タキガワ視点 私は死んでいる
短めです
私は死んでいる。以前は死にたいとか死にたくないとか言っていたのがバカみたいだ。私はとっくに死んでいたんだから。
全員かは分からないけど、ドラゴロアオンラインをプレイしていた人が死ぬと、この世界にゲームのアバターの姿で転生する。
ミヤマさんが言っていただけだから確証はない。
だけど、何となく、本当のことだと信じられた。
私はドラゴロアオンラインをプレイしていただけ……と思っていたけど、日常生活の記憶が妙なところで途切れている。友達との待ち合わせ場所へ向かうため、バスに乗って……それ以降の記憶がない。死んだとしたらこの時しかない。
「私、ちょっと受付嬢さんに訊きたいことあるから行ってくるね」
「おう、いってらー」
バニアちゃんが受付カウンターへと小走りで向かって行く。
ギルドだから建物内には人間が多く居るけど、私の近くには今カオスだけ。
今なら誰にも聞かれることなくカオスだけと話せる。
「ねえ、カオス。アンタはどう思った?」
「何?」
「プレイヤーがもう死んでるって話」
立っているのも疲れたから2階へ続く階段に座る。
カオスは質問に答えづらそうな顔をしながら頭を掻く。
「……どうって言われてもなあ、死んだとか実感湧かねーよ。だってオレ達まだ生きてるじゃん」
「アバターの姿でね。でも、日本に居た私達は死んじゃったんだよ」
親にも、友達にも、もう会えない。
仮に日本に帰る方法があったとしても、体が死んでいるんじゃなんの意味もない。
親や友達からしたら今の私は知らない人だし、戸籍という現実的な問題もある。
帰りたいなんて考えていたのがバカみたいだ。
はぁ、親より先に死ぬとか、親不孝すぎるでしょ私。
もうすぐ、お母さんの誕生日だったのにな。
毎年ケーキを家族で食べていたのに、もう私は家族と食べられないんだ。
友達との約束も果たせない。
流行りのスイーツを若葉と食べに行くのも、礼香と服買いに行くのも、麻理が最近飼い始めた犬を見に行くのも、全部出来なくなっちゃったんだ。ちゃんと約束したのに。
みんな、怒ってるかな? 悲しんでるかな?
「オレはよ、碌な人生じゃなかったから、未練なんて殆どねえかな。お前は未練とか多いのか? 日本に帰りてえのか? オレはいいよ、今のままで。もうこの世界で一生過ごすって決めたから」
「未練ならいっぱいある。まだやりたかったことがいっぱいあったんだから。……でも、もうどうしようもないんだよ。分かってるんだよ。分かってる、けど……」
思い出しても辛いだけなのに思い出しちゃう。
もし日本で今も過ごせていたらと考えちゃう。
心の中が散らかっている。片付けようとしても余計散らかる。
「時間はたっぷりあるんだ。気持ちの整理はゆっくりやれよ」
今のプレイヤーの状態、転生って言うんだよね。
いっそ、死んだらそれで終わりなら良かったのに。
生まれ変わる必要なんて私にはなかったんだ。神様、酷いよ。せめて、私が天寿を全うしてから転生させてくれれば良かったのに。それなら今世だけを見られたのに。
「お、あのレディーめっちゃ可愛い。声掛けてええ」
……なんか私、初めてアンタを凄いと思ったよ。
私もアンタくらい気楽になれればいいのにね。




