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04「初めての戦い」

 どうすれば良いか。

 ユリスは父と母の形見である盾と剣を眺め思考した。


 ユリスの両親は元冒険者である。

 冒険話も夜眠る前に沢山聞いていた。


 両親は引退を機に故郷であるこの村に戻り、ユリスを生んで育てた。


 決して楽な暮らしではなかったが、両親と共に慎ましくも幸せな生活がユリスは好きだった。だが、そんな両親も病で亡くなり今は独りぼっち。


 それを救ってくれたのが村の人達だったのだ。独りになってしまったユリスを気遣い、ちょくちょく顔を出しては少ないなりに食糧を置いていったりしてくれた。


 熱を出した時に一晩中看病をしてくれた隣のお婆さん。

 独りで寂しい時にからかいに来てくれた金物屋のおじさん。


 そんな村人達の顔が一人一人浮かんでくる。

 そして、恐怖に歪み助けを求める顔も。


「村長さん! 村の人達は避難した!?」


 逞しく凛とした表情で村長に尋ねるユリス。

 覚悟は、決まったようだ。


「ああ、みんな旧鉱山の方へ避難したよ。後はわしらだけじゃ」

「そう、なら村長さんも早く避難して! 後は私が……この勇者が魔獣を食い止める!」


 ようやく自分を勇者と認める事が出来たユリス。

 その時、暖かい光がユリスを包む。


「なに、これ……」


 その光に包まれると、何故か勇気が湧き、恐怖や不安が掻き消されていく。


「おおっ、これは誠に勇者じゃ……頼んだぞユリス」

「うん! 国からの応援が来るまで、絶対にみんなを護るから!」


 ユリスは両親の形見である盾と剣を持つと家を飛び出した。


「グオオオォォォッッ!!!!」


 村の中心から聞こえる雄叫び。

 ユリスは迷わずその声へ向かって駆ける。


 村の中心である広場の中心には、屋根付きの井戸やベンチが置かれちょっとした交流の場だった。


 だが、そこにはかつての面影などない。既に瓦礫となったそこには、大きく黒い獣が佇んでいた。


「大丈夫、私ならやれる。私は……勇者よ!!」


 体長はユリスの十倍はありそうな巨体。三つ首の災害級の魔獣ケルベロスは、その牙を打ち鳴らし涎を垂らしていた。


「覚悟しなさいっっ!!」


 先ずは先制とばかりに、物怖じせず斬りかかるユリス。


「固いっっ……」


 力任せに振った剣は、分厚い皮膚に弾き返され傷一つ付ける事が出来ない。ユリスは一旦距離を取りケルベロスの動向に目を光らせる。


(ここで無理をしても仕方ない。私の役目は応援が来るまで耐える事よ!!)


 冷静になったユリスは、盾と剣をがっちりと握り耐久戦の構えを見せる。対してケルベロスは、ユリスをじっくりと見定めるような目付きで動かない。


 このままケルベロスがなにもして来なければ良いのだが、人生そうは都合良くいかないものだ。


「グオォッ!!」


 短く牽制のように吠えたケルベロスが、ユリスに牙を向けながら突進する。


「っっ!!」


 なんとか横に体を転げ避けたユリス。ケルベロスから向けられた重圧に肝が冷える思いだった。


 突進に失敗したケルベロスは、前足で器用にブレーキをかけそのまま体勢を整える。お互いに距離を取り、やり直しだ。


 次になにをしてくるか全く分からないユリス。

 勇者と言っても、戦闘は今回が初めての初心者なのだ。


 まず初心者が災害級の魔獣に立ち向かうだけでも、相当に根性と覚悟がなければ出来ない事。


 ここに誰かいれば勇者うんぬんは抜きにして、ユリスの勇気を讃えていた筈だ。


 互いに睨み合う事数十秒――戦いは次の局面を迎える。


「ガゥッ!!」


 三つ首であるケルベロスの右顔が一吠えすると、真ん中の顔が大きな口を開けた。


(なにをする気なの!?)


 油断しまいとユリスが構える。


「ガゥッッ!」


 それを嘲笑うかのように、今度は左の顔が吠え攻撃を仕掛けてきた。


「魔法!?」


 ケルベロスとユリスの間に竜巻が発生。

 それがユリスへと向かってくる。


(……くっ!! 凄い風圧で動けないっっ)


 避ける間もなく竜巻はユリスを直撃。

 立っているのがやっとな風を浴びせる。


 なんとか剣を地面に突き立て竜巻が治まるのを待つユリスだったが、次の一手は既に仕掛けられていた。


 真ん中のケルベロスが開けていた口からは、火炎の魔法が放たれる。このままではユリスへ直撃するのは間違いない。


 更に言うと、火炎を巻き込んだ竜巻が出来上がり、中心にいるユリスは灼熱の炎で焼かれてしまう。


(嘘……もう終わりなの?)


 諦めたくはない。だが、動く事が出来ない。

 もどかしい気持ちにユリスの心は負けそうになる。


 放たれた火炎は目の先に迫り、ユリスを焼き尽くそうとしていた。その時――


(またあの光が!?)


 ユリスを包む光が再度発生し、その光がユリスを護るように障壁状に展開される。障壁によって弾かれる炎と竜巻。


「グルルルッッ!」


 その光景を見たケルベロスが忌々しそうに唸る。


(助かった……の? でも、なんだか力がごっそり抜けた気がする……)


 ユリスを護った障壁の正体は、言うなれば自身を危機から助けようとする自動障壁のようなものだった。勇者に授けられた"力"の一部と言った所だろう。


 ただし、良い事ばかりではない。自動で展開される障壁は、勿論ユリスの魔力を使っている。相手の攻撃が強力なほど魔力が消費されるのだ。


 そんな事は知らないユリスだったが、自分の魔力が減りピンチが続いている事は認識していた。


(このままじゃジリ貧ね……応援はまだまだ来ないと思うし、ここまでかな……)


 ケルベロスの圧倒的な力に弱気になるユリス。

 事実その考えは間違っていない。


 いくら早馬を駆けた所で、助けが来るのは早くても明日だろう。それこそ、救世主がやって来るような展開にならなければこの窮地は脱っせない。


 ここでユリスが殺らなければ終わりである。

 それは、ユリス含め村人達全員が分かっていた。


 だが、勇者になったばかりの少女に頼るしかなかった。

 勇者の奇跡を信じるしかなかったのだ。


「グオオオォォォッッ!!」


 憔悴気味のユリスを見たケルベロスは、ここがチャンスと言わんばかりに吠え、次の攻撃を仕掛けにくる。


 竜巻と火炎の連打。これを何回か続ければ、勝てると分かっているのかもしれない。


(みんな……ごめんなさい……お母さん、お父さん……今、そっちに逝くね……)


 ユリスもそれを理解し、村人達への謝罪と亡き両親の元へ向かう準備をした。逃げる手はない。


 ここで逃げれば、ケルベロスは躊躇なく村人達を襲いに行くだろう。ユリスに出来る事は、せめてケルベロスに力を使わせ、願わくば力を使い果たさせる事。



 実際そんな事は無理だろう。ユリスも持って後二、三回の攻撃を凌ぐ分しか力は残っていない。


 それでも、最後の一瞬でも諦めたくなかった。


「来るなら来いっっ!!」


 覚悟を決めたユリスの気合いが響く。


「グオオオォォォッッ!!」


 それに呼応するようにケルベロスも雄叫びを上げる。


 結末の時が否応なしに迫る。

 そんな時――


「良いね! やってるやってる~!」


 緩い声が緊迫した場に響いてきた。

読んで下さりありがとうございます!

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