81 財宝竜ガネシア
広々とした空間で後ろの財宝を守るように、眩い黄金の体を持つドラゴンが座っていた。
頭に乗る立派な王冠。カラフルな宝石が大量に埋まっている翼。
このドラゴンを私は知っている。ケリオスさんがゴマと戦っている時にどこかから現れた謎のドラゴン。クリスタ達が怖がっていたものの正体はこれか。まさかこんな、洞窟の奥なんかに住んでいたなんて。
「なっ、財宝竜ガネシアじゃねーか!」
そう驚いた顔をするのはカオス。呼んだ名前にタキガワさんも目を丸くする。
「もしかして2人も知ってるの?」
「プレイヤーなら殆どの奴が知ってるって! タキガワも知ってんだろ!?」
「話題性が凄かったからね。ゲーム10周年記念の1日だけ、500000円でショップに並んだ課金アイテムで召喚出来るドラゴンだもの。確か『黄金の鐘』ってアイテムよね。ガネシアが居る間だけ経験値とゴラドの獲得量が増える効果だったはず」
よく分かんないけど知っていることは確かなんだね。
「汝等は誰だ。我に何か用か」
「「喋ったああああああ!」」
そんな大袈裟に驚かなくても……。
ドラゴンが喋るのは珍しいけどロックドラゴンやマグドラゴンを知った後だし、もう慣れたよ。そりゃ私だって少しは驚いたけどね。クリスタが喋り出したら私も今の2人くらいには驚くかな。
「私はバニアです。あの、ケリオスさんを覚えていませんか?」
「知らんな。その男が我について何か話したのか?」
「えっと、話を聞いたわけじゃなくて……」
……覚えていないんだ。いや、待った。
そうだ、よく思い出してみれば覚えていないのが当たり前なんだ。
あの時、ゴマが何かしてクリスタからケリオスさんの記憶を奪ったはず。
確かクリスタだけじゃなくてガネシアもそれをやられていたはず。
あれ? 覚えてないんだよね? 何でケリオスさんが男の人だって分かったんだろ。
「ねえバニアちゃん。どうしてあいつの名前が出るわけ?」
「ケリオスさんが召喚したんだよ、ガネシアのこと」
「あー、そういえばあいつ、黄金の鐘を買ったとか言っていたかも」
「マジ!? 金持ちだなあ」
「我を召喚したと聞こえたが、それは事実か?」
「間違いないと思います。ドラゴン違いでなければ」
あの時は遠くで見ていたから顔は見えなかった。
財宝竜ガネシアなんて図鑑には載ってないし、すっごく珍しいドラゴンなんだろう。新種の可能性もある。でもそれはガネシアがこの世界で生まれていない可能性も意味している。だってガネシアは召喚されたんだ。カオスやタキガワさんみたいな『ぷれいやー』と同じように、別の世界からこのドラゴロアに来た可能性は十分考えられる。
「我には生まれた記憶がない。気付けば谷の上に居た。召喚されたのが事実なら、我は召喚の瞬間に誕生したのかもしれんな」
なるほど、そういう考え方もあるのか。
何かに創られた存在ってことだよね。
「……して汝等は、ケリオスという者のことを覚えているかどうか訊くために訪れたのか?」
それは、違う。思わぬ出会いで本来の目的を忘れていた。
「いいえ、私達は調査に来ました。実は今日、ゴールドスという町をモンスターの大群が襲ってきたんです。色んなモンスターが群れて町を襲撃しに来たという異常が、また起こらないとも限りません。そこでモンスターがやって来た方向に来て、何か異常がないか調べていたんです。そうしたらこの洞窟を見つけて、持ちドラが怖がったのを見て、この洞窟に異常の原因があるのではと思いここまで来ました」
ふぅ、なるべく短く説明したつもりだけど上手く伝わったかな。
「……ふむ、それはおそらく我が原因だろう。済まなかったな。なぜかモンスター共は我を恐れているのだ」
恐れていたってことは、モンスターはガネシアから離れた場所に移り住もうとしたのかもしれない。きっとガネシアはとても強くて、その強さが周りの生き物に伝わっちゃうんだ。洞窟には普通、モンスターだけじゃなくて蝙蝠やら蜥蜴やら住んでいるはずなのに、そういった動物が1匹も居なかったのが証拠だ。
「ま、お前は悪くねーよ。勝手に怖がる奴等が悪い」
確かにガネシアは何もしていないんだから悪くない。……だけど。
「でもこの洞窟を住処にしていたら、モンスターがまたゴールドスの方に行っちゃうわ。仮にモンスターがまた付近に発生すると考えたら、今日みたいな大群がガネシアから逃げて町を襲う。自分達の住処とするためにね」
そうなんだよなー。ガネシアは何もしていないんだけど、この場所に留まる限り今日みたいなことがいつかまた起きるんだよ。ゴールドスの町の人にとっては大迷惑な話だ。あの町は他の町からも人がよく来るから、町方面にモンスターの数が増えると困る。
この問題、原因を知った私達がどうにかしなきゃ。
「……ふむ、我のせいで他の者に迷惑が掛かるのは望まぬ。しかし、そうなると我が住める場所はいったいどこにあるというのか」
「一先ず移動しなきゃいけないのは確かよ。同じ事を繰り返さないようにね」
タキガワさんの言う通りだけど、ならどこに移動すればいいのかって話になるんだよなあ。モンスターが近くに居ない土地が理想だけどそんな土地あったかな。モンスターってどこにでも居るイメージなんだよね。
「ねえガネシア、私達と取引しない?」
え、タキガワさん、急に何を言って……。
「取引だと? 内容は?」
「私達があなたの新しい住処を探すの手伝う代わりに、後ろの財宝を一部譲ってほしいのよ」
財宝……なるほど、狙いは分かった。さすがタキガワさん、頼りになるなあ。
「我の宝が目当てか」
「正確には違うの。その財宝を換金して、とあるドラゴンを欲深い人間から解放してあげたいのよ。解放の条件は2000000ゴラド。私達にそんな大金は稼げないし困っていたところなの。あなたが協力してくれればドラゴン1体助かるし、私達が住処探しに協力する。どう?」
私も2000000ゴラドを稼げる気がしない。でも、もしガネシアが財宝を分けてくれたら用意出来る。見たところ宝石とか金塊とか高価な物がごろごろ置かれているし、仮に全部売ったら2000000どころか200000000くらいは手に入りそうだ。私達がミズハを助けるにはガネシアを頼るしかない。
「……ドラゴンが困っているというのなら、見過ごすわけにはいかんな。後日、そのドラゴンと会うことは可能か?」
「可能よ。あなたが財宝を分けてくれたらね」
「ならば持って行くがよい。それと、これもな」
ガネシアがペッと口から吐き出したのは小さな金色のベル。
「それは『黄金の小鐘』。それを強く鳴らせば我は音を感知して音源へと向かえる。呼びたい時に使うといい」
涎塗れだ、汚い。いやでもドラゴンの涎と考えれば不快感はないかも。
持っていたハンカチで付着していた涎を拭いて『黄金の小鐘』を鞄に入れる。
好きな時に呼べるってのはいいよね。遊びたい時に呼んだらダメかなあ。
「ありがとうガネシア。さ、バニアちゃん、カオス、あの財宝を持ち帰るわよ」
「「おおー」」
2000000ゴラドなんて大金を要求されて、勢いで要求を呑んじゃった時はどうなるかと思ったけど奇跡が起こってくれた。人生なんとかなるもんだなー。日頃の行いが良いからかもね。今日の偶然の出会いに感謝しなきゃ。
ミズハ、待っててね。すぐ解放してあげるから。




