83 ミズハの預かり役
エルバニア国内北東に聳え立つギルド本部に私達は戻って来た。
今回の仕事は色んなことがあったなあ。ウォータードラゴンを欲深い人間から解放したり、ケリオスさんがかつて呼び出したガネシアってドラゴンと会ったり……あれ? 私達仕事と全然関係ないことしてる?
「帰って来たね、ギルド本部に」
「長旅ってわけじゃねーのに久し振りな感じだよな」
「バニアちゃん、カオス、依頼の達成報告終わったら何か食べに行かない?」
「「賛成!」」
右奥のカウンターに居る受付嬢さんのもとに向かう。
今回は一気に複数の依頼を達成したな。スイリュウ付近のもの、ゴールドス付近のもの、合わせて5個の依頼を達成した。
Cランクの依頼は慣れたものだ。
そろそろBランクに上がったりしないかな。
「チーム『のんぷれいやー』様、お待ちしていました」
受付嬢さんがそんなことを言う。
「待っててくれたんですか? あの、依頼達成報告をしに来たんですけど」
「はい、討伐依頼と採取依頼合わせて5件ですね。確認します」
討伐の証拠となる指定部位と、採取依頼の納品物を受付嬢さんに差し出す。
「依頼達成を確認しました。報酬はこちらになります」
おお13000ゴラドも貰えた!
これで新しい武器とか服を買おう。
「チーム『のんぷれいやー』様、これからギルドマスターに会ってもらえませんか? 何やら大事なお話があるらしいので」
「え、はい、分かりました」
何だろう大事な話って。
まさかクビ……いやそんなわけないよね。
丁度いいや、こっちもミズハの件で相談したいことがあるし。
ギルドマスターの執務室に向かい、ノックしてか入室する。
部屋は以前と変わらない。猫グッズで溢れている。
猫の形をしたソファーには黒髪の猫型獣人、ミヤマさんが座っていた。
「や、来たにゃんね」
「あの、大事な話って何ですか?」
「まあ座りなよ」
お言葉に甘えてミヤマさんの前にあるソファーに腰を下ろす。
ミズハや持ちドラ達は入口付近で待機だ。さすがにソファーに全員は座れない。
「話っていうのはね、バニアちゃんが言っていたゴマという男についてにゃん」
……ゴマ! あいつの情報が手に入ったのか。
偉い人が直々に調べてくれるのは本当にありがたい。
「詳細はこれ見てね」
ミヤマさんから1枚の紙が差し出されたから受け取る。
これは、ゴマについての調査結果が詳しく書いてある。
ゴマはリュウグウというドラゴニュートの国に居て、女王の側近。……あんな奴が側近。リュウグウの女王様ってもしかして変人なのかな。だいたい、あいつがやっていること全部知っているのかな。上手くいけばあいつを倒すのに協力してくれたりして。
ジョブはアルティメットメイジ。
レベルは125。持ちドラはデストロイドラゴン。
こんな情報まで……いったいどうやって調べたんだろう。
100年以上前からこの世界に居る『ぷれいやー』、か。
……ん? あれ? あいつが『ぷれいやー』なのは知っている。今更驚きはしない。不思議なのはそこじゃなくて、何でミヤマさんは『ぷれいやー』のことを知っているんだ。
「あの、ミヤマさんも『ぷれいやー』を知っているんですか?」
「知ってるにゃん。私も似たようなもんだし」
「マジ!? おまっ、プレイヤーだったのかよ!」
ミヤマさんが、『ぷれいやー』……。驚いた。
私だけじゃなくてカオスもタキガワさんも目を見開いている。
「なんでプレイヤーのあなたがギルマスなんてやってるのよ」
「そりゃあ趣味にゃん。前のギルマスから許可貰ったし問題はないにゃん」
「よく会って間もない人間にギルマスが許可したわね」
「会って間もない? 許可を貰ったのは80年くらいの付き合いの時にゃん。今年であいつと会って100年は経ったかにゃあ」
「「「100年!?」」」
え、100年って、ミヤマさんって何歳?
見た目は若々しい猫の獣人なのに中身はお婆ちゃんってこと?
