が響き、ミミックの顎が閉じ合わさる。
僕の頭蓋骨の耐久力が限界を迎えたのだ。
――グシャッ
ワニにかみ砕かれるカニの甲羅のように、乾いた音を響かせて、粉々になる僕の頭部。
ふう、危なかった。
あと少し手を引っ込めるのが遅かったら、腕も切断されていた。
それじゃ意味がないんだ。
「それでは、頭が治るまで、しばしお待ちください」
リスナーのみなさんにCMみたいに告げる僕。
鼻から上は食われちゃったけど、口のあたりは残ってるから、今回はキチンと喋れるな。
《……オッズ氏、わいは初期から見てる勢だけど、今回ばかりはマジで引くで?》
《ホラー映画から出てきたみたいな外見になっちゃってるけど、気付いてる?》
「………………都市伝説で『口だけお化け』というのも存在しますし、ゆるキャラということでご了承願います」
《《《《《《そうじゃねえだろ》》》》》》
僕はドローンが浮いていると思しき方に、片手を突き出して見せた。
「一連の行動をしたのは、これを再ゲットするためです」
開いた僕の掌には、黒い指輪が載っていた。
まだ目が再生してないので、自分では見えないけど。
《これって、例の自爆アイテムよな?》
《使ったあと、消えなかった?》
「そうです。なので、新しいものを入手したんです」
《どゆこと???》
「ヒントはあの遺体の山です」
僕は、例の白骨死体がうず高く積まれている柱の陰あたりを示した。
「見てください。黒い指輪が何十個も転がっているでしょう? 変だと思いませんか? この部屋には宝箱が二つしかないのに」
《言われてみればたしかにそうだな》
「『一つ取ったら、新しい物がもう一つ生み出される』これが僕の立てた予想でした」
真珠貝は、体内に鉱物である真珠を作り出す。
あのミミックも、同じように体内に指輪を作り出す機能が備わっているんじゃないか?
《なるほど、そういうことか!》
《やっぱあんた頭いいわ》
《これからなにをやるかだいたい予想がついたけど……マジで実行すんのか?》
《わいもピンと来たけど、とても真似できん》
僕は実行した。
黒い指輪で自爆。
ミミックから再取得。
再生。
ボォォォォォォォン!
ボグンッ――グシャッ
ミチミチ……
ひたすらこれの繰り返しだ。
止血こそしたものの、柊さんの容体は時間とともに悪化している。
急がねば。
《オッズ氏、目の再生を待たないほうがスピーディになるぞ!》
《箱に頭を突っ込む角度を調節して、片目が残るように逝くんや》
「ありがとうございます! 他に効率死できる方法があったら、ぜひ教えてください!」
《効率死とかいうパワーワードwwwww》
《本年度の流行語大賞決定》
《He is crazy》
《Fucking skill……》
外国人のコメントも増えてきたみたいだ。
同接は……4000万人!?
《オッズ氏、がんばえー【¥100,000】》
《マジで世界の命運がおまえにかかってるからよお【¥200,000】》
《Kamikaze attack.But kimoi……【$3,000】》
スパチャの金額も見たこともない数字になっている。
それだけ多くの人が、僕らの帰還を願ってくれているんだ!
僕は今までにも増して、気合を入れて死に続けた。
「主人公、アソパソマソやん」
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