74 スキルで戦おう
やっと、仕事に取りかかれる。
プールは楽しかったよ私だってさ。
でも私の予定だと遊びと仕事合わせて半日、残った時間で帰るはずだったんだよ。
それがどうだ、1日プールで遊んで今日が2日目だよ。
本当なら今頃エルバニアでのんびり過ごしていたのに。
はぁ、まあ、全員で楽しんだんだし良いことか。
さあ気持ちを切り替えろ。今日は仕事だ。
スイリュウ付近での依頼は3件。
ブルーホース15体の討伐。
ウェザーボール20体の討伐。
ウォルタ草30本の採取。
たぶん1日頑張れば終わるでしょ。
「まずはブルーホース討伐からやろっか。アレも試したいし」
「昨日の夜に話していたやつね」
「スキルか」
そう、昨夜2人にはスキルのことを相談した。
ケリオスさんやゴマなんかの『ぷれいやー』は戦いでスキルを多く使用している。
私は今まで〈アナライズ〉のスキルしか使ったことがないし、自分がどんなスキルを使えるかすら把握していない。
私が強くなるためには、まず自分のスキルを使いこなす必要がある。
そのために今日の討伐依頼を利用出来ないかと考えた。
実戦でスキルを使ってみて効果を確認するんだ。
「標的発見」
早速実験台……じゃなくてブルーホース1体を発見。
立派な青い馬だけど体には鱗が生えている。受付嬢さん曰く、肉食で獰猛だから人間を襲うことも多く、定期的に討伐依頼が出されるんだったな。
「何のスキルから試すの?」
「んんー、何にしようかな」
私はライダーとガーディアンのジョブを持っているから習得したスキルが多い。
まあ『ぷれいやー』は私以上に多くスキルを習得しているんだけどさ。
タキガワさんはフェンサー、ビショップ、マジックナイトが覚えるスキルを持つ。
カオスはもっと多く、ファイター、フェンサー、ランサー、アーチャー、バトルマスター、ゴッドハンドと6種類のジョブで覚えるスキルを持っている。
この世界の住人と『ぷれいやー』の違いを話し合った時に理由は分かった。
どうやら『ぷれいやー』は好きにジョブを変更することが出来るらしい。
新しいジョブになれば当然新しいスキルを覚えられる。
使えるスキルが多いのはそういう訳だ。
残念ながら私みたいなこの世界の人間はジョブを変更出来ない。
ジョブっていうのは神様から与えられた才能みたいなもので、好き勝手に変更出来る方がおかしいんだよ。
私は一生ガーディアンと、装備品の影響で追加されたライダーのみだ。
今も付けている【竜騎の証】のような道具を持たないならの話だけど。
スキルの話に戻ると現在習得済みのスキルは14つ。
試したいのは攻撃か防御で使えるスキルかな。
使えるスキルにどんな効果があるのかはタキガワさんとカオスに聞いている。
2人は『ぷれいやー』だったから、存在する殆どのスキルを知っているらしい。
私が使えるスキルをおさらいしてみよう。
1〈アナライズ〉……相手のステータスの確認。
2〈応急手当〉……回復効果がある液体を手から出す。
3〈突進〉……素早く直進。
4〈スピードアップ〉……自分の行動力を1.5倍。
5〈エアブレイド〉……風の刃を飛ばす魔法。
6〈超突進〉……〈突進〉よりも速く直進。
7〈気分上々〉……クリティカル率、つまりダメージ上昇の確率が上がる。
8〈ディフェンスアタック〉……10秒ダメージを半減しつつ攻撃。
9〈心身金剛〉……受けるダメージを8割カット。
10〈プロテクト〉……味方への攻撃を代わりに受ける。
11〈オールガードアップ〉……味方全員の守備力を1.5倍。
12〈オールレジストアップ〉……味方全員の抵抗力を1.5倍。
13〈プリヴェンション〉……50秒間、毒や麻痺などの状態異常にならない。
14〈セイントピラー〉……光の柱で敵を焼く魔法。
こうして思い返すと私も色々出来るようになったな。
ブルーホースはまだ私達に気付いていないし、まずはアレを使ってみよう。
「〈アナライズ〉」
【名 前】 ブルーホース
