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03「運命の歯車」

 まったく拍子抜けだった。


 弱いのは歴戦の感で分かっていたルトだったが、まさかここまで軟弱だとは思いもしなかったのだ。


「おりやぁぁー!」


 刃こぼれして錆びた剣を意味もなく振り回す盗賊達。

 型の一つでも見れたらまだ救いようがあった。


 その剣には殺気もなければ覚悟もない。

 そんな剣を相手にするほどルトはお人好しではない。


「抜く意味もなねえな」


 眉一つ動かさず、淡々とした様子で盗賊達の攻撃を指一本で往なすルト。その場から動きもせずに自分達の攻撃が往なされれば、戦意を失うのは致し方ない。


「親分、これは無謀ですぜ……」

「う、うるせえ! 役にたたねえ奴等だ! 俺がいく!」

「いや、カタカタ震えた足で言われても……」


 戦力の差など一目瞭然。絶対に勝てない戦いだと分かっていながらも、盗賊の長は死地に向かうしかなかった。


「まだやんの?」

「調子に乗るのもいい加減にしやがれ! 俺は片手じゃ数え切れねえほど殺ってきた! お前も俺の勲章にしてやるよ!」


「御託は良いから早く来いよ」

「くっ、鳥の餌にしてやらぁっっ!!」


 剣を上段に構えた盗賊の長は、鬼気迫る表情でルトへ突撃すると大振りな一撃を振り下ろした。


「え……?」


 渾身の一撃……の筈だった。


 人差し指と中指でちょんと摘ままれた剣は、そこからピクリともしない。


 盗賊の長には理解出来なかった。普通、振り下ろした剣を指でガードするなどあり得ない。しかも摘ままれただけで動かす事も儘ならないなんて信じ難かった。


「お、お前……魔法使いか!?」


 後の可能性に賭けるならそれしかない。

 何らかの魔法による現象。


 その可能性に賭けた盗賊の長がルトに問う。しかし、ルトから返ってきた言葉は、盗賊の予想を大いに裏切るものだった。


「"魔無(マム)"の俺が、んなもの使えるかよ。悪いがただ摘まんでるだけだ」

「そんな馬鹿な……」


 世界には魔力の源が漂っている。

 人類はそれを使い魔法の理に触れる事が出来る。


 だが、その理に一切触れる事を赦されない者が一定数いるのだ。その者達は蔑まれるように"魔無"と呼ばれていた。その一人が、他でもないルトだった。


「よし、遊びはこのへんで良いだろ。死ぬ準備は出来たか?」


 まるで遊びにでも誘うような笑みで恐ろしい事を言うルトに、冷や汗が止まらない盗賊の長。


「ま、待ってくれ! 俺には女房と子供がいるんだ!」

「だから? 見逃せって?」


 そんな都合の良い話はない。

 命を奪うなら奪われるのもまた当然。

 情状酌量などルトは持ち合わせていない。


「頼む! なんなら奪った物は全部お前にやる!だから命だけは!この通り――」


 剣を離した盗賊の長は、地べたに土下座し情けなく命乞いをする。だが、言葉を最後まで語る事は出来ない。


 なにせ、既にその首は胴体から離されていたのだから。


「「ひ、ひぇぇーっっ!!」」


 哀れな長の最後を見た盗賊達は、恐怖に駆られ逃げようとする。だが、ルトによって次々と首を落とされ数秒もしないうちに地面は赤く染まっていた。


「ば、化け物だ……」


 一部始終を見ていた村の男がぽつりと呟く。


 助けられた癖に酷い言い草だとは思うが、盗賊の襲撃を受けた上にルトの残虐ショーだ。縛られた状態で恐怖心から呟いてしまっと考えると、逆に気の毒に思う。


 それに、ルトからしたら化け物と言われてもただの褒め言葉。化け物=強い、が成立してしまうだけだった。


 その後、村人達を恐怖から解放したルトは、村長宅に招かれ今回の礼を受ける事になった。


「いやはや、此度は本当にありがとうございました」

「ああ、礼は良いから報酬をくれ」


