表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/123

82 一件落着かも


 プール施設を経営する会社に私達は戻って来た。

 金髪オールバックでサングラスを掛けた男の人、この会社のオーナーであるシブキさんと応接間で向かい合う。今日はショー担当のお兄さんが同席していないから私達4人だけだ。


 応接間の外から小さな金色のドラゴン、キンキラドラゴンがトレイを持って飛んで来た。上には水が入ったグラスが乗っている。また飲み物を運んで来てくれたのか。……てことは、もしかして。


「よく出来まちたキラリンちゃーん! 偉いぞお!」


 トレイを机に置いたキンキラドラゴンにシブキさんが抱きつく。

 やっぱり、やると思った。

 髭も擦り付けてるし、2日前と変わらないな。


 30秒程で解放されたキンキラドラゴンは外へ逃げていった。

 すぐにシブキさんの緩んでいた顔が引き締まる。


「約束、覚えていますよね」


「当然覚えとる。わしゃーの会社で雇っとるウォータードラゴン、名前はミズハじゃったか? 2000000ゴラドで買い取るっちゅう話やったなあ。約束の確認をしに来ただけなら帰ってくれんか。わしゃー忙しいからのう」


「今日はお金を届けに来たんですよ。約束の、お金を」


「これがそのお金です。中を確認してください」


 タキガワさんがアタッシェケースを机に置いた。

 訝し気に受け取ったシブキさんがケースを開ける。

 ケースの中には10000ゴラド通貨が200枚、ぎっしり詰まっている。


 ガネシアから譲ってもらった宝石や装飾品を売って手に入れたお金だ。

 実は約2500000ゴラドも収入を得たから、余ったお金は私達の物にした。一応ガネシアにお金が欲しいか訊いたけど、お金には興味がないらしいから問題ない。


「なっ、ありえん……まだ約束してから2日やぞ!? 偽物じゃありゃせんか! 2日で2000000ゴラドも集められるわけないやろ!」


「へっ、オレ達にかかりゃ余裕だぜ」


 カオスって何かしたっけ? カジノで散財しただけなような。


「シブキさん、2000000ゴラドは持って来ました。次は、そちらが約束を果たしてください」


 自分の力で稼いだわけじゃないけど約束は約束。

 お金と引き換えってのが気に入らないけど、ミズハは渡してもらう。


「……金が本物か偽物か、確認してからな」


「では明日、またこの場所でお会いしましょう」




 ――翌日。昨日と同じ応接間。

 部屋に入ると難しい顔をしたシブキさんが居た。


「……金は全て本物やった。約束じゃあ、ミズハはくれてやる。最後に教えてくれんか? どうやってあんな大金は短時間で用意したんかを」


 私は人差し指を口元に当てて、僅かに笑う。


「秘密です」


 話せないんだ。あなたみたいに欲深い人間には。

 昨日ガネシアに会った後に情報収集した結果、本にはガネシアのことが何も載っていなかった。ギルド支部の人に訊いてみたけど誰も知らなかった。情報通の受付嬢さんでも分からなかった。


 つまり、ガネシアは元々この世界に存在していないんだと思う。

 この世界だと完全な新種扱いになる。新種は発見した人がお金を貰えたり、名前を自由に付けられたり、色々とお得なことから新種発見はみんなの憧れ。だからこそガネシアのことは信頼出来る人間以外に話さない。


 騒がしいのは嫌いらしいから、ガネシア自身も他の人間とはあまり関わりたくないと言っていた。どうせ関わるなら静かな人がよくて、新種とか言って騒ぐ人の傍には居たくないらしい。今考えるとこれ、新しい住処探しの参考にもなる情報だね。


「じゃあシブキさん、ミズハのことは貰っていきますね」


「そんな急がなくてもいいじゃろうが! せめてもう少し話を――」


「それじゃあまた会う機会があれば会いましょう」


 話すことはもうないから応接間を出た。

 応接間を出た先、廊下ではショー担当のお兄さんが立っていた。

 会えて良かったな。別れの挨拶くらいしておきたかったから。


「君達、ありがとう。僕の立場じゃミズハは救えなかった。君達が言わなきゃ卵にも気付かず、いじめにも気付かず、ミズハをショーに出して苦しませていたと思う」


 確かに、お兄さんはこの会社で働く人だもんな。

 立場のせいで行動を起こせないのは仕方ない。

 シブキさんに立ち向かったらクビになっちゃうかもしれないしね。

 今の仕事を辞める覚悟がなきゃ立ち向かえないよ。

 私達が部外者という名の自由な立場で本当に良かった。


 お兄さんの案内で、ミズハ含めたウォータードラゴンの部屋に行く。

 プール付きの可愛らしい部屋だ。

 1体ごとに鉄格子で部屋が仕切られている。


 ミズハはお兄さんから、私達に付いて行けと説明を受けて、最初は戸惑った様子だったけど理解してくれた。


「ミズハのこと、よろしく頼むよ」


 お兄さんが頭を下げる。


「はい。任せてください」


 私達も頭を下げて、ミズハと一緒に会社から立ち去った。

 町から出た後、草原を少し移動して誰も居ない所まで行った。

 私は持っている『黄金の小鐘』を鳴らしてガネシアを呼ぶ。

 輝く黄金のドラゴンは数秒でやって来て、私達の前に降り立つ。


「……そのドラゴンか。汝等が助けたドラゴンは」


「はい。ウォータードラゴンのミズハです」


 ガネシアはミズハをじっくり見つめた。


「汝等が言っていたことは全て事実のようだな」


 え、もしかして疑われていたの私達。

 でも考えてみればそりゃそうか。会ってすぐ信じられるわけないよね。

 財宝欲しさに適当な嘘を吐いて、騙し取った可能性だってガネシアは考えなきゃいけないんだ。だって財宝竜だから。きっとこれから先、誰かと関わり合いになったら、まずガネシアはその誰かが財宝目当てかどうかを見極めなきゃいけない。


「今、汝等を完全に信じた。我の住処探し、頼んだぞ」


「はい、任せてください!」


 ガネシアはすぐに飛び去っていった。どこに行ったんだろう。

 よし、とりあえず一件落着……だと思うし、私達もエルバニアに帰ろう!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