73 心モヤモヤ、ウォーターショー
ウォータースライダーをやってからは色んなプールで遊んだ。
カオスはウォータースライダーがよっぽど怖かったらしいけど、みんなで遊んでいたら割とすぐ元気を取り戻した。
楽しかったなあ。ここに来てから4時間は経ったか。
泳いで体を動かしたのもあるけど昼食時だしお腹減ったな。
「2人共、お腹空いてない?」
「そうね、空いてきたかも」
「もう昼だろ。オレは腹ペコだぜ」
「お店あるし何か食べようよ。私もお腹空いたからさ」
プール施設の中に飲食店があるんだよね。知った時は驚いたな。
泳いだり潜ったりして遊ぶだけの場所だと思っていたしね。ウォータースライダーや観覧車、まさかの飲食店まであるとは思わなかった。
レストランもあるけど私達は弁当屋に向かう。
みんな好きな弁当を買って、パラソル付きのテーブルに座る。
「はい、クリスタのご飯」
私が器に盛ったクッキーのような食料をクリスタが食べる。
弁当屋にあって良かったな持ちドラ用の食事。
クッキーみたいな食料はドラゴンフーズと呼ばれる物。
どんなドラゴンでも食べられる、人間が生み出した食料。
見た目はともかく、味にはちゃんと甘い物や辛い物など種類がある。聞いたところによると人間が食べたら美味しくないらしい。あくまでもドラゴン用ってわけだ。
タキガワさんとカオスも持ちドラにドラゴンフーズを食べさせた。
「なあ、食べ終わったらショーでも見に行かね?」
「ショーって?」
「ウォータードラゴンショーだよ。略してウォーターショー」
ドラゴン消えちゃったじゃん。ただの水のイベントじゃん。
「イルカショーみたいなもんだよ。輪を潜ったり、複数のウォータードラゴンで揃って飛行するらしい。人気らしいから見に行こうぜ」
「面白そうじゃん。バニアちゃんはそういうの好き?」
「うーん、見たことないから判断出来ない。とりあえず見てみたいかな」
エルバニアじゃ当然ウォーターショーなんてなかったからね。
1度だけマジックショーなら見たことあるけど……マジックとじゃ比べられないよな。
まあ、何にせよ弁当を食べ終わったら行ってみよう。
今は弁当だよ弁当。お腹空いたし早く食べよう。
見慣れた肉を口に運ぶと凝縮された旨味が広がる。
ああ美味しい、やっぱり一番好きな肉はこれだなあ。
森に住んでいた時から食べていたからね。
故郷の味というか母の味というか懐かしさを感じる。
「バニアちゃん随分美味しそうに食べてるね。何のお弁当?」
「蛇肉と野菜の炒め物!」
答えたらタキガワさんとカオスが「……蛇」と呟く。
何さその引きつった笑み。蛇の肉は美味しいんだぞ。
こんなに美味しいのに町では売っている店を見かけないんだよな。
スイリュウには売っていて良かった。定期的に食べに来てもいいかも。
「ごちそうさまでした」
完食! お、2人も食べ終わったか。
丁度良く3人食べ終わったことだしウォーターショーに行こう。
ウォーターショーが開かれるのはこの施設の1番奥のイベント専用プール。
行われる時間は14時から15時。1日1回のみ。
屋内の時計を見ると13時50分だからもうすぐ始まる。
空いていた観客席に座って開始を待つ。
イベント専用プールを囲む観客席は9割以上も埋まっている。
カオスが言った通り人気イベントらしい。
広いから観客席が埋まりきらないものの、座る人間とドラゴンの数は2000を超えている。
……もうすぐだ。もうすぐ始まる。
時計の長針が14時を指した瞬間、5体のドラゴンが観客席を越えてプールの中心に降り立った。その内の1体にはラッシュガードを着た男性が乗っていて、プールに飛び込む。
あのドラゴン……クリスタと似た水色だけど鱗がない。透明な角が生えているからそこも違う。あれこそ図鑑で見たままのウォータードラゴンだ。つまりショーの主役。
「皆様お待たせ致しました。これより、ウォーターショーを開始します。1時間という長いようで短い時間、お楽しみいただければ幸いです。皆様の心に残るよう精一杯やらせていただきます」
5体のウォータードラゴンが一斉に飛び立ち、大きな水柱が上がる。
訓練されたように5体揃って飛行する。
縦に、横に、斜めに、ショーだからか加減した速度で飛び回った。
……ん? 1体だけちょっと遅いような……気のせいかな?
