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80 進撃の理由


 モンスターの大群との戦いは終わった。

 あれだけの数のモンスターを相手に討伐隊の犠牲者は5人。最初のブレス攻撃をしなかったらもっと敵を相手にして、死者の数は数倍になっていたんじゃないかな。


 報酬はギルド支部に帰ってから受け取る。

 討伐隊に参加したみんなは生きて帰れたことを喜び、お酒を飲んだりして騒ぎ始める。あの大群を見た時はどうなることかと思ったけど、何とかなるものなんだな。


「よし、この30000ゴラド、カジノで数倍に増やしてやるとしよう」


 フルゼットさんはそう言ってギルド支部を出て行く。

 あの人、本当にカジノが大好きなんだな。

 うーん、経験者だからか大損する姿が目に浮かぶ。


「これでカジノの負け分は取り戻したな」


「モンスターが攻めて来てくれて運が良かった……あー、町の人にとっては運が悪かったけど。私達はこれでスタートラインに戻れたわね」


「つってもこれからどうすっかー」


 ……攻めて来たモンスターの大群、か。

 改めて考えると、今回のモンスター達の行動は異常すぎる。

 普段から群れて行動する種族もいるけど、今回は様々な種族が一斉に押し寄せてきた。種族が違うモンスターが徒党を組むのは殆どないケース。今回は単純な数もモンスター同士の結託も何もかもがおかしい。


 ゴールドスの町が狙われたのも謎だ。

 町は人間の拠点だからモンスターは滅多に来ないはずなのにあんな大群がやって来るなんて。まさかカジノ好きなわけなないだろうし不思議だ。

 町を襲おうとした理由があって、モンスターが結託したのかな。

 私達の知らないところでモンスターに何か良くないことがあったのかも。


「ねえ、モンスターがやって来た方向に行ってみない?」


「なんでだよ。お宝でもあんのか?」


「金策には繋がらなそうよね。バニアちゃんが行くなら行くけど」


「今回みたいな襲撃がまた起こらないとは言えないし、原因が分かればいいなと思って。お金を稼げるわけじゃないけどちょっと気になるんだ」


 あの大群はどこからやって来たのか。

 ゴールドス周辺のモンスターが主だったから近くから来たのは間違いない。

 モンスターの足跡を辿れば来た方向くらいは分かる。早速足跡を見つけに行こう。


 町を出て真っ直ぐ歩き、モンスター達の足跡を探す。

 ……中々時間が掛かりそうだ。

 周辺が砂浜ならともかく、荒野だからね。

 足跡なんてくっきりとは残らない。

 特に町の近くだと戦闘の痕跡や死体しか残っていない。


 今は白いマスクと帽子を付けた人達、戦闘の後処理をしている人達のせいで痕跡も消えつつある。……せいで、なんて言っちゃダメか。モンスターの死体を片付けたり地面を平らにしたり、色々と大変な仕事なんだから。ああいった人達が居なかったら、ギルドの仕事がもっと大変になっちゃう。


 一応少しだけ後処理を手伝いながらモンスターの足跡を探すこと40分。

 ついに見つけた、分かりやすいモンスターの足跡。かなり体重が重く大きな種族だったのか、地面を約1センチメートル程も窪ませている。大きい足跡だから辿るのには最適だね。


 荒野に残る足跡を辿っていくと高い崖が見えてきた。

 4時間程も辿ると足跡は途切れてしまう。かなり遠くまで来たし、この場所に居たのは数時間、もしくは数日前ってところか。雨が降ったり他の野生動物に踏まれたりすれば痕跡は薄まり、最終的に消える。もうこの足跡は追えない。


 あの遠くに聳え立つ高い崖、手掛かりはあれくらいか。

 崖まで歩いて行くと大きな洞窟を見つけた。

 すごく大きくて広い。大型のドラゴンでも余裕で入れるな。


「お宝の予感! トレジャーハントしようぜ!」


「ただの洞窟でしょ」


「バカヤロー、洞窟といったら宝箱だろ! レアアイテムが奥に眠ってるんだよ!」


「……そんな絵本みたいな話」


 あるわけない……とも言えないけどさ。


「ク、ルルゥ」

「どうしたのクリスタ?」


 洞窟を眺めていたクリスタが怯えたように1歩引いた。

 よく見るとブラドとクィルまで同じ反応だ。こんなの見たことない。


「ちょっ、どうしたのよクィル」

「おいブラド? おーい……腹減ったのかな」


 どう見てもお腹が減った反応には見えないって。

 この怯える反応、もしかして洞窟の中に恐ろしい何かがあるってことかな。

 モンスター達もドラゴンと同じで怯えていたとしたら、ここら一帯から離れてどこかへ移り住もうとしたなら、あの大群での移動も町への進撃も説明がつく。でもドラゴンやモンスターまで怯える何かって何だろう。


「気になるし入ってみよう。クリスタはお留守番でもいいよ?」


 怖がってるのに無理に付いて来る必要はない。ただの様子見だし。

 クリスタは首を横に振ってから私を真っ直ぐ見た。

 そっか、パートナーの傍に居たいってことだね。ありがとう。


「じゃあ行こう。何か危険だと思ったらすぐ引き返そうね」


 みんなで洞窟の中に入る。

 少し歩くと日光が届かなくなるからランプを持って慎重に進む。

 普段ならこういった洞窟内にもモンスターは住んでいるけど、やっぱりここには居ない。ここに居たモンスターもおそらく、今日の進撃に加わっていたんだろうな。モンスターがどこから生まれるのかなんて知らないし、いつかまたゴールドス周辺に出没するんだろうけど、静かすぎて少し寂しい気もする。


「ん? なあ、曲がり角に光が見えるぜ」


「え、そんなわけって本当、まさかどこかに通じていたわけ?」


 洞窟じゃなくてトンネルだったってこと?

 うーん、地図には詳しく描いてないから分からない。

 仮にこのまま外に出ちゃうなら、クリスタ達が怖がっていた何かはどこにあるんだろう。まさか見逃した……いや、隅々まで観察したし見落としなんてない。だからといってクリスタ達が勘違いで怖がっているなんてないだろうしなあ。


 光に近付く。この道を左に曲がったらすぐ外……へ?

 嘘、外じゃない。行き止まりっていやそれよりも!


「……ど、ドラゴン!?」


 広々とした空間で後ろの財宝を守るように、眩い黄金の体を持つドラゴンが座っていた。

 頭に乗る立派な王冠。カラフルな宝石が大量に埋まっている翼。

 このドラゴンを私は知っている。ケリオスさんがゴマと戦っている時にどこかから現れた謎のドラゴン。クリスタ達が怖がっていたものの正体はこれか。まさかこんな、洞窟の奥なんかに住んでいたなんて。


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