【レベル】 5
【ジョブ】 モンスター
【熟練度】 ☆
【生命力】 95/95
【魔法力】 16/16
【攻撃力】 62
【守備力】 49
【聡明力】 3
【抵抗力】 44
【行動力】 61
【ラック】 28
これがブルーホースのステータス……よわっ。
い、いや、私が強くなったからそう感じるだけだ。
ギルドに入りたての頃に出会ったらかなりの脅威だった。
……まあ、聡明力3に関しては何のフォローも出来ないけど。
頭悪いのかな、ブルーホースって。
「遠距離から攻撃してみたらどう? 魔法は覚えたでしょ?」
「そうだね、魔法を使ってみようかな。〈エアブレイド〉!」
両手を正面に突き出して魔法名を唱えると、三日月状で薄緑の刃が飛び出る。
凄い、これが攻撃魔法。
メイジに憧れた時期があった私もついに使えるようになったんだ。
薄緑の刃にブルーホースが気付いて驚く。
ああ惜しい、咄嗟に避けようと動かれたから首を半分切り裂いただけだ。
気付かれたのはおそらく距離が遠すぎたせいか。100メートル以上離れているし、速度もドラゴンの飛行に比べたら遅いしね。攻撃に気付いて避けるくらいは出来る。
このまま待っていても直にブルーホースを出血多量で死ぬ。
首から血が出て苦しみながら、じわじわ死に近付く……モンスターとはいえさすがに可哀想。苦痛を長引かせないように追撃した方がいいな。
「〈セイントピラー〉!」
苦しそうなブルーホースの真下に魔法陣が出現する。
魔法陣は金色に光輝き、大きな白光を真上に放出した。
光は熱量を持っているらしくブルーホースの全身を焼いている。
もう1度〈アナライズ〉を使ってステータスを見てみると、みるみる生命力が減少していって数字が0で止まる。今度は倒せたみたい。
倒した後は青白い球体がモンスターから出て、いつも通り私の体に入る。
「ゲームの時は気にしてなかったけと、少し綺麗な魔法ね」
「優しい光だよね。こういう魔法は好きだな」
「強ければ見た目とかどうでもいいだろ」
「「見た目は大事!」」
気にしない人は気にしないけど、私は魔法に綺麗でお洒落なイメージを持っている。強い魔法でも見た目が悪ければ使いたくなくなる。
「次は他のスキルも試してみるね」
ブルーホースを1体倒した後で他のブルーホースを捜す。
周囲の草原を飛び回ればすぐに群れを見つけることが出来た。
次に試したいスキルは〈プロテクト〉と〈心身金剛〉かな。この2つはガーディアンが覚えられるスキルで、仲間や自分を守るためのもの。タキガワさんやカオスを私が守る必要なんてないと思うけど、もしもの時のために使いこなせるようになって損はない。
持ちドラに着陸してもらい、ブルーホースの群れにこちらを気付かせる。
今回はスキルの効果や使用の感覚を知るための戦いだ。申し訳ないけどカオスには囮になってもらい、わざと無防備になってブルーホースを挑発してもらう。
……挑発って言っても後ろ向いてお尻叩くのはちょっと。
いくら心が男の子でもそれはダメでしょ。体は女の子なんだから。
「……あいつ、無視されてない?」
「されてるね」
ブルーホースの群れはカオスを無視している。
目の下を引っ張りながら舌を出したり、煽りや罵倒の言葉を言ったり、踊ったり、背中を向けて無防備さをアピールしたけど一瞥されるだけ。ここまで挑発の才能がないとは思わなかった。
「こうなりゃアレしかねえ。スキル〈挑発〉!」
スキルを使ってようやくブルーホースの1体がカオスに向かって行く。
「……最初からそれ使えばよかったのに」
「ねー」
ブラドに乗ったままのカオスはいずれ追いつかれる速度で逃げる。
よし、私のスキルを試す機会は作れた。
味方が受けるダメージを私が引き受けるスキル。
「〈プロテクト〉!」
ブルーホースがジャンプしてカオスに跳び蹴りを放つ。
本来なら当然カオスにダメージが入るけど今は私に……あれ、衝撃とか何もないな。失敗? それともブルーホースの攻撃が外れていたとか? それともまさか攻撃が弱すぎて何も感じなかった……なんてこと、ないよね。