プール内に居る男性が手で指示を送ると飛び方が変わる。
1体1体バラけて図形を描くように飛ぶ。
いくつか描いた後、最後、星を描いて飛び、水のブレスを中心に吐く。
5つのブレスが中心でぶつかって花火のように弾けた。
綺麗だ。ウォータードラゴンのブレスはただの水なのに、水が弾けただけなのに、水飛沫がここまで綺麗だなんて思わなかった。おそらくほんの少しのズレも許されない難しさなんだろうな。クリスタにやってみてほしいけど……あ、クリスタルドラゴンが5体居ないから無理か。
お、指示役の男性が魚を持って高く投げた。
まだ生きて暴れている魚を1匹ずつ投げる度、ウォータードラゴンが1体ずつ魚を口でキャッチして空中で止まる。
「え?」
あれ、4体目のウォータードラゴンが魚を2匹食べちゃった。
5体目のウォータードラゴンは戸惑いつつも他のドラゴンと1列に並ぶ。
指示役の男性は焦った顔をしているし、観客達もおかしいと思ったのか不思議そうだ。
「今の、ミスだよね」
隣のタキガワさんに話し掛けると彼女も「そうね」と同意する。
「ショーってのもいつも完璧に成功させられるわけじゃねえんだな」
「たまにはミスするってこと?」
「うーん、普通はミスなんかしないと思うんだけど」
確かにミスというよりは……意図的に見えた気がする。
初めから4体目は魚を2匹食べるつもりのように見えた。
まあ、偶然って可能性はあるんだからミスってことにしておこう。
ショーはその後も続き、今度は水のリングを通り抜けるというもの。
5体目のウォータードラゴンがまず水を操ってリングを作り、そこを1体目が通過。次に1体目が新たなリングを作り、2体目が2つのリングを通過。それを繰り返してついに5体目が動く番。合計5つのリングを通ろうとしたけど最後のリングに羽が当たって崩しちゃった。
「今の見た?」
「うん見た見た、羽が当たっちゃったね」
「惜しかったな。それにしてもミス2回目か、毎日こうなのかね」
タキガワさんもカオスも見ていなかったか。
5体目のウォータードラゴンが5つ目のリングを通ろうとした時、リングの幅が少し狭まった。水をリング状に維持するのが難しいと言われればそれまでだけど、わざと狭めたとすれば明らかに悪意ある行為だ。
わざわざ指摘するのもどうかと思うし、結局わざとなんて根拠もない。
今は黙っていた方がいいよなー。
心がモヤモヤするなー。
ああ気になってショーに集中出来ない。
今も何かやっているけど何やってんのか全く分からない。
「これにてウォーターショーを終了します。ご覧になっていただきありがとうございました!」
「いやー、ミスはあったけど凄かったな! なんか凄かった!」
「分かる。上手く言葉に出来ないけどなんか凄かった」
あ、いつの間にかショーが終わってる。
ミスについては考えても仕方ないことか。
私はここの職員じゃないし、口出しする権利なんかないもんね。
あれが悪意あるミスだって証拠もないんだ。私の考えすぎ考えすぎ。
ショーは終わったし十分プールも楽しんだ。ついに仕事をする時間が来たか。
「よーし、プールで泳いで競争しようぜ! 負けた奴は飲み物奢りな!」
「あら不思議、アンタが最下位になる光景が目に浮かぶわ」
……ふぅ、とりあえず、話はカオスにジュースを奢ってもらってからでいいや。
さあカオス、クリスタと私にアップルジュースを奢ってもらおうか。
後書き
投稿した気でいたら投稿されていなかった話。
前話からもうすぐ1ヶ月も経っちゃうの見て驚いてしまった。