 多少の報酬を要求されるだろうと考えていた村長だったが、あまりストレートなルトの物言いに一瞬顔をしかめる。


 金か女かそれとも小麦か。どれを上げる事になっても村を救ってくれた事に変わりはない。村長は覚悟を決め、ルトにどんな報酬が良いのか率直に尋ねた。


「報酬ですか……なにがお望みで?」

「ここに勇者がいるという噂を聞いた。本当にいるなら連れてきてくれないか」


「勇者? うちの村に? はっはっは! それはまた面白いご冗談で」

「むぅっ、冗談など言ってない。その勇者は、この国の王子と婚約するらしいぞ」


 ルトは話半分に聞いた情報を使ってかまをかけてみる。

 これで村長に不審な反応があれば何かを隠している証拠。


「がはははっ! それはなんともおめでたい! うちの村にそんな勇者が現れてくれれば喜ばしいですな」


 それを期待して村長の反応を伺うルトだったが、村長は更に豪快に笑いその話を一蹴した。


「そうか……すまん、忘れてくれ。じゃ、俺は行くわ」


 流石のルトも、ここに勇者は居ないと納得した様子で席を立つ。


「お待ち下さい! まだ礼が済んでおりません!」

「あ~、いらんいらん」


 引き留める村長に背を向けたルトは、片手を軽く上げ立ち去って行く。その背中に、村長は胸が熱くなるのを感じぽつりと感謝を溢していた。


「ありがとうございました……貴方こそ、私達の勇者です」


 さて、盗賊の襲撃から村を助けたのは良いが、肝心の勇者探しは振り出しに戻ってしまった。


 もっと東だったのか、それとも他の方角だったのか。

 迷ったルトは運命を一枚のコインに任せる事にした。


 古びた一枚のコインを腰巾着から取り出したルトは、大空へ高く投げる。


「表ならもっと東! 裏なら西だ!」


 大空へ高く舞ったコインが、一定の落下速度を維持しながらルトの手のひらへと落ちる。


 東か西か――運命の瞬間が訪れる。


「ほう、これは……」


 ◆★◆★


 ルトが運命を天に任せる少し前。


 西の村に住む村娘ユリスこと新人勇者様もまた、運命のいたずらに翻弄されていた。


「大変だぁぁっっー!! みんな逃げろぉぉっっー!!」


 村人から上がる恐怖を帯びた避難を伝える叫び。


「ユリス! 頼む、なんとかしてくれっっ!」

「何事ですか村長!?」


 ユリスの家に慌ててやって来た村長は、懇願するように助けを求めた。ユリスがただの村娘であれば情けない事だが、ユリスは成り立てと言っても勇者は勇者である。


 勇者に助けを求めるのは極々自然な流れだった。


「ケルベロスが出たんじゃっっ!!」

「ケルベロス……災害級の魔獣……」


 この世界に存在する魔獣という生き物には段階がある。

 友好的な魔獣から人類と敵対する魔獣まで様々だ。


 その中でも、人類に大きな害をなす魔獣は災害級と呼ばれていた。災害級の魔獣が通った村や町は、それこそ災害並みに瓦礫の山と死体を生む。


 そんな災害が小さな村に降りかかろうとしていた。


「外の兵士様達はどうしたんですか!?」

「全員……喰われた」

「そんな……」


 ユリスが勇者だと知らせを受けた国は、婚約パーティーまでに何かあってはと、二十名ほどの兵士を滞在させていたのだ。


 それが全員喰われたという衝撃は、ユリスを動揺させるには十分な事態だった。


「誰か馬を駆けて国へ知らせを――」

「村の若いのに既に行かせた。後はユリス……応援が来るまでお前が頼りじゃ」


 唐突に訪れた最初の試練。


 勇者ユリスはこれを突破し村を護る事が出来るのか。

 それとも災害級の魔獣に喰われ無惨に命を散らすのか。


 はたまた、救世主が爽快に現れ勇者のピンチを救い、その心を魅了してしまうのか。


 それが分かるのも時間の問題であった――

読んで下さりありがとうございます!

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