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06「捕らわれた勇者」

 見事に勇者を弟子に迎え入れた最強剣士ルト。


 意気揚々とするルトに対して、弟子のユリスはげんなりしていた。


「ほら、俺がおぶった方が圧倒的に早かっただろ?」

「いや、そうですけど……うぷっ、気持ち悪い……」


 修行の前に行っておきたい所があったユリス。


 そこまでは馬車で二日の距離があるため、時間が勿体ないとユリスを強制的におぶり超スピードで駆けたルト。


 ユリスにとってはありがた迷惑極まりない。ルトの駆ける速度が速すぎて、ら失神を繰り返し気持ちが悪くてしょうがなかった。


「なんでそんな速いんですか? 人類の速さ超えてますよね……」

「まあな! 鍛えてるから!」


 鍛えてるの一言で済む話でもない。半ば呆れ気味のユリスは、この人に何を言っても無駄だと早々に諦める事にした。


「もう良いです。とりあえず、お城に行かないと」

「さっさと済ませろよ」


 二人が来たのはイザルの首都。

 ユリスの目的はただ一つ。

 マクロス王子との婚約を断るためだった。


 このままでは、数日後にユリスの住んでいた村に迎えが来てしまうのだ。先ずは婚約を断らない事には、始まらない。


 流石に黙って居なくなるほど、ユリスは常識知らずではなかった。どこかの誰かさんとは違って。


「おい、俺に文句言ったか?」

「言ってませんよ! そうだ、お城には私一人で行きますので、ルトさんはどこかで休んでいて下さい!」


 ルトを連れて行くとろくでもない事が起きそうな予感がしたユリスは、やんわりと誘導をかける。


「おう、そうだな! じゃあ俺は、あそこの宿屋で一眠りしてるわ」


 ルトが指したのは、首都で一番大きくて高級な宿屋だった。平均的な一般人の一ヶ月分の給料である一泊銀貨二十枚もする宿屋に、気軽に向かっていくルト。


「わ、分かりました! では、ごゆっくりしていて下さい!」


 ちょっと羨ましそうな表情でルトを見送ったユリスは、一人城へと向かっていった。


 そもそもルトが何故こんなに金を持っているのか。その疑問に答えるとするなら、簡潔に強いからと答えるしかない。


 元々各国を旅しながら日々鍛練を積み、その成果を試すように強い相手を探していたルト。そこで役に立っていたのが各国にあるギルド支部だった。


 ギルドにも種類があり、通称"何でも屋"と呼ばれる『冒険者ギルド』、主に戦争への参加や人の護衛等を請け負う『傭兵ギルド』など、様々なギルドが存在している。


 そしてルトは、前に上げた二つのギルドに登録していた。


 冒険者ギルドでは、ダンジョンでの魔物討伐や災害級の魔獣討伐を請け負っていたので、自然と多くの報酬を受け取る事になる。


 傭兵ギルドでは、戦争へ参加し一騎当千で名を馳せ多額の報酬を手にしていた。


 報酬に対してあまり使い道がなかったルトだけに、今ではそこら辺の貴族もビックリする金持ちだった。


 勿論、各国の様々な機関から専属スカウトを受けるルトだったが、それらは全て断っていた。ルトが目指していたのは、最強でありそれは自分のため。


 目的の道から反れる事はしない。

 ただそれだけである。

 何度でも言うが、要は脳筋なのだ。


 偉い人に名を言えば知らない者はいない有名人のルト。

 実は、この国の王様とも面識があったりする。


 もしルトがユリスと共に城へ登っていれば、あんな事にはならなかったのだ――


 ◆★◆★


「おお、よう来た勇者ユリスよ! 迎えに行く前に来るとは、我が息子との婚約が待ちきれなかったのだな! ウハハハハッ!」

「時間を取っていただきありがとうございます。今日はその事でお話があって参りました……イザル王様」


 登城したユリスは、第三王子マクロスの婚約者として城内では知らぬ者がいなかったので、すんなりイザル王との面会に漕ぎ着けていた。


「話とな……ふむ、申してみよ」


 一瞬怪訝そうな表情を見せたイザル王だったが、自慢の髭を弄りながらニコニコとしたいつもの表情でユリスに発言を促した。


「はい……実は、婚約が出来なくなった事をお伝えしたくて」

「婚約が出来ない? 何故じゃ?」


「それがですね……私、ある人の弟子になって世界を旅しなければいけなくなったのです」

「ほう、それは誠に面白い話じゃ。それが本当ならな」


 厳しい表情でユリスを見据えるイザル王。

 そこには王として君臨する迫力があった。


「ほ、本当です!」

「では、その師匠となる者は何故ここに来ていない? 王家との婚約を破棄させようとしているなら、ここに来て頭を下げるのが礼儀ではないか?」


 正論を叩きつけられ言葉が返せないユリス。ただ、ルトを連れて来たら余計に話が拗れそうで、それも懸念して連れて来なかった。


 それを正直に言えば『そんな者についていく必要はない』そう一蹴されるだけだと、ユリスは考えていた。


「考え直せ勇者ユリス。マクロスとの婚約が嫌なら第一王子ではどうだ? 既に正妻がおるから側室という事にはなるがな」

「いえ、それは――」


「それとも第二王子はどうじゃ? あやつは変わってやつでな、女に興味はないが結婚はさせなければいかんと思うておった。第二王子なら他に男を作っても何も言うまい。中々良い条件だと思うぞ」

「ご、ごめんなさい。私……結婚は出来ません!」


 ユリスがピシャリとイザル王の提案を断ると、場の雰囲気は急激に重たくなる。そんな中、イザル王は笑顔を見せユリスに語りかけた。


「お主は少し勘違いをしておるようじゃ」

「勘違い……ですか?」


「うむ、お主はもう逃げられんのだよ。まあ、逃がすつもりもないがな。おい、レグザはおるか!」

「え……?」


 冷たい表情に変わったイザル王は、片手を上げ騎士を一人呼ぶ。ユリスは突然の事に困惑した表情を隠せない。


「は、ご用でしょうか」


 イザル王が呼んだのは、大柄で銀髪をした騎士団長を務めるレグザという男だった。


「勇者ユリスを牢にいれておけ。あと、マクロスを呼んで"施術"させろ。あやつはそういうのに長けておる。きっと勇者殿も矯正され素直になるであろう」

「は、畏まりました」


 急な展開に頭が追い付いていかないユリス。兵士に両手を抑えられ、ようやく事の重大さに気づいた。


「ちょっと待って下さい……なんで私が! どういう事なんですか! 説明して下さい! 離してよ!」


 必死にイザル王へ説明を求めるが、解答は返ってなど来ない。


 勇者ユリスは、捕らわれてしまったのだ。


 その頃、師匠であるルトはというと――

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