ステータスの板を出して自分の生命力を確認してみよう。
どれどれ、生命力は400か。
私の最大生命力は401だから1減っている。
信じられないけどスキルは成功したのか。
私は今日、生命力を減らすような怪我は負っていない。
減少したならスキル〈プロテクト〉の効果が発動中で、カオスが受けるはずだったブルーホースの攻撃を私が受けた以外に思い当たる節はない。
……にしても1ダメージか。ブルーホースが弱い、というより私が強いんだ。
私が強くなったのはいいけど、ギルドに入りたての頃みたいな緊張感が失せてくるな。
「おーい成功したのかあ?」
「成功だよありがとう! もう戻って来ていいよ!」
カオスが戻って来るけどブルーホースの群れも引き連れていた。
あの〈挑発〉ってスキルの効果がまだ残っているんだ。
ブルーホースの群れは全力でカオスを追いかけている。
「ちょっとなんで集団を引き連れてくんのよ!」
「しょうがねえだろ〈挑発〉発動中なんだから! つーか効果時間分からん!」
さっきは手加減して走っていたから今回はブルーホースよりカオスが速い。
今の私とブルーホースの位置関係……うん、上手くいけば一掃出来る。
「カオスうう! 飛んでええええ!」
私からの指示にカオスは「え、お、おう!」と戸惑いつつも了承。
空を飛ぶようカオスがブラドに指示したからブラドが飛び上がり、跳んでも届かないブルーホースの群れは一斉に止まる。これで私とクリスタの正面から味方は居なくなり、倒すべきモンスターだけが残った。
「クリスタ、あいつらにブレス!」
私の指示でクリスタが大量の水晶を吐き出す。
ブレスの速度はドラゴンの飛行速度と変わらない。魔法と比べて圧倒的な速度。
ブルーホース達は〈挑発〉の効果でカオスばかりに目がいっていて、クリスタの攻撃に気付くのが遅れている。気付いた時にはもう手遅れ。躱しきれるはずもなく、鋭く尖った水晶がブルーホース達の体を貫通した。
味方の動きで誘導して敵を1箇所に集め、ブレスなどの強力な攻撃で一気に討つ。こんな戦い方もあるんだ。出来たのは偶然だったけど、これからモンスターとの戦いで使えるかもしれないな。
「ブルーホースはこれで15体討伐し終わったんじゃない?」
「そうだね、次はウェザーボールも討伐しに行こう。まだ試したいスキルもあるし私が戦うよ」
ブルーホースの討伐証拠の部位を3人で剥ぎ取ってから、ウェザーボールを捜しにまた飛んだ。
発見したウェザーボールは白い球体状のモンスターで顔が可愛かった。受付嬢さん曰く天候を操る力を持っているらしく、スイリュウで雨を多く降らせているモンスターだ。雨が降るのはいいことだけど、降りすぎるのは困るので定期的に討伐して降雨量を調整しているらしい。
戦闘に攻撃スキルを使ってみたけど本来なら全く使う必要がなかったと思う。
基本的に温厚な性格だから攻撃すら滅多にしてこなかったし、天気を操るといっても攻撃的じゃないからダメージすら負わなかった。はっきり言えば弱い。討伐依頼初心者向けのモンスターと言える。それでもウェザーボールの討伐が難易度Cランクなのは、たぶん周辺に出るモンスターが初心者には危ないからかな。ブルーホースだって戦闘初心者が戦ったら殺されるかもしれない。
色々あったけどウェザーボール相手に私のスキルは試し終わった。
使ったのは数回だから慣れないスキルもあるけど、今後の戦闘では使っていけそうだ。
さーて、あと残った依頼はウォルタ草30本の採取依頼だしのんびり探そう。
「……ん? ねえ、下にいるドラゴンってウォータードラゴンじゃない?」
透明な角が生えた水色の肌のドラゴンが草原に座り込んでいる。
飛行する高度を下げて観察したらやっぱりウォータードラゴンだな。
俯いて小川の水を眺めている。何か嫌なことでもあったのかな。少し気になる。
「ちょっと話してみよう」