獣人の寿命は個人差があるけど、猫の獣人は平均120歳。ヒューマン同様、歳を重ねれば外見も老化していく。そのはずなのにミヤマさんはまるで10代後半のように見える。どういうこっちゃ。
「マジかよ婆さんじゃねーか。若く見せる秘訣でもあんのか?」
「そうじゃないわカオス。いやそれも気になるけど、他に驚くことがあるでしょ。ミヤマさんの話が本当だとしたら、この人がこの世界に飛ばされたのは100年以上前ってことになる。私、プレイヤーは全員同時にこの世界へ来たと思っていたんだけど……。私の仮説、ハズれよね」
「完全に外れているわけじゃないにゃん。この世界、ドラゴロアに2人以上のプレイヤーが同時転生するのはありえるにゃ」
まずいな。私にはまだ難しい話をしだした。
「……その言い方。あなた、何か知ってるよね?」
タキガワさんの問いにミヤマさんは笑みを浮かべた。
「知ってるにゃん。私は、全部ね」
全部? 全部って何。どこからどこまでを言っているんだ。
ミヤマさんはもしかして、『ぷれいやー』がこの世界に来た原因を知っているのかな。今の発言、少なくともそれは知っているように聞こえたけど。
「2人以上が同時にこの世界へ来るパターンとして考えられるのは、大きな事件や事故かな。例えば強盗に殺されたとか、バスや電車の交通事故とかにゃん」
殺された? それに交通事故って……まさか。
「ちょ、ちょっと待って! 事件や事故になんの関係があるの?」
たぶんタキガワさんも真実を想像出来ている。
認めたくないんだ。この世界に来る条件が……死だなんて。
「あれ、もしかして知らなかったにゃん? プレイヤーは全員死んでいるんだよ。死ぬことこそがこの世界に来る条件だからにゃん」
タキガワさんは「……そんな」とショックを受けている。
カオスも驚いてはいるけどあまり深刻じゃなさそうだ。
「この世界の名はドラゴロア。プレイヤーがプレイしていたゲームの舞台もドラゴロア。奇妙に思うかもしれないけど、この世界はゲーム世界じゃなくて、ゲーム世界と同じ名前と設定の世界にゃん。2つの世界は繋がりを持っている。その繋がりこそが、プレイヤーの死をきっかけに魂を引き寄せる。アバターの姿なのは、生前の肉体よりもドラゴロアとの繋がりが深いからにゃん」
私にはミヤマさんが何を言っているのか、全てを理解することは出来ない。おそらく『ぷれいやー』なら全てを理解出来るんだろう。
1つ分かるのは、やっぱり『ぷれいやー』の知るドラゴロアとこの世界は別物ってことくらいか。色々違いがあるってタキガワさんもカオスも言っていたけど、似てるだけの別世界なら何も矛盾はない。
「マジかー、オレ死んだのかー。死因何だったんだろ」
「死ぬ直前の記憶の有無は個人差があるにゃん。大抵の人は覚えていないみたい」
ショックが大きすぎてタキガワさんが喋らなくなった。
今はそっとしておこう。どんな言葉を掛けていいのか分からない。
……空気が少し重い。話、逸らそうかな。
「あの、前に私の喉を治してくれましたよね。あれは『ぷれいやー』だから出来たんですか?」
「喉? あーあれね。あれは技術だから頑張れば誰でも出来るにゃん」
「そうなんですか!?」
「いや嘘だろ。そんなの誰でも出来たら医者いらねーよ」
何を言っているんだか。ミヤマさんが嘘を吐くわけないじゃん。
うん、やっぱりミヤマさんは信頼出来る。
「あのミヤマさん、頼みたいことが」
「ん? なになに?」
「あそこに居るウォータードラゴン、名前はミズハって言うんですけど、あの子を預かってくれませんか。あの子の赤ちゃんが産まれるまででいいんですけど」
ミズハを買い取ったはいいものの、私達はギルドの仕事で各地を飛び回っていて多忙な身。卵持ちのミズハのことを考えるなら大人しくした方がいいけどそれは無理だ。私にはやるべきことがある。ゴマを倒すためにもっと強くなって、もっと情報を得ないといけない。そのためにギルドのランクを上げているんだ。
最初、私達はギルドに依頼を出す気でいた。
野生に戻すのも考えたけど、卵を持ったまま野生に戻るのは危ない。
やっぱり安全な環境で赤ちゃんが産まれるのを待つのが1番だ。
卵持ちのウォータードラゴンを預かってくれる人を募集すれば、誰かが預かり役に立候補してくれる。もしミズハ自身が預かり役を気に入ったら持ちドラになればいい。持ちドラにならなくても、赤ちゃんが産まれた後で野生に戻ればいい。そこはミズハの判断に任せる。
そんなわけで依頼を出すつもりだったけど、私としてはミヤマさんに預けたい。
知識が豊富だし信頼出来る。きっと適任なんじゃないかな。
「分かったにゃん。いいよ、預かってあげる。どういう経緯であなた達が連れてきたのかは聞かないでおくよ。私はただ、ミズハが安心出来る環境を提供するにゃん」
「本当ですか! ありがとうございます!」
忙しいだろうに……引き受けてくれて本当にありがたい。
「さーて、私は仕事に戻るにゃん。機密とかあるから悪いけど早めに出ていってね」
「は、はい!」
ミズハのことはミヤマさんに任せよう。
そういえば、もうミレイユ達は帰ってきてるかな。
依頼から帰ってきたら一緒にどこかへ出掛ける約束してるし、どこへ出掛けるか考えておかないと。




