第12話 【急報】ワイ氏、S級探索者と高難度ダンジョンに挑む模様
数日が過ぎた。
あれから、僕はいくつかのパーティに同伴して、ダンジョン探索に参加させてもらっていた。
戦闘力0の僕がどこまで役に立てるか心配だったものの、幸いどのクランでもそれなりの貢献ができたようで、僕は彼らの発見したアンブローシアを数個ほどわけてもらえた。
――これでしばらくは日奈の身を案じないで済む
妹の主治医から呼び出しを受けたのは、そんな矢先だった。
「残念なお知らせです」
主治医は暗い顔で切り出した。
「ご存じかと思いますが、ダンジョン病は発症してから重篤化するまで、人によってかなり期間に差があります」
この時点で僕はひどい胸騒ぎに見舞われた。
「妹さんの場合、あなたがほぼ切らさずアンブローシアを服用させていたので、だいぶ進行が遅かったのですが、先日の検査の結果――」
医者はそこで目を伏せた。
「病状の急速な進行が見られました」
ある程度覚悟していたものの、僕は目の前が真っ暗になるようなショックを受けた。
喉から言葉が出てこない。呼吸が苦しい……。
それでも絞り出すようにたずねる。
「妹に残されている時間は、あとどのぐらいなんですか?」
「余命半年です」
その後はなにを話したのか、よく覚えていない。
気が付くと、僕は病室で寝息を立てている日奈の顔を、ぼんやり眺め続けていた……。
「それは深刻な事態ね……」
僕の話を聞いた柊さんはこたえた。
ここは生徒会長室だ。
室内には、僕と彼女以外誰の姿もない。
――ダンジョン病はダンジョン由来の病だと言われている。
それなら、ダンジョンの専門家であるS級探索者ならば、もしかしたら世間一般には知られていない解決策を知っているかも……
そう考えて、藁にも縋る思いで、彼女に相談しに来たのである。
「結論からいうと、解決策はあるわ」
「ホントに!?」
「でも、それは非常に困難な道よ」
執務机の上で手を組み、険しい表情で言葉を紡ぐ彼女。
「ほとんど奇跡に近いと思う」
「それでもかまわないから教えてくれ!」
「……わかった。でも、その前にこれを見て」
柊さんは、僕の方にタブレットを向けた。
画面では、どこかのダンジョン内の映像と思われる動画が再生されていた。
――両腕に大怪我を負い、倒れ伏す探索者
その脇には開いた宝箱が転がっている。
画面の奥に、もう一つ宝箱。
ふいに視界が激しくぶれ、カメラがブラックアウトする――
「ドローンの撮影はここで終わっているわ」
彼女はタブレットに指を添えて、少し巻き戻した。
「ここを見て」
横たわる探索者の姿が再度映し出される。
柊さんが示しているのは、その傍らの宝箱だ。
暗くてよく見えないが、底の方になにかが入っている。
かなり分厚い本のようだ。
柊さんが画面を拡大する。
本の表紙には、なにかが描かれていた。
異世界文字で書かれたタイトルと思しき表記。
その下には瓶の絵が描かれている。
僕はその瓶の形に見覚えがあった。
「まさか――」
「そう。これは迷宮でみかけるアンブローシアの入っている小瓶の絵よ。多分、この本にはアンブローシアの生成方法が記されている」
思わず息をのむ。
いままでアンブローシアはダンジョン内で偶然拾う以外の入手方法がなかった。
この薬が生成できるようになれば、状況は一変するだろう。
それどころか、生成の過程で、今まで謎だったこの奇病のことが明らかになるかもしれない。
「つまり、この本が救う手立てに繋がるってことか……」
「そう。でも、もう一つ、確実に妹さんを救える方法がある」
「それは?」
「ダンジョン病の元凶であるダンジョン自体を無害化する――つまり、日本に5カ所存在するA級ダンジョンをすべて踏破する」
「……!」
僕はあまりの衝撃に絶句する。
これが発想の転換というのか……。
たしかに元となるダンジョン自体がなくなれば、ダンジョン病も消滅するのは間違いない。
しかし、それがどれほど困難かは、僕みたいな底辺探索者にも想像に難くない。
彼女が「ほとんど奇跡」と言ったのも、控えめな表現に思えるぐらいだ。
ふいに柊さんが、身を乗り出して僕の手を握った。
強い眼差しで、告げる。
「お願い尾妻君、私と一緒にこの動画のダンジョンに潜ってくれない? A級ダンジョン『死の顎』に!」
「面白かった!」
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