85 到着、フォレスディア
広い森を歩くこと1時間弱。
かなり歩いたと思うけど、まだフォレスディアは見当たらない。
受付嬢さんもタキガワさんも私を騙してないよね?
この森の中に町が本当にあるんだよね?
「なあー、まだ着かねえのかよ」
カオスが不満の声を漏らす。
「たぶん進む道は合ってる。もう少しで見えてくるはずよ」
「たぶん?」
「うろ覚えなのはしょうがないでしょ。ゲームだと1度町に行ったことがあれば、瞬間飛行機能を使って一瞬で行けるんだし、通常ルートで行ったのは最初だけよ。道なんてはっきりとは覚えてないって」
唯一フォレスディアに行ったことのあるタキガワさんを先頭に私達は森を進んでいる。上に広がる木の葉が日光を半分以上遮っているので森の中は暗い。ただ、青く光るコケやキノコが生えているから道は分かりやすい。
あ、木に隠れているのはマッシュドラゴン!
体中に色んなキノコを生やしていて、衝撃を受けると胞子を飛ばす。
胞子、浴びてみたいなー。ドラゴンの体に生えたキノコの胞子なら大歓迎だよー。
なっ、分かれ道の右側を歩いているのはヌマッドドラゴン!?
主に沼に生息していて体は泥塗れ。ドロドロと泥が流れる体はまるで沼のよう。1度でいいから抱きついてみたいなー。
なんてことだ。マッシュドラゴンにヌマッドドラゴン、外見や特徴のせいで持ちドラ不人気ランキング上位に入る2体を見られるなんて。エルバニアでも見たことないから1度生で見てみたかったんだよね。
くううう、じゃれ合いたいけど今そんな時間ないしなー。さらば。
何回か迷いながら、さらに森の奥深くへ進むこと40分弱。
段々と木の葉同士の隙間から入る日光が多くなり、ようやく昼らしい明るさになった。景色に変化があったってことはフォレスディアが近いのかも。
不思議だ。奥へ進むごとに木の数が減っていく。
……いや、違う。変化が少しずつだから気付くのが遅れた。
木の数が減ったように見えるのは木が大きくなっているせいだ。
最初は横幅が1メートル程度だったのに、今は10メートルくらいあるぞ。
気のせいじゃなければさらに奥の木の方がもっと大きい。
「見えたよ2人共。あそこに看板があるでしょ」
タキガワさんの言う通りアーチのような形の看板が立っていた。
距離が離れているから見えづらいけど、フォレスディアって書いてある。
良かった、やっと着いたんだ。
「早く入ろう。ミレイユ達を捜さないと」
道中はモンスターへの警戒もあってゆっくり歩いていた。でも町の中ならモンスターはいないし警戒は要らない。ミレイユ達を捜すことに意識の全てを割ける。
アーチ状の看板を潜ってフォレスディアの町へ入る。
え、う、うっそお……民家が1軒もない。その代わり、みんな大きな木を刳り貫いて家や店にしている。この町じゃみんな木の中に住んでいるのか。
この町のどこかにミレイユ達が居るはず、捜さないと。
「――お願い! 3ゴラド、3ゴラドなら買うから!」
周囲を見渡しながら歩いていると聞き覚えのある声が聞こえた。
何かの店前に、猫耳と尻尾が生えた女の人が立っている。
細い髭が左右3本ずつ伸びている彼女は『薔薇乙女』リーダー、マヤさん。
「ダメダメ。ポーション1個8ゴラド、書いてあるでしょ」
「そこをなんとか! 4ゴラドまで下げて!」
「半額にしろってのか? うーん、7ゴラドにならしてやってもいいぞ」
「5ゴラド! 値下げしてくれなきゃ他の店で買う!」
「……そう言われると値下げしてやりたくなるな。でも6ゴラドまでが限度ってもんよ」
「くっ、なら仕方ない。6ゴラドで買わせてもらうよ」
無事だったみたいだ、良かった。
元気に値切り交渉しているところを見るに、帰還が遅れたのは危ないトラブルに巻き込まれたせいじゃなさそうか。それにしても8ゴラドも6ゴラドも大して変わらないよね。あそこまで必死に値切る必要ないんじゃないかな。
「……すげえ、ポーション値切る奴とか初めて見た」
「私も」
「とりあえず声掛けよっか。おーいマヤさーん!」
名前を呼んでマヤさんに駆け寄る。
「ありゃ、驚き『のんぷれいやー』じゃん。君達もフォレスディアで仕事?」
「いえ、『薔薇乙女』の帰りが遅いので様子を見に来たんです。心配で」
「だが無事みてーだな。元気に値切り交渉してたし」
「ふっふっふ。冒険の心得2、お金はなるべく貯めておくべし! 人生じゃ何があるか分からないからね。お金が大量に必要な時のために節約しておかないと」
お金が大事なのは同感だ。
ポーションを値切る気持ちは理解出来ないけど。
「とにかく無事で良かったです。問題は何もなかったんですね」
「……いや、私は元気だけどミレイユがね」
「ミレイユ? ミレイユに何かあったんですか?」
まさか、大怪我でもしちゃったのかな。いやでも怪我ならエルバニアの治癒院に運べばいいんだし、わざわざフォレスディアで回復を待つ理由がない。それにミレイユやバンライのジョブはウィザードだ。下級の回復魔法なら使えるって前に本人達から聞いている。
「君達ってミレイユがギルドで働く理由は知ってる?」
「はい。パパを捜しているんですよね」
初めて2人と仕事した日に教えてもらったことだ。
借金して失踪したパパを捜すため、そして借金返済のせいで失った家を建て直す資金のため、ミレイユは元従者であるバンライとギルドで働いている。
「見つかったんだよ、ミレイユのお父さん。このフォレスディアで」
「それは良かったん……ですよね?」
ずっと捜していたパパに会えたんだから良いことだよね。
「見つかったまでは良かったんだ。でも、どうやら喧嘩しちゃったみたいでね。私とテリーヌは帰ってもいいと言われたんだけどさ、仲間を放ってはおけないじゃない? だからエルバニアに帰らずこの町に滞在していたの。ごめんね心配させて」
帰りが遅いのはそういう理由だったのか。
正直部外者が首を突っ込んでいい話じゃないとは思うけど、友達としてミレイユのことが心配だ。1度くらい会って話したいな。もし私に出来ることが何もないなら大人しくエルバニアに帰ろう。
「ミレイユはどこに居るんですか?」
「案内するよ。バニアちゃん達が来たと知れば嬉しいだろうし」
「お願いします」
友達が困っているなら助けたいけど親子喧嘩だからな。
小さなことでも私に何か出来ることがあるのかな?




