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01「最強になった男」

 広大な空間と暗闇が広がるとある洞窟。

 幾何学模様が施された頑丈な扉。

 その扉の中には、最も強い生物がいた。


「我の封印を自ら解くとは誠……愚かなり」


 "邪神竜ベベル"――


 千年から二千年の周期で目覚める厄災。

 目覚める度に人類を間引く邪悪。


 この生物を封印出来た事が奇跡だった。


 二百年前――時の勇者達が命を賭けても封印しか出来なかったとも言える。


 その邪神竜の封印を解いてしまった愚か者こそ――剣に魅いられた男"ルト"である。


 見た目はなんて事のない普通の男だ。ちょっと変わっていると言えば、黒い頭髪の上に生えた獣の耳とお尻から生えた尻尾ぐらいだろう。


「なんとでも言え……さあ、やるぞ」


 ドワーフ族の勇者が伝説の鉱石で打ちし剣を、人族の勇者が邪神竜に突き刺し、精霊王に愛されたエルフ族の勇者が、その剣を媒介にして放った究極の石化封印魔法。


 そこまでしてようやく封印した苦労を、ルトは石化した勇者の剣を己の腕力だけでぶっこ抜き、究極の封印を解いてしまったのだ。


「ふっ、我にたった独りで立ち向かうとはな。しかしだ……我でも破るのに苦労していた封印を、決して勇者にはなれない異物が解くとは……誠に面白い」


 巨大な体から溢れる邪悪な臭気は、生物を一瞬で腐らせる。一本一本が人の背丈一人分程もある牙が並び、その口から吐かれる闇のブレスを喰らえば跡形も消え失せる。


 そんな相手に、たった独りで立ち向かう馬鹿な男がいた。その理由が、伝説の勇者として立ち上がった訳でもなく"最強と戦いたい"という単純明快な理由。


 そんな馬鹿げた理由で、人類を滅ぼそうとしている邪神竜の封印を解いてしまった。もし仮にルトがここで負けてしまえば、厄災は人類へと降りかかる。


「戯れ言はいいからかかってこいよ」


 それを分かってか否か。

 邪神竜に向かって安い挑発をかますルト。

 その表情は不敵な笑みさえ浮かべていた。


「我の存在を分かっておるのか? まあ、よい……朽ちろ」


 その刹那――邪神竜の口から放たれる闇のブレス。

 これで終い。他愛もない。


 勝ちを確信した邪神竜は、この後どうやって人類どもを駆逐してやろうかと考える余裕さえあった。


「なんだ、もう勝ったつもりか?」


 ルトは殺られてなどいなかった。


 ルトが愛用する愛剣"グラヴァハート"は、横に幅広く長さはルトの身長程もある刀身が赤黒い大剣である。


 空から飛来した世界一重い謎の鉱石グラヴィデア。


 その鉱石をこれでもかと、惜しみ無く使って打たれたグラヴァハートの重量――なんと"一トン"。


 実際に造らされた鍛冶が大好きなドワーフ達でも、二度とごめんだと愚痴を溢した逸品。


 それを雑作もなくブンブン振り回す男こそルトであった。そしてまさに、グラヴァハートを旋風の如く回転させ闇のブレスを防ぐルト。


「わ、我のブレスを防ぐ、だとっっ!?」


 驚くのも無理はない。

 邪神竜のブレスを完全に防ぐなど到底無理な話。


 邪神竜を封印した勇者達でさえ、人族とドワーフ族の勇者が犠牲になり防いだのだ。


 その渾身のブレスを意図も簡単に防がれたとあって、とうの邪神竜は開いた口が塞がらなかった。


「よし、次はこっちの番だ!!」


 見事に闇のブレスを防ぎきったルトは攻めに転ずる。


 グラヴァハートを正面に構え、ギラギラとした金色の瞳を邪神竜へ向けた。


「ちょ、ちょ、ちょっと待てっっ!」

「命乞いなら聞かんぞ」


「そうではない! 先ずはお互いの事をじっくり知ろうではないか! ほら、お互いの生い立ちとか、好きな食べ物とか、話す事は山ほどあるではないか! もしあれなら、世界の半分を貴様にやろう!」


 勇者達が立ち向かって来た時の比ではない危険さを感じた邪神竜は停戦を申し込む。


「話など、戦いのなかで語るものだ。往くぞ!!」

「こ、この脳筋がぁぁっっ!!」


 そう、ルトは脳筋だ。

 人の話など話半分にも聞いていなかった。


 だからこそ、死んでもおかしくない鍛練を重ねられたのかもしれない。


 そして今まさに――その境地を叩きつける。


「グアアアアァァァァッッ!!」


 雄叫びを上げる邪神竜の体は、たった独りの脳筋に叩き斬られた。


「邪神竜もこんなものか……」


 グラヴァハートにべったりと付いた邪神竜の黒血を振り落としルトはごちる。


 最強の邪神竜を倒したこの男――"現"最強なり。



「き、貴様は……何を……目指す……」


 体を半分に叩き斬られた邪神竜は、消滅までの限られた時間を使いルトへ問う。


「そんなの決まってる……最強だ」

「フハハハハッッ!! ならばその望みは叶ったぞ」


「あ? なんだと」

「我より強い者など……もう貴様しかおらぬ。失ったのだ貴様は……生きる目的を……我が、何故人類を滅ぼすのに躊躇していたか知るがよい……絶望を……知るがよい」


 目から鱗とはまさにこの事。

 邪神竜最後の恨み節は、ルトを絶望に叩き落とした。


 人生の目標である最強。それが叶った幸福と同時に訪れた不幸。邪神竜の恨み節とはいえ、その言葉は間違いではなかった。


「俺はこれから、どうすりゃ良いんだ……」


 最強の男は、生きる目的を失った――

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